25カ国の生産者と直取引 コーヒー市場の“第三極”へ
コーヒー豆の卸売り43%、小売り57% スーパーやカフェなど200社に納品
この企業にはベンチャーキャピタルが通って、株式上場を促しているのではないか。ITベンチャーのように爆発的な増収増益はないが、持続性の高い成長を期待できる。1991年に創業した丸山珈琲(長野県北佐久郡)は、長野、山梨、神奈川、東京に店舗を開設し、この9月に都営地下鉄表参道駅近くに10店舗目の「丸山珈琲 表参道 Single Origin Store」をオープンした。
青山通りから路地を入った一角に建つ民家をリノベーションし、1階のコーヒーショップではブレンドコーヒーを販売せず、各国の生産者から直接買い付けた約30種類のシングルオリジンコーヒーを販売。2階には24席のカフェを開設した。店内には「豆のコンシェルジュ」として、多くの競技会で優勝や入賞経験をもつバリスタが常駐している。
同社の業績は2016年12月期に年間売上高16億円・経常利益2500万円を計上し、17年12月期には18億円をめざす。コーヒー豆の卸売り、小売り、コーヒーショップの3事業を展開して、売上構成比は卸売り43%、小売り57%(通販15%、店舗42%)。卸売りでは「ザ・ガーデン自由が丘」などの食品スーパーやカフェなど納品先は200社(納品先では300拠点)。小売りの顧客には富裕層が多く、都内を例にとれば、通販顧客は自由が丘エリアと青山エリアに集中している。
じっくりと経営する方針だから株式上場は考えていない
日本のコーヒー市場は拡大基調にある。全日本コーヒー協会の統計によると、2000年に39万9298トンだった日本国内のコーヒー生豆消費量は、右肩上がりに拡大をつづけて、16年には47万2535トン。17年は1~7月に27万551トンを記録した。市場拡大を見据えて、社長の丸山健太郎氏は「スターバックスなどのセルフ式コーヒーショップに次いでブルーボトルコーヒーが日本に参入して台頭していますが、当社は第三極のポジションをめざしたい」と抱負を述べる。
こうした実績に着目して、ある銀行とベンチャーキャピタルが株式上場をもちかけてきたが、丸山氏は応じなかった。「その銀行はガッカリしていましたが、じっくりと経営していきたいのです」という。第三極をめざすという意向を抱きながらも、丸山氏はスピード成長を指向していない。デベロッパーから入った大阪や京都への出店要請も断わり、出店先は通販の顧客が多いエリアを厳選するなど慎重である。
さらに丸山珈琲を公器にもっていくのか、それとも老舗企業のように、ファミリービジネスとして営々と持続させていくのか。株式上場の打診を断わったのも、この選択を検討中だからである。丸山氏の立ち位置にも着目したい。後述するが、丸山氏の足跡は急成長志向のベンチャー企業家よりも、むしろ社会起業家に類するのではないか。
「社会起業家と言われたのは今回で2回目です。最初にそう言ったのは、経営の仕組みづくりを依頼している経営コンサルタントで、『コーヒー豆の産地直送事業はNPOの活動みたいだ』と。私は若い頃から海外放浪を通して、人間や文化への関心をもちつづけてきました」
生産者のプライドを重視して言い値で購入 評判を呼んで仕入先を25カ国に拡大
ブラジルの国際オークションで落札スペシャルティコーヒー豆を史上最高値
丸山氏の足跡を振り返ってみる。1968年に埼玉県で生まれ神奈川で育った丸山氏は、高校を卒業するとインドやアメリカを放浪する日々に入る。現地での生活費が尽きたら、帰国してアルバイトで資金を貯めて、ふたたび渡航する。その繰り返しで2年間を過ごし、21歳の時、結婚相手の両親から勧められ、両親が経営する軽井沢町のペンションの一角で喫茶店を開いた。
事業化は考えていなかった。「喫茶店でもやろうか、喫茶店しかできないという“でもしか喫茶店”」(丸山氏)で、初年度の売上高は220万円にすぎず、バレエ教師の夫人に生計を支えてもらう時期もあった。だが、コーヒー豆の選定と焙煎の研究を重ね、職人として知られるようになり、レストランや喫茶店への卸売りを開始する。
転機は90年代後半に起きた日本のコーヒー市場の激変である。喫茶店経営の専門誌2誌が休刊し、米国からスペシャルティコーヒーという概念が紹介され、シアトル系と呼ばれたセルフ式カフェチェーンが上陸して多店舗展開を進めた。この激変を受けて丸山氏は事業化にシフトする。
01年に国際オークション「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」に初参加。02年には、ブラジルCOEでスペシャルティコーヒー豆「アグア・リンパ」を当時の史上最高価格で落札した。この実績が、丸山氏が生産者とのパイプを築く契機となり、現在では25カ国・数百人の生産者から生豆を直接仕入れている。生産者が既存の輸入事業者をよそに、新規参入の丸山氏を選んだのは、プライドを重んじてくれたからだ。
「私は基本的に、生産者の言い値で買い付けします。生産者は自分が栽培した豆にプライドをもっているので、言い値に応じた私との取り引きに応じてくれたのです。さらに質の良いコーヒー豆は土壌の共通した同じ地区で採れるので、他の生産者を紹介してくれて、私がバイヤーとして知れわたるようになり、仕入れルートが増えてきました」
投資ファンドで調達した資金で生産者に前払いして経営サポート
この間、丸山珈琲の新規参入に業を煮やした他の輸入事業者が、生産者に手を廻して、丸山珈琲への出荷を止めさせようとする動きもあったという。だが、どの生産者も、言い値で仕入れてプライドを満たしてくれる丸山珈琲を優先した。
さらに決済方法も生産者にメリットを与えた。通常は納品後に支払うが、小規模生産者の場合には丸山珈琲は注文時に支払い、生産者の資金繰りをサポートしている。この決済方法は一方で自社の資金繰りを圧迫する。解決の手段にしたのがファンドの組成による資金調達で、ファンド運営会社・ミュージックセキュリティーズ(東京都千代田区)に委託して、小口の投資ファンドで支払い原資を賄ってきた。
これまでに8本のファンドから約3億円(現在稼働分含む)を調達して、先払いをつづけている。生産者を支援する取り組みは海外で評価され、04年に丸山氏は、ヨーロッパ・スペシャルティコーヒー協会主催の若手起業家賞を受賞した。以上が、丸山氏を社会起業家ではないかと思った所以である。
丸山珈琲の従業員数は概算で社員60人とアルバイト100人の160人。この規模だと社長が現場まで統括するのが通例だが、丸山氏は、年間150日前後を費やして生産地を巡回しているため、従業員と直に接する時間が限られている。「社員を採用するようになった当初から1年の半分近くを海外で過ごしているので、従業員に違和感はないようです」(丸山氏)というが、それでも海外からの遠隔指導には限界があるのではないか。
その限界を補っているのが、丸山氏が「外圧」と呼ぶコンサルティング会社の起用である。大手コンサルティング会社と契約し、業務体系や人事制度など経営の仕組みづくりやCS調査、定点観測などを行なっている。
今後の事業で計画しているのはパリへの出店である。丸山氏は「今年の海外出張は200日に増えるでしょう」と闊達に笑い飛ばした。
interviewer
引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2017年11月22日