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人材・派遣

株式会社フルキャストホールディングス 平野岳史 | 「どうしたら働きたい学生にお仕事を提供できるのか」からスタート 売上1000億企業へ

株式会社フルキャストホールディングス 取締役会長 平野岳史

「どうしたら働きたい学生にお仕事を提供できるのか」──。

人材サービス最大手の株式会社フルキャストホールディングスの創業者・平野岳史氏が同社の前身であるリゾートワールドを創業したのは1990年。まだ29歳のときだった。その2年後にフルキャストへ社名を変更し、軽作業の請負事業をスタート。雇用の流動化という時代の要請に合致していたことに加え、翌週払いが慣例だった登録スタッフの給与を即日払いにしたり、作業現場に遅刻しないようモーニングコールをして派遣先の信頼感を高めるなど、目配り気配りのきいたサービスで急成長をとげ、ピーク時の売上高は1000億円の大台に乗せた。

創業当時は日払いの給与を工面するために、キャッシュカードを手に銀行のATMに駆け込むなど苦労しながら会社を育て上げ、さらなる高みを目指そうとしたとき、平野氏は大きな壁に直面する。忘れもしない2007年8月3日、厚生労働省から事業停止命令を受けたのだ。労働者派遣法で禁じられた業務に登録スタッフを派遣していたというのが、その理由だった。

「たとえ自分が知らなかったことであったとしても、経営トップとして弁明の余地は一切なく、自ら結果責任を取ることを決断しました。そして同日に、コンプライアンスや派遣業務のチェック体制強化をはじめとする再発防止策とともに、代表取締役会長であった私の代表権を返上し、経営権を委譲することを発表したのです」

株式会社フルキャストホールディングス 平野岳史会長 インタビュー画像1-1

当然、1000億円企業の創業者としてのプライドがあったはず。しかし、そのとき平野氏の目に映っていたのは、短期派遣を利用していただいていた数多くのクライアントと、現場で汗を流しながら一生懸命に働いている大勢の登録スタッフの姿だったという。クライアントの仕事に支障をきたしたり、頑張ってくれている登録スタッフの就業機会を脅かすようなことがあってはいけない。それゆえ「自分のプライドなどかなぐり捨てても構わない」と平野氏は判断したのだろう。

それからは、法令に合致した派遣業務の受発注システムをどう組むか、日々のオペレーションの見直しなど、全社をあげての業務改革に乗り出す。しかし、08年のリーマンショックをきっかけに、業績は07年9月期から3期連続で当期純損失を計上した。「自己資本が100億円を超えていたこともあったのですが、このときには債務超過ぎりぎりのラインまで落ち込みました。まさに毎日、薄氷を踏む思いでした」と平野氏は振り返る。

そして、09年5月に「新3か年計画」をまとめたのを機に、同年12月に平野氏は取締役相談役に退く。さらに、14年3月にはその取締役相談役からも退いた。その理由について平野氏は、「法令に合わせて形が変わるにせよ、短期に対するニーズは不変で、クライアント、登録スタッフに対して付加価値の高いサービスはこれからも求められるという信念に変わりはありませんでした。しかし、経営から完全に離れて、人材ビジネスについて何が本当のサービスか客観的に見直すことも大切ではないかという思いが募ったのです」と語る。

そこで改めて感じたことは、やはりビジネスをしているとクライアントに寄った考えをしてしまうこと。でも決して働いてくれている登録スタッフを忘れたビジネスをしてはいけない。そして「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」のとおり、世間に受け入れられるビジネスをしなければ、事業が未来永劫続いていくことは難しい。平野氏にそう思わせた出来事があった。全権を委ねていた経営陣から短期ニーズのビジネスを継続するために、大きくビジネスモデルを変更する提案を受けたのだ。

12年10月の労働者派遣法の改正で雇用期間が30日以内の短期派遣が原則禁止されるのに伴い、アルバイトとして直接雇用してもらう短期人材紹介と、そのアルバイトの給与計算などの雇用管理代行業務に主軸を移すものであった。創業者が手塩にかけた事業を手放すことになったが、平野氏は「外部環境の変化にアグレッシブに対応していくことが重要です。例外規定で短期派遣を続けようとする同業者が大半でしたが、仮に適正に運用したら就業できるスタッフは50%、立法趣旨からしても受け入れられるものではなく、それでは地に足のついた事業になりません」と言い切る。

株式会社フルキャストホールディングス 平野岳史会長 インタビュー画像1-2

新しいビジネスモデルでは様々な変化も伴い、切り替え当初はクライアントの理解をなかなか得られなかったが、景気回復による人手不足感の高まりなどを受けて、いまでは毎月2000~3000社のクライアントが短期人材紹介を利用するようになっている。また、毎年同サービスを利用する登録者は増え、その数が年間20万人を突破するのも秒読み段階に入った。フルキャストホールディングスの想いは形を変えても選ばれ、しっかりと地歩を着実に固めつつあるようだ。

そして今年3月に平野氏は取締役会長に復帰した。「経営の前面に出るつもりはなく、坂巻一樹社長をはじめ若手の経営陣のアドバイザー的な役割に徹し、新しい取り組みがさらに軌道に乗るようにサポートしていきたい」と平野氏はいう。知見を一層深めた平野氏と、時代の変化に柔軟に対応していく坂巻社長をはじめとする若手経営陣との二人三脚によって、新生フルキャストホールディングスがどう成長していくのか、目を離すことができない。

