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外食産業

株式会社ねぎしフードサービス 根岸榮治 | 100年企業をめざす普遍的な価値 独自能力は“5大商品”の提供

株式会社ねぎしフードサービス 代表取締役 根岸榮治

全店舗が新宿から30分圏内
全国・海外の出店要請を断わる

牛たん店チェーン「牛たん とろろ 麦めし ねぎし」の運営会社・ねぎしフードサービス代表取締役の根岸榮治氏は、いきなり「日本で2番目に高い山はどこですか?」と尋ねてきた。「さて、どの山でしたっけ?」。すかさず根岸氏は「お客様には1番目しかわからないのです。だから、うちは富士山をめざしています」と返してきた。

このひと言に同社の経営方針は集約され、実践の手段はランチェスター戦略である。この戦略はナンバーワン主義や集中主義を説くが、根岸氏によれば「ジャンケンのグー・パーの法則」。牛たん店を新宿に「グーと握って」出店し、この業態を新宿から30分圏内に「パーと開いて」展開してきた。同一地域に同一業態を出店してきたのだ。

現在の店舗数は直営37店舗。安定感のあるブランド力が評価され、出店要請は全国の主要都市の商業施設だけでなく、海外などからも相次いでいるが、すべて断わっている。

「ランチェスター戦略には3倍の法則もあります。1位と2位の差が3倍違うと追いつけなくなって、逆転されなくなるのです。新宿、池袋、横浜など出店エリアで3倍の差をつける経営に取り組んでいます」

では、なぜエリアを新宿から30分圏内に設定したのか。ここに同社を支える、もうひとつの理由が潜んでいる。

株式会社ねぎしフードサービス 根岸榮治社長 インタビュー画像1-1

事実前提の狩猟型経営から価値前提の農耕型経営への転換

同社が新宿に「ねぎし」1号店を出店したのは1981年。それ以前は茨城県、福島県、宮城県に約10業態20店舗を出店し、繁盛を極めたが、従業員の不正行為や集団離反に遭うなど辛酸も味わった。「因は我にあり」と受け止めた根岸氏は、新宿出店を契機に経営観の大転換を図る。それまでは「利益を上げるためだけの事実前提の経営」だったが、これを「働く仲間の幸せ・100年企業実現のための価値前提の経営」へと切り替えたのである。

「事実前提の経営は狩猟型で“満足”という目標だけを追いかけますが、価値前提の経営は農耕型であり、“幸せ”という目的を重視します。経営のモノサシは、効率重視から経営理念重視へ、部分最適から全体最適へ、個人スキル重視からチーム力重視へと変わります」

この経営を実践するには、全社員がすぐに集合できる圏内に事業所を集約することが必須で、かりに全国に点在していたら社長との面談も年に数回もとどまるうえに、毎月本社で開く店長会議などへの旅費交通費も、相当な負担におよんでしまう――「働く仲間の幸せ」という経営目的も空文化しかねないと考えて、出店エリアを新宿から30分圏内に絞り込んだのだ。

本社で毎月第二水曜日に開かれる「改革改善全体会議」には全社員が出席し、改善事例が報告されているが、この会議は24年前から開かれ、通算300回を超えた。根岸氏は「店舗を全国に広げていたら、毎月全社員が集まることは現実的にできません」と指摘する。

株式会社ねぎしフードサービス 根岸榮治社長 インタビュー画像1-2

行動規範の文末に日付
該当日に言及して浸透図る

根岸氏が100年企業への基盤固めに向けて、本格的に行動を起こしたのは1997年からで、日本経営品質大賞の受賞企業を訪問して、経営方式のヒヤリングを重ねる。だが、BSE騒動への対処に数年を要し、ふたたび研究を始めたのは2005年。根岸氏は「100年企業への普遍的な価値」として、経営理念に基づく顧客本位、社員重視、独自能力、社会との調和、この4つの価値を抽出し、それぞれに同社の要素を当てはめた。

顧客本位=『親切という企業文化』、社員重視=『働く仲間の幸せ(人の成長、100年企業)』、独自能力=『ねぎしの5大商品(クオリティ、サービス、クレンリネス、ホスピタリティ、アトモスフィア)』、社会との調和=『おいしい味づくりで楽しい街づくり・日本のとろろ文化と日本の農業に貢献します』。

これらの価値を具現化した結果、同社は2011年度に日本経営品質大賞を受賞したのだった。

日本経営品質賞への挑戦を通じて根岸氏は「経営理念を社員に共有させたら、次にお客様と取引先に共有していただき、その次に地域社会に共有していただくことを学びました」と振り返る。共有化の手段として、同社が実践したのは仕組み化である。いくら朝礼などで経営理念を唱和したところで、浸透させる仕組みがなければ空回りしてしまう。

たとえば毎年、社員、パート、アルバイトなどが経営理念を振り返る「私と経営理念」と題する文集を発行し、2015年度には368人が執筆した。クレド集も活用している。

「ねぎし精神」と命名されたクレド集に記載された行動規範の文末に(7・22)(12・27)というように数字が付けられているが、この数字は日付で、該当する日になると従業員が当該の行動規範について一言ずつ話をしている。

株式会社ねぎしフードサービス 根岸榮治社長 インタビュー画像1-3

PDCAのPから参加させて仕事を我が事として取り組ませる

「人は仕組みを通して成長するのです」と根岸氏は持論を述べるが、仕組みのひとつに各店舗に常設されたアンケートハガキの活用が挙げられる。このハガキには5大商品が5段階評価で集計され、店舗別満足度が公表されて、項目別に店舗がランキングされる。毎月2000通以上が回収され、「輝いていたスタッフ」として記入された個人に「親切賞」が授与され、その数は毎月450名に達している。

根岸氏は「アンケートをここまで有効に活用している飲食店はないのではないでしょうか」と自負する。集計項目ランキング表からは、全店舗の長所と課題が一目瞭然で、この表はそのまま改善ツールとしても活用できる。確かに実践に直結したアンケートである。

PDCAの運用も人を育てる仕組みに仕上げた。末端の社員をPから参加させて、仕事を「我が事」として取り組むように促し、Cではチェックでなくコミュニケーションを図っている。「我が事で取り組めば、たとえ失敗しても成長します」という。

株式会社ねぎしフードサービス 根岸榮治社長 インタビュー画像1-4

同社の売上高は2015年度に68億100万円。「ねぎし」に次ぐ第二業態の開発も2017年春を目途に推進中で、やはり東京や横浜など限定したエリアに出店する方針だ。

同社の業態力を評価して、しばしばM&A仲介会社が大手外食チェーンによる買収を打診してくるが、根岸氏は「文化が違うので他社と同じ資本での経営は無理です」と打診への関心はまったくなく、面会にも応じていないという。

こうして数々の修羅場を経てきた根岸氏は、後につづく若手外食経営者には「人生80年とすれば、その間に、仕事を通じていかにして世のため人のために尽くすかを大事にしてほしい」と望んでいる。

interviewer

経済ジャーナリスト
小野 貴史

引用元:フードタイムス

記事掲載日:2017年1月20日

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