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外食産業 サービス業

株式会社ねぎしフードサービス 根岸榮治 | 経営品質日本一の牛タン専門店が社員に贈る「お客さまのコメント」と「雑巾」

株式会社ねぎしフードサービス 代表取締役 根岸榮治
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故郷の店を整理して1981年に東京で牛タンの専門店を開店

経営の質が問われる時代である。 米国ではこの経営の質を評価された企業に「マルコム・ボルドリッジ賞(米国国家経営品質賞)」が贈られる。受賞企業は名だたる有名企業ばかり。なかなかの狭き門だ。その日本版に日本経営品質賞があるが、これも受賞は難しい。

この賞の中小企業部門を2011年に受賞したのが、株式会社ねぎしフードサービスだ。新宿、銀座、池袋などで牛たん専門店「ねぎし」を30店舗展開する会社と言えばわかりが早い。同社の今年度の売上高は前年度比14・2%増の45億円の見通しだ。

「ここ3年半の間で既存店売上高が前年同月比マイナスになったのは、東日本大震災があった2011年3月の一回だけ。常に5〜6%の伸びを確保している。これから10年かけて新宿から30分以内のエリアに「ねぎし」を集中的に出店させ、目標の50店舗、年商80億円を達成したい」と同社社長の根岸榮治は言う。

現在の30店舗から50店舗へ拡大するだけなら、10年も必要ないように思えるがそれが違うのだという。根岸は決して急ごうとはしない。なぜか?

「働く仲間の幸せと100年企業実現のための経営」を行なっていくには、従業員の育成が何よりも大切だと考えているからである。

根岸が故郷である福島で運営していたカレーハウスやラーメン店など20店舗を整理して、新宿・歌舞伎町に1店舗目のねぎしを開業したのは1981年のこと。牛たんなら職人技術に頼ることが少なく、低カロリーかつ高たんぱくで健康志向にもマッチする。また、それまで酒のつまみとして出されることが多かった牛タンを、「ねぎし」ではとろろと麦飯を加えた食事主体のセットメニューにして、女性客も取り込めるようにした。

高尚な理念や目的を掲げても実践できなければ意味がない

その後、順調に店舗数を増やしていた根岸に大きな転機が訪れる。それは98年、日本経営品質賞を受賞したゴルフ場の支配人の講演を聴いたときのことだった。

「確かに経営理念はあったのだが、お題目を唱えているのに過ぎず、自分たちが何のために利益を追求しているかが抜けていることに気が付いた。従業員は自分たちの仕事を”他人事”として捉え、単なる”作業”にとどまっていた」と根岸は振り返る。

そして日本経営品質賞の基本理念と自社の経営理念とのすり合わせを行なった。

さらに「働く仲間の幸せ」「日本のとろろ文化に貢献する」「おいしい味づくりで楽しい街づくり」という自社のミッションを明確にし、それを実現するための仕事の目的を「お客さまの喜びと満足を得ること」「5大商品を高いレベルで提供すること」と位置づけ、活動の源泉である利益を得るように考え方を転換させたのだ。

しかし、いくら高尚な理念や目的を掲げても、実践できなければ意味がない。

「どんなことでも”わが事”ととらえて、お客様と真正面から向き合って仕事ができるようにする仕組みが何よりも重要だ」(根岸)と考えた。

ねぎしの顧客のリピート率は7割だが、この高率を維持できているのも、そうした仕組みがあるからなのだろう。

従業員の表彰には必ずお客様のコメントがついている

この顧客の喜びと満足を得るための仕組みの一つが、毎月行なわれる「親切賞」の表彰だ。店舗内のすべてのテーブルの上にはアンケート用紙が置いてあり、毎月1100通前後の回答が寄せられる。料理の味などを5段階評価する項目のほかに、意見や要望などを自由に記載できる欄があって、従業員の個人名をあげながら接客などに対するお褒めの言葉を数多くもらう。そうした従業員を毎月全員表彰しているのだ。

「久しぶりに来店したのにもかかわらず、私のことを覚えていてくれて『冷たいお茶ですね』と笑顔で迎えてくれた加藤さんの態度に一日の疲れが吹っ飛びました」

表彰された従業員の表彰状には顧客のコメントが付けられており、1000円分の食事券と共に贈られる。今年1月の受賞者は259人。従業員は正社員95人、アルバイト790人の合計885人。いかに多くの従業員が顧客から高い評価を得ているのかがわかる、

「表彰では店長がお客様のコメントを読み上げる。それが受賞しなかった従業員のヒントになるし、自分も頑張ろうという気にさせる。そして、お客様が何を望んでいるのかを考えながら仕事をするようになる」(根岸)のだそうだ。

また、同社では店舗清掃のレベルを競う「クレンリネスコンテスト」を年に2回行なっている。基準に沿って採点が行なわれ、上位に入賞すると賞金が授与される。一方、下位の3店舗には「もっと掃除をきちんとしなさい」という意味で雑巾が授与される。

この雑巾授与という不名誉な賞を1回受けたくらいならまだいいが、2回、3回と重なってくると店長は焦りを感じ始める。一緒に働いている従業員から店長としての力量に疑問符が付けられていることがわかってくるからだ。

すると店長は上位に入賞した店舗を従業員と一緒に訪問して、どんな取り組みをしているのかを教わる。そして、店に戻って全員で改善策を考え、率先して実践するようになる。

「ここで大切なことは、店長が従業員をともに働く仲間として再認識すること。時給の決定など店長には強い権限が与えられている。だからといって怒鳴っていたら、従業員は背を向けてしまう。仲間意識を持つことで初めて従業員との信頼関係が構築され、同時にリーダーシップも学ぶことができる」と根岸は説明する。

収益ランキングで最下位の店長でも堂々としている理由

こうした親切賞やクレンリネス大会などの仕組みを、根岸は「人材教育」ではなく「人財共育」だと考えている。一人ひとりの従業員が会社にとっての貴重な財産で、皆が共に育っていくという意味だ。

そして、その人財共育を進めていくうえでの重要なポイントがあるのだと根岸は言う。

「PDCA(Plan, Do, Check, Action)のサイクルがあるが、従業員もPの段階から参加してもらうことが大切。決め事を押し付けられると、人間は”他人事”ととらえてしまう。逆に自分たちが決めたことなら”わが事”としてとらえ、作業ではなく仕事を行なうようになっていくからです」

同社ならではのエピソードとして、各店舗の収益ランキングで最下位の店長でも堂々としていたことがある。収益が上がらないということは客数が少なく、店が暇だということ。それを逆手にとって店長は人財共育を徹底させ、サービスの質を高めることで、先のアンケート回答で常にトップレベルの顧客満足度を保持していたのだ。

「そもそも立地や店を決めるのは社長で、何をやっても売れないのなら社長が悪い。店長が恥じる必要などない。でも、その店で顧客満足度が一時落ちたことがあった。すると彼らは原因を全員で協議して考え、対策を話し合った。そして、すぐに顧客満足度は改善され、その改善策を全店で水平展開したこともある」

こうした数々の取り組みを評価されたのが冒頭に紹介した日本経営品質賞である。こうした取り組みがある限り同社は目標の「100年企業」を10年以内に着実に実現させていくことだろう。

引用元:CEO社長情報

記事掲載日:2013年2月

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