本物の事業家とは、新たに大きな事業を2つ3つは作れるもの

2007年8月に事業停止命令を受けた際、フルキャストホールディングスの創業者で代表取締役会長を勤めていた平野岳史氏に対する世間の風当たりが一気に強くなった。なかには「たまたま短期派遣の人材サービスを手掛けて成功したのに過ぎないのだろう」といった批判もあったそうだ。しかし、平野氏はそれらを冷静に受け止め、声を荒げて反論するようなことはなかった。ただし、その一方では心のなかで、事業家として新たな闘志を燃えたぎらせていたのだという。

「偶然によってフルキャストホールディングスという1000億円企業が生まれたと見られたとしたら、私にとってとても不本意なことです。本物の事業家はどんな分野の事業であっても、決められたルールに則って、新たに大きな事業を2つ3つは作れるものだと常々考えてきました。そこで、私はそのことを自らの手で証明しようと決意しました」

株式会社フルキャストホールディングス 平野岳史会長 インタビュー画像1-3

そして、平野氏が力を入れ始めたのが、「株式会社ヘルスケア アンド ビューティパートナー(H&BP)」が関連会社に有する遺伝子検査会社「ゲノフ」による新しい健康サービス事業だった。

遺伝子検査というと特殊なものに思われがちだが、ゲノフの遺伝子検査の1つである肥満遺伝子検査はとても簡単で、頬の内側を専用の綿棒でこすって宅配便で送るだけ。また、専用サイトにアップされたカウンセリングシートに回答し、3日間の食事の内容と一緒に送信すると、「脂燃焼不足」「糖燃焼不足」「筋肉不足」など、どんな遺伝子の要因で太りやすい体質なのかを教えてくれる。

「私は体重が気になり、好きなラーメンを食べるときはチャーシューメンではなく、野菜が多目のものにしていました。しかし、この検査を受けると私の場合は糖燃焼不足で、むしろ豚肉に含まれるビタミンB1の栄養素を摂ることで、体内の糖質の燃焼が活発になることが分かりました。健康に悩む方が大勢いらっしゃいますが、このような原因と対策が分かる遺伝子検査を手軽に受けることができるのです」

平野氏の体重は、いまでは10㎏も減り、リバウンドもないそうだ。それというのも、遺伝子検査のほかに管理栄養士による食事のアドバイスを受けられるサービスも並行して利用しているから。たとえば、朝と昼に摂った食事の内容と一緒に、夜にどこのレストランで会食があるといったことをメールで送ると、管理栄養士がそのレストランのメニューを調べて、どの料理をどんな順番で食べるのがベストなのかを5分以内に教えてくれる。

「また、異常を起こした遺伝子の量を調べることによって、がんが発生するリスクを知ることのできる『RNA検査』も行なっていて、私の知人は3年以内に膵臓がんが発生する可能性が高いことが分かりました。しかし、まだ前がん状態の段階なら、食生活の改善でリスクを減らせます。その友人も管理栄養士の指導を受けることで、健康な状態を取り戻すことができました」

事業運営の陣頭指揮をとり、詳細にサービスについて説明する平野氏の姿は、東証1部企業のオーナーではなく、いち起業家に戻っているようだ。また、経営者にとって万全の体調で仕事に向き合えることは、成功の大前提であり、後輩経営者たちへのメッセージにも受け取れる。

管理栄養士のアドバイスを受ける会員の数はすでに4500人を超えており、平野氏は遺伝子ビジネスの将来性にやりがいと確かな手ごたえを感じている。

株式会社フルキャストホールディングス 平野岳史会長 インタビュー画像1-4

「遺伝子検査の結果、「β3AR型:あざらしタイプ」(糖質で太りやすい)との結果がでた平野氏の 取材当日の昼食について説明。糖質を制限するためのお弁当として、雑穀米にこんにゃく米と LGC米(低糖質米)を配合し、オリジナル独自製法米が売りのダイエット弁当となっている。」

さらに、H&BPで力を入れているのが中古携帯電話の買い取り・販売事業である「ECOMO事業」なのだと平野氏はいう。

「品質が一定し、壊れにくいスマートフォンが普及したことで、中古の携帯電話マーケットが一気に立ち上がりました。ある市場調査では、2013年末に179万台だった市場規模は2018年には326万台になると予想されています。ウェブを通した売買が中心で、市場シェアは15%前後を握っています。大手企業がこぞって参入し始めていて、シェア争い自体は厳しくなっているものの、全体のパイが急速に膨らんでいることから前年200%の伸びを見せています」

単に中古携帯電話の売買だけに目を付けたのであれば、並み居る経営者と変わらない。平野氏の凄いところは、売り買いする人にとって一番気になる中古携帯のデータ消去や、携帯がきちんと作動するかどうかを確認するシステムを構築し、自社だけでなく他社にも提供していることだ。中古携帯の売買に必要不可欠な〝インフラ・システム〟としてスタンダード化していけば、この中古携帯電話の流通業界をリードしていくことができる。

確かに平野氏は「本物の事業家はどんな分野の事業であっても、決められたルールに則って、新たに大きな事業を2つ3つは作れる」ことを証明しつつあるようだ。近い将来、この遺伝子ビジネスとECOMO事業は、短期人材サービスに加えて、平野氏を語る上で外せない代表的なビジネスになっていくことだろう。

interviewer

KSG
細川 和人

引用元:ベンチャータイムス

記事掲載日:2015年6月17日

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