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販売業サービス業

株式会社スノーピーク 山井太 | 快適な不便さが売り物の世界的ブランドが新たに打ち出す「自然な生活」の心地よさ

株式会社スノーピーク 代表取締役社長 山井太

社長になったとたんに3期連続の売上げダウン

一般には知られていないが、その道の人なら誰でも知っている存在の企業は多い。

社名でもある「スノーピーク」ブランドは、さしずめアウトドアが趣味の人におけるその種の存在だ。国内のみならず海外にもその名を轟かせ、多くのコアなファンを獲得している。

同社は、いまやアウトドア用品メーカーとして、押しも押されもせぬ地位を築いており、社長の山井太も、カリスマ的存在である。本社、キャンプ場、ショップをおく新潟県三条市の5万坪に及ぶ小高い丘は「ヘッドクォーターズ」と名づけられ、スノーピークファンの聖地的位置づけになっている。

同社の出発は、山井の父が1958年に創業した金物問屋、山井幸雄商店。登山が趣味だった先代は、自ら登山用品を開発、やがて販売するようになる。その後、釣具ブランドも立ち上げ、本格的アウトドア・レジャー用品メーカーとして1971年に株式会社ヤマコウへ組織と社名を変更した。

大学卒業後外資系商社に勤めていた山井が、父に呼び戻されヤマコウに入社したのは1986年のこと。当時の売上げが約5億円(釣具4億、登山用品5000万、金物卸5000万)だった。山井はアウトドアをこれからのライフスタイルととらえ、すぐさま新規事業開拓に力を注いだ。その年には、オートキャンプ用品を本格的にリリースし、オートキャンピングのパイオニアメーカーとなった。

ブームの波に乗り、同社は大きく売上げを伸ばしていく。93年には、売上げは25億5000万円にまで膨れ上がった。しかし、この時が売上げのピークだった。

92年に先代が亡くなり、山井は96年に社長に就任。社名をスノーピークに改めた。

「僕が社長になった96年というのが、3期連続で売上げを落とし始めたその年なんです。オートキャンプブームが去って、売上げは下がる一方。99年がボトムで、売上げ14億5000万円、利益は4000万円ほど。ピーク時は利益が3億円ほど出ていましたから、深刻でした。しかもオートキャンプは僕が始めた新規事業でしたから」(山井)

初めて聞いたユーザーの意見にショックを受けた

当然のことながら山井は打開策を探った。まず始めたのが、スノーピークウェイというキャンプイベント。雑誌『BE-PAL』で参加者を募った。

「98年も終わりのことです。30組の方々と焚火を囲んでお話をする機会があったんです。これまでエンドユーザーと顔を突き合わせて話す機会がありませんでしたから、貴重な体験でした。実はそこで、ぼくは大変なショックを受けるんです。それが、経営者としての出発だったと言っていいと思います。なんと、参加者全員が、スノーピークの製品は高いと言うんです」

山井は続ける。

「当時の普通のテントが9800円か1万9800円。ウチの製品が上代10万円で、実売価格が8万円でした。僕は単にいいものだから買ってくれていると思っていたんです。他社製品に比べて4倍から8倍するけれど、永久保証付きだし使い勝手もいいから」と考えていた。

ところが、実態は違った。2万円以上のものを買おうとすると、スノーピークしかないから仕方なく買っているというのがユーザーの率直な意見だったのだ。

「テント以外も同様の価格設定ですから、これも高すぎると。さらに、どこのディーラーに行っても品揃えが悪いと指摘されました」

そこで、山井は改革を実行した。

99年に1年間かけて準備し、2000年のシーズンから問屋取引をやめ、ディーラーは1商圏に1店舗の直取引とし、1000あった店舗を250に減らした。社員全員が反対したというが、問屋マージンをなくすことで実売価格8万円のテントが5万8000円で売れるようになった。

そうして、売上げも見事にV字回復していった。

アウトドア用品のノウハウを武器に日常生活へ商品を展開

山井はまた、世界のアウトドアビジネス関連企業が一堂に会する「アウトドア・リテイラーショー1998」への出展を突破口として海外販売にも本腰を入れ始めた。現在、その輪は広がり、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの28ヵ国でスノーピーク製品が販売されるに至っている。

アウトドア分野のリーディングカンパニーとなり、世界的にブランドも確立したいま、山井は次なるステップを構想している。

それは従来のアウトドアライフ・クリエイターという位置づけから、ナチュラルライフ・クリエイターへの転換だという。

どういうことか。

「人間と自然に関わるものを扱っていこうと考えています。すでにガーデン・ファーニチャーなどは販売していますし、ウチのフリーズドライのスープや折りたたみの箸は、日常でもかなり使われています」

使われている理由ははっきりしているという。モノとしてすぐれていて、見てくれがよく、徹底的に使い勝手がいい商品を提供しているからだ。

「アウトドアでは”快適な不便さ”をキーワードに、不便さを楽しむぐらいのチューニングをしてきた」(山井)という同社は、これまで業界におけるトレンドリーダーの役割を果たしてきたわけだ。

これを新たなマーケット向けにどう戦略展開をするのか。

「これからはコンシューマーの日常生活にホンモノを提供していきたいと思っています。無印良品のような800億円の売上げは必要ありません。ただ、100億から200億円くらいはいけるのではないかと思っています」

楽しみな展開である。

引用元:CEO社長情報

記事掲載日:2012年12月

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