他社の真似できない規格で新たにモバイルペイメント事業を展開
競争の激しいレッドオーシャンの世界でもブルーオーシャンの市場はある。要はそこの見極め
普通の感覚で言えば変わっていると思われるのかもしれない。
株式会社リッチメディア社長の坂本幸蔵が起業したのは二七歳のときだった。インターネット広告代理店大手のサイバーエージェントに入社し、二年目で子会社のCAテクノロジー社の役員、四年目で常務にまでなったのに翌年には独立してしまったからだ。
それも「何をやろうかまったく考えていず、とりあえず裸一貫でスタートしよう」(坂本)と考えての起業だった。
「そもそも決められたレールの上を走るのは嫌だった」と坂本は述解する。
「自分の力がどこまで通用するか試してみたかったし、そのためには自分が暴れられる場所を自ら創り出そうと考えた」(坂本)のだ。
「こうしていればよかった、と思うような人生だけは送りたくなかった」とも。
そこで、自分で五〇〇万円を工面し、友人知人から五〇〇万円借金して資本金に充てた。
前職がインターネットの広告代理店だったから、そのまま自宅で開業し、一ヵ月目に二〇〇〇万円、二ヵ月目に三〇〇〇万円、三ヵ月目には四〇〇〇万円を売り上げた。しかも平均利益は三〇%。前金でもらっていたのでキャッシュには困らなかった。前職からコンサルティング先として付き合いのあった平成健康物語という会社と事業統合したのも、先方がその坂本の能力を見込んでのことだったろう。
坂本は「この業界で勝ち残っていくには戦略として選択と集中が重要」と説く。競争の激しいレッドオーシャンの世界でも、青い海は存在するのだそうだ。そこに資源をつぎ込む。同社で言えば、統合した相手が美容、健康、医療に強いネットの制作会社だったことから、その種のメディアに集中し、充実させた。
「この分野は薬事法などの縛りがあり、普通の代理店は参入しにくい。自分たちはドクターにアサインしているのでそれが強みになっている」と坂本は言う。
「稼働しているサイトは二〇から三〇、寝かしているサイトも入れれば数百ある」ほどのパワーなのだ。
もちろん、いくらサイトをたくさん持っていようと注目されない限りは話にならない。注目されないと売上も結果として上がらないのがこうした事業の特質である。そのためにSEOなどの施策をきっちりと行ない、同時にサイトを毎日更新するなどして、常に自社サイトを上位表示させるための制作の仕組み化を怠らない。
「検索をかけると、多くのサイトが一位から三位以内に入っているし、少なくとも最初のページに出てくる」(坂本)ほど効果も抜群なのだ。だから、こうしたSEOなどの施策自体も他社に営業し、それがまた売上につながっていく。
社員は四〇人。設立二年目にして、売上高10億円弱。営業利益もきっちり出している。すでに東証マザーズへの上場準備を進めており、来年には上場する予定である。
少なくともマレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムには拠点を置いていきたい
「ゴールはない」と坂本は言う。どんな人でもチャレンジできる環境を用意し、インターネット総合商社のような形でウェブとリアルとの連動や融合を図り、新しい市場を作っていくのが目標だと言うのだ。
来年の上場によって得た資金についても、坂本は明確な二つの計画を持っている。
一つはアジア圏を含めてグローバルに展開していくこと、そのための投資に使う。世界中の商圏への進出をめざすというわけだ。実際、四月にはシンガポール支社の開設を検討している。
そしてもう一つは社員への還元。ストックオプションから福利厚生まで充実させるし、何より上場によってその苦労を分ち合うことで誇りを持ってもらいたいのだそうだ。
そのアジア圏の進出に密接につながっているのが、新規事業であるモバイルペイメント事業だ。坂本は語る。
「この事業にはもちろん競合他社があります。でもわれわれはICカードに対応しているし、電子マネーも利用ができます。しかもセキュリティーはEMV規格(世界的なカード会社三社が決めたICカードの世界共通規格)に準拠していて、これが強みです。しかも価格は競合他社の三〇分の一なのです」
代理店を一切かませずに自分たちで開発しているからこそ実現した価格なのだそうだ。
「うまく軌道に乗れば二、三年後には一〇〇億円くらいはいくだろう」(坂本)と読んでいるのもあながち強気な予測ではない。
そもそも、ペイメント事業は他社がすでに始めていたのだが、他社が一年かけて開発したものをわずか二週間で開発した。そして他社との違いがEMV規格に準拠していることなのだと言う。他社のそれは準拠していないため、アジアでの展開はできない。だから、アジアでの横展開が可能なのだという。
「マザーズ上場の二年後にはシンガポールに上場したい。そして少なくともマレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムには拠点を置いていきたい」と語る坂本の口調はあくまで淡々としていて、何の気負いもない。
一〇年後の同社の売上はどうなっているかと聞くと、即座に一〇〇〇億円という言葉が出てきた。
引用元:CEO社長情報
記事掲載日:2012年4月