加盟店目線と不屈の闘魂でナンバーワン出前サイトを展開
飲食店の現場目線で
ネットとリアルを結合
どんなサービスの使い勝手も、利用の現場をつぶさに観察して初めて把握できる。夢の街創造委員会社長の中村利江さんは「どんな企画でも必ず現場でオペレーションをチェックして改善点を探す」という方針で、デリバリーサービスのポータルサイト運営でナンバーワン企業を作り上げた。
サイト運営を開始した当初は、5〜6社の競合先があったが、どこもネット企業の目線だった。デリバリーの注文を電話からメールに切り替えたら便利だろうと。「でも、それはネット企業目線で現場目線ではない」と指摘する中村さんは、現場の事情を重視する。
「飲食店の現場は慌ただしく、メールよりもFAXで注文を受けたほうが見過ごさずに済む。それに飲食店で働く人には、ITが苦手な人も多い」
同社のポータルサイト『出前館』は、消費者がパソコンや電話で注文すると、同社が注文情報をFAXで対象店舗に自動送信したうえで、確認の自動音声コールを入れる。店舗は注文の見落としや間違いを回避できる。「ネットとリアルの結合をやりきったビジネスモデル」と中村さんは自負する。
出前館加盟店の負担費用は、加盟時の初期費用3万5000円、サイト掲載料が月3000円。これに注文金額の5%が手数料として計上される。加盟のメリットは①ネット経由でチラシ購読層とは異なる顧客層を開拓②受付業務が簡素化され、オペレーションコストを削減③チラシなど販促費を削減——の3点が挙げられる。
中村さんによると「デリバリー店の販促費は売上げの8〜13%を占めるが、出前館に加盟すると約6%に削減される」という。
こうした利点が評判を呼び、加盟店舗数はピザ、寿司、弁当、洋食、中華、ネットスーパーなど1万1200店。飲食店は新陳代謝が激しいため、毎月100店強が加盟し、100店弱が解約するペースで増えてきた。登録ユーザー数は500万人、毎月のオーダー数は70万件に及ぶ。
1999年設立の同社は2006年に大証ヘラクレス(現JASDAQ)に上場した。直近の業績は2012年8月期に売上高13億5900万円、経常利益2億3100万円。今期は、強みが生かせないとの理由で終了した「お取り寄せサービス」の特別損失で、経常利益は1億7800万円に下がるが、売上高は14億5500万円と増収を見込んでいる。
2億8000万円の負債を
背負って社長に就任した
中村さんは同社の創業者ではない。コンサルティング会社を経営していた01年、取締役に招かれ、翌年社長に就任した。同社の成長性が決断の決め手だった。中村さんは振り返る。
「独立前にマーケティング部管理職を務めていたハークスレイ(ほっかほっか亭の運営本部)時代に、外食市場が縮小して中食市場が拡大していくことはわかっていた」
だが、社長に就任したとき、同社には2億8000万円の負債があった。中村さんは増資に着手する。大阪ガスから4000万円、ベンチャーキャピタル6〜7社から1億円強を調達した。さらに30人在籍していた社員を削減したが、リストラではなく、自ら範を示してふるいにかけた。
自分の給料を10万円にして「全員私より給料が多いので、私よりも働いてもらわないと困ると公言した。そして私は一番早く出社して、一番遅くまで働いた」。社員も真意を察知したのだろう。2ヵ月で20人が退職していった。
加盟店の獲得は難儀だったという。サイトの信用獲得のために、まず大手チェーンと成約させようと試みたが、「ネットから注文が入るはずがない」というのが各社の反応だった。しかも中村さんは、何度もアポイントの電話を入れたピザハットから「もう電話をしてくるな」とまで通告された。
そこで、迂回路を切り開く。業務提携をしたマイクロソフトにアポイントをとってもらって、面談にこぎ着けたのだ。ピザハットで実施した出前館の導入実験は成果を上げ、成功事例としてマイクロソフトに取り上げられ、他チェーンにも加盟が増えていく。
以後、各分野のデリバリーチェーンを開拓して、出前館を軌道に乗せたのだった。チェーンがフランチャイズ(FC)方式の場合、本部が出前館に関心を示さなくても、メリットを認めたフランチャイジーが独自に加盟する例もあるという。
次の目標は東証一部上場
M&Aも視野に
こうしてナンバーワン企業を築き上げた中村さん。次の目標は3年後に経常利益5億円達成、5年以内に東証一部への上場だ。当面の施策は、よりスピーディーに注文できるサイトの開発、スマホ対応によるシニア層の開拓、さらに出前館に続く事業も開発する。
中村さんは昨年まで3年間、カルチュア・コンビニエンス・クラブ取締役を兼任して十数件のM&Aに関与してきた。そのノウハウを活用し、新事業に向けて、出前館とシナジーを出せるリアル小売業のM&Aを視野に入れている。
座右の銘は「汝を玉にす」。中学の卒業式の日に、担任の教師が色紙に書いて手渡してくれた。この言葉が浮かんだのは赤字が4年間続いていた時期。失敗を重ねるなかで、ある事業でもう一回やろうと挑んだら成功した。そのときに思い出したのだ。「あきらめないでやりきれば新しい道が開ける。いい言葉だなあと……」。
中村さんは社員にも絶えざる挑戦を求めて「何かを変えることを常に意識してほしい」と語りかけている。
引用元:CEO社長情報
記事掲載日:2013年4月