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外食産業サービス業

株式会社トリドール 粟田貴也 | 年間100店以上を出店するうどん専門店、高成長の秘密は「業界の非常識」の実行

株式会社トリドール 代表取締役社長 粟田貴也

あえて人に依存する製麺機の導入で脱セントラルキッチンへ

株式会社トリドールという社名は知らなくても、「丸亀製麺」という讃岐うどんの専門店を知っている人は多いだろう。焼鳥・うどん・焼きそば・パスタ等の専門店を展開する外食チェーンだが、リーマン・ショックや東日本大震災を経験した以降も、年間100店舗を超えるペースで出店している成長企業だ。

2012年3月期で633店舗、13年3月期には700店舗を超える見通しで、そのうち「丸亀製麺」が約9割を占める。売上高でみれば1店舗当たり1億円弱(12年3月期)となる。

多くの企業が伸び悩み、しかも飽和状態の外食産業にあって、トリドールの成長は稀有の存在といえよう。

「ひと言でいえば、業界の”非常識”のなかに成長の秘訣があるのです」と社長の粟田貴也は語る。

「私たちの店舗では製麺を行なっていますが、その意味は”人に依存する”ということです」

粟田の言葉を普通に聞けば、違和感を感じるし、外食の常識からは外れている。

人に依存するほど味のリスクは高くなるからで、外食チェーンがセントラルキッチンを導入するのも、多店舗化に伴う味の不統一やレベル低下を防ぐためだ。

そのリスクを冒してもなお、人に依存して店舗で製麺する——。

確かにお客が見えるところで粉から麺を打ち、茹でたてを運ぶとしたらどうだろう。品質の良さやできたてのおいしさがお客に伝わるに違いない。

「大切なのはお客様が満足すること。味はもちろんですが、感動の提供が必要です。『丸亀製麺』を立ち上げるきっかけは、讃岐うどんの本場、香川県の製麺所で食べたときの感動にあります。できたてのおいしさは計り知れないし、それが感動となる。これをチェーン店舗で再現したかった」

理念の共有が図れる直営店だからおいしいものが生み出せる

非常識はまだある。

うどんの原料である小麦粉は温度・湿度に敏感で、製麺に携わる担当者の力量が問われる。人材の育成が鍵を握るが、技術的な教育は他社と比較して特別なものではないという。

「マニュアルだけだとおいしいものを作るうえで、必ずブレが生じます。大切なのは、お客様にできたてのおいしいものを食べていただきたいという思いや理念であり、それがあるから人は向上し成長する。これを理解し共有するには時間がかかります」

誰でもがすぐできるマニュアル化ではなく、手間暇かけた教育や研修など”非効率”な取り組みを地道に行なったことが、「結果的に最短距離の道を歩むことになった」(粟田)のだ。

国内店舗は12年3月期時点で600以上を展開しているが、そのすべてが直営なのも、こうした粟田社長の信念に基づいている。中期経営計画によれば15年3月期の国内店舗数の目標は1000店舗。もちろん直営店が前提だ。やはり外食産業の常識では考えられない。

朝令暮改は当たり前の即断即決が成長を持続する原動力

もともとトリドールは焼鳥チェーンからスタートした。多店舗展開には当然のごとく資金が必要で、1995年には資金調達を目的として上場を意識した。株式会社にも改組した。しかし当時の売上高は約3億円。「願望レベルだった」に過ぎない。

上場が明確な目標となったのは2000年。当初の株式公開目標は04年だったが、鳥インフルエンザの影響で、焼鳥チェーンを中心とした事業計画は、いったん白紙に戻すことを余儀なくされる。

ここで同社は方向転換を決意する。当時、大店法の改正により大手スーパーなどが出店攻勢をかけていたショッピングセンター(SC)のフードコートに狙いをつけた。当時、実演や手作りの店がなく、激戦地と言われていたものの「ここなら勝てる」と粟田は確信する。

2000年に立ち上げていた「丸亀製麺」やその他の新業態を組み合わせたフードコートでのマルチ展開をイメージして戦略を組んだ。

しかし、思わぬことから再度戦略の転換を迫られる。一つは「丸亀製麺」の爆発的ヒット。これにより会社はうどんを核とした経営に方針を変更する。もう一つは「街づくり三法」による大型店の出店規制により、出店立地をロードサイド中心へ転換したことである。

「ショッピングセンターの出店都合に合わせて全国各地に出店したおかげで、全国展開への目処が立ちました。讃岐うどんは全国で受け入れられるという確信と、スピーディーな出店に関するノウハウの蓄積が大きかったですね」

ロードサイドへの出店は「難しい」と語るが、「丸亀製麺」に限ってはほとんど失敗がない。現在では、SCのフードコート、ロードサイド、ターミナル、各種ビルの商業集積地など、どのような立地でも出店できるノウハウを”強み”として確立している。

常に挑戦者であり続けることがトップランナーになる条件

同社は06年に東証マザーズへ上場。そして、08年に東証第一部へ。10年にはハワイに子会社を設立し、翌年に1号店を開店。海外に成長の道筋を開拓しようとしている。現在、ハワイ以外にも香港、上海、北京、モスクワ、シドニー、ソウルに子会社を設立し、バンコクでは同社初のFC店を展開。13年3月期の海外店舗数は8店舗となる予定だ。

企業は時代に合わせて変化しなければ成長しないと言われるが、他社に比べるとプランからアクションにかけての時間は、はるかに速い。

「今日の問題は今日解決するのが信条。常に挑戦者であるという意識がそれを可能にしているのです。私だけでなく社員の一人ひとりが同様の認識をもって取り組んでいるからこそ進化できるのです。国内の場合、今後はコンビニエンスストアを中心とするテイクアウトとの競争、その次にはケータリングとの競争が待っています。飲食業はもはや外食産業という概念ではありません。リスクを恐れず、お客様のニーズに応え続けるという想いにブレがない限り、トリドールは、新たな業態の開発を行ない、進化しながら成長を続けていると思います」

スピード感を持って、とはよく言われるが、時代に合わせるよりも速いスピードで時代を創る試行錯誤を繰り返しているのが同社である。

引用元:CEO社長情報

記事掲載日:2013年2月

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