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FILE NO.019
製造業

シャボン玉石けん株式会社 森田隼人 | 無添加石けんで有名な先代を継ぎ産学協同研究を契機に消火剤で海外を窺う

シャボン玉石けん株式会社 代表取締役社長 森田隼人

上場は考えていませんP&Gの無添加事業部になっては困る

前身となる森田範次郎商店を祖父が起こしたのが、1910年(明治43)。幾多の困難を乗り越えながらも、北九州の地にしっかりと根をおろし、シャボン玉石けんは昨年創業100周年を迎えた。先代の故森田光徳が、合成洗剤の危険性に気づき、すべてを無添加石けんの製造・販売に切り替えたのが74年(昭和49)。売上げはそれまでの1%に落ち、17年にわたって赤字が続いた。光明が見えたのが91年(平成3)、光徳による『自然流「石けん」読本』の上梓だった。折からの環境問題への意識の高まりの気運とぴったり合致し、翌年会社は黒字に転じた。

いまも花王、P&G、ライオンが代表する「合成洗剤会社が永遠のライバル」と語る森田隼人社長は、30歳の若さで代表取締役に就任した。森田社長は父親が45歳のときの息子。先代は一度病を得、回復したもののそれを機に社長を息子に譲る決断をしたらしい。

「まだ早いと言ったのですが、非常に頑固な父でしたから。ただ私としても、すでに、シャボン玉石けんに入社した2000年の時点で、先代の築いた『健康な体、きれいな水』のスローガンを守りながら、伸びている時期に広げていこう! と会社を継ぐ決心はしていました」

すっかり元気になり会長として院政を施くかと周囲に思われていた先代だったが、間もなく没した。

「タイミングって妙なものですね」と森田は当時を振り返る。シャボン玉石けんは現在年商およそ60億円をキープし続け、石けん工業会のデータでは、浴用石けん(3個箱)では全国9位の売上げ。全体売上げのうち、店頭が50パーセント強、通販が40パーセント弱、輸出が数パーセントという。

売上げは100億円を目指しているが、上場はまったく視野にない。

「トイレタリーが8000億円の市場規模、そのうち無添加が150から200億円を占めており、ウチがそこで一番ではあります。しかし、無添加の良さをもっと知ってもらえれば、もっと伸びていけると思っています。また、東日本大震災で半減してしまった輸出額も元に戻していこうと努めています。上場は考えていません。本当にやりたいことができなくなりますし……。P&Gに買われて『無添加事業部』になりたくはありませんから」

きりりとした男前の顔から笑みがこぼれる。そんな森田は、無添加石けんの良さを伝えるため、年間40回もの講演活動をしている。

「地道にファンを広げていくことが大切だと思っています。ただ無添加だからいいというのではなく、きちんと論理的に良さを伝えていくことが必要。営業スタッフも全員1時間の講演ができるくらいの知識を身につけています」

無添加石けんはウィルスにも林野火災にも効果ありです

森田が革新的な動きをしていないわけではない。新たな取り組みにも挑戦し、海外にも目を向けている。

実は、広島大学のウィルス研究室で殺菌・抗菌効果を調べてもらったところ、薬用成分を入れずに無添加石鹸がノロウィルスにも効果ありとの実験結果が出た。それを機に、森田は産学協同の「感染症対策センター」の設立に尽力し、2009年には広島大学のウィルス研究室との共同開発でウィルス除菌効果のあるハンドソープを発売した。

さらに昨年、初年度3000万円を投じて福岡産業医科大学と北九州市立大学と連携し「石けんリサーチセンター」を設立。石けんのメカニズムや効果に関する産学協同の開発研究を進めている。

もう一つ森田の画期的な功績として、「環境にやさしい消火剤」の開発がある。

そもそもこれは、前述した産学連携の石けん研究の基になっているもので、その名も石けん系泡消火剤「ミラクルフォーム」。

「阪神淡路大震災を教訓として、少ない水での効果的な消火活動方法の開発が急務と考えた北九州消防局が、環境への負担の少ない無添加石けんを製造しているわが社に開発の白羽の矢を立てたのです。 2001年に、同消防局と古河テクノマテリアルとともにプロジェクトを立ち上げ、03年には北九州市立大学も加わり、産官学の連携がスタートしました。わたしは最初の実験から立ち会い、燻製状態になりながら800以上の試作品を作り、ようやく7年がかりで製品化に成功しました」

石けんを加えることで表面張力が下がって広がりやすい、広がるだけでなく浸透性が高くなる。また泡になることで付着性、閉鎖性も高い。何より、17分の1の水量で同等の規模の火災が消火できるという。

この自信作は現在北九州市の他、さいたま市で採用されているが、それを発展させて完成させた林野火災消火剤は、アメリカ、カナダやオーストラリアの森林火災、インドネシアやマレーシアの泥炭火災に対して大きな効果が期待できるはず。森田は環境問題への貢献とともに、海外への販路を探っている。

先代から受け継いだ経営のモットー「好・信・楽」を守りつつ、森田は、従業員75名、平均年齢33歳の会社を力強く牽引し始めている。

引用元:CEO社長情報

記事掲載日:2012年6月

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