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トレンダーズ株式会社 岡本伊久男 | 2度のIPO経験で得た経営の原理 “複数の球種”を使い分けて成長曲線を描く

トレンダーズ株式会社 代表取締役社長 岡本伊久男

2つのタイプのIPO経験で得た経営の原理

マクロミルの取締役CFOだった岡本伊久男氏とトレンダーズとの関わりは、2007年、顧問に就任したことが発端である。10年に監査役、11年に社外取締役という役職就任を経て14年、社長に就任した。トレンダーズが東証マザーズに上場したのは12年。岡本氏はマクロミルの創業メンバーとして同社のIPOを主導し、トレンダーズのIPOには取締役として関与した。

「2つのタイプのIPOを経験した」と振り返る岡本氏は、創業期から成長期にかけての推進力についてこう考えている。

「創業したときには集まったメンバー各々のキャラや力量などによって、時流に対して新しいビジネスをやるのか、あるいは新しくはないが改善型のビジネスをやるのかなど、いろいろな立ち上げ方があると思う。つねに私が意識していることは、環境を見て、自社を見て、競合他社を見て、マーケットの中で自社のポジションをどのように築いていけるか。つまり、どうしたら人気者になれるかである」。

トレンダーズ株式会社 岡本伊久男社長 インタビュー画像1-1

5~10年単位で“右肩上がり”の線を確実に描ける経営

マクロミルはシステム開発を強みに成長したが、リサーチ業であるため一般的な知名度は低く、いわば「玄人好みのビジネス」(岡本氏)だった。一方、トレンダーズの場合、女性マーケティングや女性起業家の支援で先鋭的なイメージが形成され、メディアに取り上げられる機会も多く、事業規模に比して知名度が高かった。

だが、岡本氏がトレンダーズに関与した当初は、管理体制をはじめとした経営基盤に強みがあるとは言いがたい状態だった。そこで岡本氏はその水準を「高校野球からプロ野球に引き上げた」。すでに企業ブランドでは資産が築かれていたので、いかにして基盤を強化して、健康体な企業としてIPOに向かうか。この1点に集中したのである。

「業績はいわゆる“右肩上がり”で推移をするのが理想であり、それをめざすべきだが、環境の変化や競合状況などでそれを毎年維持することはときに困難である。しかし5年や10年の期間で見たときには、確実に“右肩上がり”の線を描いていなければならない。それは経営者として最低限の役割だ」。

同社の現状はどうか。2014年度の業績は減収減益で、売上高18億3900万円、経常利益1億5900万円、純利益8500万円だった。IPO2年後にして失速した。2000年に設立されて15年が過ぎたことも踏まえれば、いまや転換期に入ったといえそうだ。

トレンダーズ株式会社 岡本伊久男社長 インタビュー画像1-2

新規事業はすべて社員が起案した

野球ファンの岡本氏は、投手にたとえて自社の現状をこう語る。「150キロのストレートを投げ続けてきた投手も、30歳ぐらいになると複数の球種を投げ分ける投手に変身する。当社はその時期に直面しているので、戦い方を変えなければならない」。

現在は同社の売上高の90%以上をマーケティングPR事業が占めているが、この状態のまま10年後に向かった場合、何倍もの事業規模へと発展できるのか。あるいは世間に必要な企業であり続けられるのか。かりに黒字を持続できても、この売上構成比のままならそれは成功とはいえない。岡本氏はそう認識している。

転換策として着手したのが①ギフトECサービス「Anny now」②訪日外国人向けメディア「ZEKKEI Japan」③ゲーム実況に特化した動画プラットフォーム「プレイム」-の新事業である。3つの事業はすべて社員が起案した。ビジネスモデルの転換だけでなく社員の意識転換も意図して、岡本氏は「私は起案しない」と宣言し、社員に起案させたのである。

「起案した社員たちが、『何が何でも形にする』と必死になってコミットできるかどうか。それを役員会でジャッジして選定した」。

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ここ一番のマウンドに立つことで社員は育つ

社員の成長と企業の発展は相関関係にあるが、とくにベンチャー企業ではその関係が明瞭である。岡本氏も「ベンチャー企業の一番の原動力は人のバイタリティー。チャンスに対して『命を賭けます』という社員が組織にガソリンを入れてくれて、そこに火を点けることが最も重要だと思っている」と話す。

それは、背水の陣に追い込むような経験を積ませることでもある。「『打たれたら絶対にいけないが、投げ切れば必ず勝てる』というタイミングでマウンドに立たせることが、社員を成長させる」。野球にたとえる岡本氏の説明は、実態をイメージしやすい。

岡本氏の風貌には30代のような若々しさがあるが、来年1月に46歳になる。20代のときには達成したいことや欲しいものがたくさんあったし、何よりも自由を欲する気持ちが強かったが、年を重ねるにつれ、やがて絞られてきたという。今なお褪せることのない思いは、自分の心のままに自由に生きることだ。

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「たとえ大金を積まれても、NOならNO。大切な仲間をいつでも助けられる自由も持って生きたいと思う」。

「自分の人生は自分で決めれば良い。自分の決めたことに強い意志を持って取り組めば2度のIPOだって夢じゃない」。岡本氏は、ソフトだが毅然とした口調で締めくくった。

interviewer

KSG
細川 和人

引用元:ベンチャータイムス

記事掲載日:2015年11月12日

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