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外食産業

株式会社きちり 平川昌紀 | 「タニタ食堂」で注目された新外食企業の「次は合理化の仕組み販売」

株式会社きちり 代表取締役社長 平川昌紀

2000年に約30兆円だった外食市場は中食と内食の増加、あるいは消費者の節約志向を受けて、いまや25兆円を割ってしまった。しかし、「それでも、依然として巨大な市場であることに変わりない」とビジネスチャンスに確信を抱いている男がいる。外食13業態・約65店舗を展開するきちり(JASDAQグロース市場上場)社長の平川昌紀である。

この発言を裏付けるように、同社の業績は好調だ。2012年6月期(第1四半期)の売上高は前年度比9・3%増の57億7000万円、営業利益は207・3%増の4億4000万円と増収増益になった。平川は「都内への新規出店が寄与した」と分析する。主力業態「KICHIRI」の既存店売上げは前年比110%の伸びを示し、顧客の支持を着実に高めている。

きちりのブランド価値を一段と高めたのは、12年1月、健康機器メーカーのタニタと提携してオープンした「丸の内タニタ食堂」だ。ベストセラーとなった『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房刊)のリアル店舗として注目を浴びた。

同店は52坪、70席。平日の11時から15時のみの営業だが、客単価900円で1日に300〜400人が来店している。

6月には「NTT東日本関東病院タニタ食堂」をオープンした。

タニタ食堂は健康志向を象徴する飲食店として耳目を集めているが、きちりにとって単なる新業態ではない。平川が設立以来構想してきたビジネスモデルの事業化だった。後述するが、他社でも運用可能な飲食事業のプラットフォームの展開である。

居酒屋業態とは異なる「新日本様式ダイニング」

平川は1969年生まれ。甲南大学卒業後、リゾート会社勤務を経て27歳のとき、モスバーガーのフランチャイズ(FC)に加盟した。翌年に法人化する。

当初はモスバーガーFC店の経験をステップに独自の外食業態を立ち上げ、FC展開を計画していた。どんな店舗にも適用可能な、汎用性のある経営フォーマット開発を指向していたのだ。ところが、折から飲食業界でFC本部・加盟店間の紛争が頻発しはじめ、平川は直営展開に方針を切り替える。

KICHIRIの店舗数は大阪を中心に40店強。店舗の概要は標準坪数100坪、席数120席で、フードを約70アイテム、ドリンクを約120アイテム提供している。居酒屋に分類されがちだが、きちりは「新日本様式ダイニング」と業態を定義する。どこが違うのだろうか。

平川はこう説明する。

「居酒屋には男性客中心の古臭いイメージがあるが、当店は女性客が中心で、多い店では70%を占めている。料理はデパ地下の惣菜のようなイメージのメニュー構成で、居酒屋に必ずある焼き鳥を出していない。一番人気はローストビーフで、デザートを目的に来店する客もいる。居酒屋とは枠組みが違う」

4500円の客単価は高めだが、リーマン・ショック後、飲食店が続々と値下げに走ったときに逆張りするかのように、きちりは値上げを断行した。

当時、外食市場のボリュームゾーンは客単価3200円〜4500円の市場だった。競合先が激減中のトップゾーンを取りにいったのである。ひとたび値下げをすると、値上げに引き戻すときに、ブランドの認知や改装などで時間とコストがかかる。これが、値下げをしなかった理由だった。平川は「チャレンジングな判断だったが、下げるよりは上げるほうが正しいと思った」と振り返る。

この判断は的中した。KICHIRIは、20代後半から30代半ばにかけてのF1層の女性客に支持される店舗へと定着した。

さらに食材リスクへの対応力も、業態の特徴に挙げられる。KICHIRIは特定の食材を中心にした専門店でもなければ、和食店でもない。メニューを柔軟に変更できる業態である。BSEや鳥インフルエンザ、マグロの相場高騰などには、当該の食材をメニューから外すことでスムーズに対応している。

今後は首都圏の市場開拓に重点を置く。

「首都圏の市場規模は関西圏の5倍といわれる」(平川)という前提で、新宿、渋谷、秋葉原などのターミナル駅へのドミナント戦略を中心に、沿線も含めて150店を出店していく計画だ。

事業プラットフォームを他社に提供していく

ここに来て、同社は自社業態の多店舗化に次ぐ新たな事業に着手した。先に述べたプラットフォームの展開である。プラットフォームとは、一括物流、情報システム、給与計算、業務合理化などの仕組み。これを他社に提供していくのだ。

同社は自社で構築したプラットフォームで業務の効率化を図り、収益性を向上させてきた。たとえば、生産者やメーカーからの食材一括購入方式や、担当者1人で2000人分の給与計算を3時間で処理できるシステムなど。これで「本社機能の合理化がかなり進んだ」(平川)という。

この仕組みは外食事業に進出する企業や、本部機能が不十分な外食企業にとって、利用価値が高いと平川は見た。自社内でこうしたシステムを構築すれば、相応の投資と期間を伴い、費用対効果は不透明だ。そこに十分な需要があると見通しているのだ。

提供の対象としている業種は①健康、ダイエット②音楽、ゲーム③農業、漁業、畜産④外食——の4分野。前述したタニタ食堂はこのプラットフォームを活用して、社員食堂を事業化した。きちりと同規模の外食チェーンも活用している。この事業の収益は来期以降、数値計画に盛り込む方針だ。

今期の売上高はKICHIRIに次ぐ業態「いしがまハンバーグ」の認知度アップなどを受けて、12・5%増の65億円、営業利益は27・2%増の5億6000万円を見込んでいる。当面の目標は3年後に売上高100億円、店舗数100店の達成だ。

「外食産業の新しいスタンダードの創造」——。これが、きちりの事業コンセプトである。FCとは異なる汎用性のある仕組みの展開は、まさにスタンダードの創造といえよう。

引用元:CEO社長情報

記事掲載日:2012年12月

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