【山本化学工業株式会社】超ハイスペックのものづくりで世界に浸透 商品のコンセプトは「価格より価値」

代表取締役社長/山本富造

製造

このウェットスーツのお蔭で漂流しても助かった

ダイビング、ウィンドサーフィンなどのマリンスポーツ用やトライアスロン用のウェットスーツのラバー素材を開発・製造する山本化学工業。ウェットスーツで、世界の70%のシェアを占めており、その素材を使用するスポーツウェアメーカーのパンフレットにはヤマモトの素材の使用が明記されている。それが信頼性の証となっているからだ。まさに、ラバー開発技術において日本が世界に誇る企業と言っていいだろう。

「トライアスロン用のウェットスーツでは、日本でも世界でも、いまやほぼ100%に近いシェアと言っていいですね。とにかく、これを着ると速い。速いから、安い高い関係なしに売れますね」

と、自信をもって語るのは同社の山本富造社長だ。

「われわれが目指しているのはプライス&ヴァリュー。価格より価値が大幅に上まわっていなければならない、というのがコンセプトなんです。そういう製品を作ること。日本人が世界でやらないといけないのはそれやと思います」

同社では売上げの7%を研究調査費に充てているという。1回何百万円もかかるテストを幾度も重ねることさえある。

言うまでもなく、同社の素材は薄くて軽くて速いだけではない。丈夫で温かく躰を守ってくれる。

「『このウェットスーツのお蔭で漂流しても助かった。あれを着てなかったらどうなったやろ』というような手紙が、年に1、2通は必ず届きますね。『船が突っ込んできたのに皮膚の傷だけですんだ』などというのもあります。表面がなめらかで滑る素材なので、当たっても逸れて内臓破裂にならなかったのか。いずれの場合もウェットスーツのお蔭かどうかはわかりません。でも、そういう感謝の言葉を聞くのは一番うれしいです」

そして、山本はこう続ける。

「ウチら中小企業なんやから、仕事を通じて社会貢献をしようという考えでやってます。大手と違って社会貢献事業を立ち上げることはかないませんから。この間の津波の後、ハイブリッドのウェアを作ったり、放射線の一種であるγ線を遮蔽する素材を開発したりしています。ウチには、かつてX線遮断エプロンを作っていた技術と実績がありますから、従来はγ線を7%しか遮蔽できなかったけれど今回は20%まで遮蔽できる素材を開発しました。常にオーバースペックを狙うのがウチのやり方。とにかく、これが世に出れば大いに社会に役立てると思います」

新しいものの開発に当たっては、始めるときに必ず、そのもの自体がちゃんと社会に貢献していけるものかを問うているのだという。人も会社も、社会に存在する価値がなくては何の意味もないからだ。

中小企業は超ハイスペックで製品のよさを体感してもらうしかない

そもそも山本化学工業がウェットスーツの開発に乗り出したのは、昭和30年代のいわゆる「国産化の時代」。この波のなか、防衛庁から潜水服を作るよう依頼されたのが発端だった。これまでアメリカから買っていたものを日本製に切り替えようとしたのだ。

そして、日本初の機能性に優れたウェットスーツの開発に成功。同社はさらに、水産用、レジャー用を手がけるようになり、やがてマリンスポーツやトライアスロン人口の上昇とあいまって、現在の地歩を築くに至った。

ウェットスーツは同社の売上げの約6割を占めるが、同社を有名にしたのは北京五輪、世界水泳ローマ大会で話題を集めた「高速水着素材バイオラバー」である。

これ以降水着の分野にも進出している。しかし、ルール変更によりこの素材そのものは競技会で使用できなくなった。そのため、同社はさらなる改良を加え、練習用スウィムウェア「ゼロポジション」を独自に開発・発売した。

山本は、これが最速の水着であり、記録向上に大きな役割を果たすものと信じて疑わない。この水着は、松田丈志選手にも提供されており、コナミブランドとして販売されたりスポーツクラブのルネサンスで使用されたりし、徐々に浸透している。

「その製品がよいものかどうかは体感してわかるかどうか。中小企業は超ハイスペックでよさをわかってもらうしかない」と山本は言うが、ここにも彼の強い信念が窺える。

水泳用ウェアとサポーターで売上げの2割弱、残る2割強はメディカル製品で占められている。実は、山本化学工業は近年、本格的に医療分野への参入を開始している。その主役となるのが赤外線放射素材「バイオラバー」だ。この素材は今年10月にはISO13485取得の見込みだという。

「最近話題になることの多い低体温に効果のある画期的な素材と言えます。医療機器として認められさえすれば、競合もなく市場としても青天井。世界中に売ることができ、われわれは今後医療の分野でも大いに貢献できるはずです」

世界のマーケットへ向けての同社のチャレンジはまだまだ続く。

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