LEADERS FILE

日本のこれからを見据えたビジネスリーダーたちの次世代を切り開くメッセージを収録。

FILE NO.02
メディア・広告

加賀電子株式会社 塚本勲 | 加賀電子の独自の経営理念に学ぶ

加賀電子株式会社 代表取締役会長 塚本勲

2009年度のグループ売り上げ2000億円以上。
秋葉原の小さな一軒家から始まり、世界屈指のエレクトロニクス総合商社へと成長した加賀電子では、創業当時から変わらない独自の経営理念が受け継がれている。
「会社を設立して間もない頃の考えが、40年近く経った今に生きている」と話す創業者の塚本 勲会長に、加賀電子の企業理念について伺った。

基本的に「やりたい!」と申し出たらその考えを尊重する

インベーダーゲームやファミコンをはじめ、加賀電子が電子部品集めに奔走したからこそ生まれたヒット商品は数知れない。現在も、電子部品の卸売りや企画・開発・生産・販売等で世界のエレクトロニクス業界をリード。グループ会社は60社を超え、異業種のゴルフ練習場経営などでも大きな成功を収めている。

そのため、ビジネスチャンスを探し当てる着眼点の鋭さがクローズアップされることの多い塚本会長だが、近年はマネージメントに専念。新事業に関しては、開拓から運営、管理に至るまでを社員に一任しているという。そうした経営手法も、加賀電子が飛躍的に発展した要因のひとつといえる。その表れが、社員を信頼し、責任と権利を与えているからこそなし得る大胆な登用だ。

「新事業展開や新会社の設立については、基本的に『やりたい』と申し出てくる社員の考えを尊重しています。その代わり、『多少本社は応援するけど、会社の設立、人集め、資金繰りを全部自分でやらなきゃだめだよ』と。もちろん、失敗することもあります。アメリカで新事業を始めたはいいけど、撤退した例もありますしね。だからといって、失敗を理由にクビにはしません。その事業を言い出した社員はまったく喋れなかった英語が喋れるようになり、社長の経験も積んでいます。アメリカの事情も分かるし、その事業についての知識もあります。たまたま見込み違いで会社は1、2億円の損をしましたけど、人としての財産が残っています。本人が成長して、会社のために役立ってくれて、今では十分にもとをとっていますね」

とはいえ数値目標を達成できなければペナルティを

しかし、当然のことながら闇雲に新事業に参入しているわけではない。社内会議では、事業の可能性を役員が決裁。数値目標も設定されており、達成できなかった場合は提案した社員にペナルティが課せられる。

「会社を設立する際には、3年で期間損益プラス、5年で累積一掃をひとつの基準にしています。それが守れなかった場合は、信賞必罰で減俸です。もちろん、できると判断して任せたわけですから、失敗した場合は経営者にも責任があります。だから、私は年がら年中減俸ですよ(笑)。でも、いつまで経っても減俸というわけではありませんから、社員には常にチャンスがあります」

必要な資金提供には独自のルール グループ全体が新事業をバックアップ

また、新会社設立に必要な資金提供に関しても、加賀電子では独自のルールを設定。グループ全体が安定的に新事業をバックアップできる体制が構築されている。

「基本的には、本社を介して子会社間で貸し借りするようにしています。金利は子会社が本社に預ける場合は1・6%、借りる場合は1・3%です。預ける際に高くて借りる際に低いわけですから、銀行を使うよりもメリットは大きいですよね。だからあまりそうしていると甘えが出てくるところもあるので、過去の数字や将来性を見極めて、役員会議を通らないと借りられないようにはなっています。そして、子会社は加賀電子グループというフィールドで勝負をするわけですから、売り上げの1%を本社に上納することを義務づけています」

ガラス張り経営の中で新会社を次々成功へと。
例えば加賀スポーツ

そうした明瞭なガラス張りの経営で、塚本会長は新会社を次々と成功に導いてきた。なかでもまったく異業種のゴルフ練習場経営などを行う加賀スポーツは、メディアでも数多く取り上げられるほどの注目を浴びている。

「ゴルフ関連のスポーツ用品販売やゴルフ練習場の経営をしている加賀スポーツは、もともとコンピュータの販売を担当していたゴルフ好きの社員が始めた事業。基本的に加賀電子はエレクトロニクス関連を扱っていますが、『練習場で使っているヘッドスピードの計測器やプロジェクターで映し出すシミュレーション機器をウチで取り扱うので、その延長線上に新しいクラブやボールがあると考えてください』と言われましてね。『そこまで大義名分を立てるなら仕方ない』と始めたら、今では年商約70億円。金融機関から不良債権になった事業や雇用も持ち込まれて、年々売り上げを伸ばしています」

創業当時から変わらないベンチャー精神、ファイトの心意気

そのような加賀電子のベンチャー精神は、電子部品の卸売りをしていた創業時からまったく変わっていない。当時、塚本会長が「挑戦のマネージメント」として掲げたキャッチフレーズが、フレキシビリティの「F」、キープ・ヤングの「Y」、トライの「T」を組み合わせた「FYT」。それぞれ「世の中の変化に順応していく柔軟性」「いつまでも若々しい行動や会話」「挑戦し続ける精神」を意味し、加賀電子はこの3つによる造語の「FYT」を「ファイト」と呼んで継承している。

人気のあるところに情報が集まり商機が生まれる

したがって、新入社員を採用する際にも「FYT」にふさわしい学生を面接重視で選考。現在はタブー視されることから行ってはいないが、かつて塚本会長は営業志望の学生にいつも決まって、ある質問をしていたという。それは……。

「童貞なのかどうか(笑)。なぜそんなことを聞いていたのかというとね、笑い話じゃなくて、22歳になってまで異性の経験がないっていうのに営業の仕事はつとまらないからですよ。新しい商品や新しい市場を追いかけるためには、探究心旺盛であることが重要です。それなのに異性にも興味や探究心を持たないようでは、営業には向かないですよ。実際に聞いてみると、1割ぐらいはいましたね。あとは人物。結局、営業っていう職種は、歌手と一緒で本人に人気がなければいい仕事はとれないんです。人気があるところに情報が集まって、商売のチャンスが生まれます。そこで分からないことを聞くのを恥と思わないくらいじゃないと、商社はつとまりません。情報は氾濫していますけど、本当に必要な情報は提供してくれるものじゃなく、取ってくるものですからね」

あくまで性善説
人を信用することから始めるのが大切

さらに社員教育に関しても、塚本会長には独自の理念がある。

「根底にあるのは性善説。人は生まれながらにして、騙すような人はいないという考えです。やはり、信頼してあげなければ信頼してもらえないと思います。そのために必要なのがコミュニケーション、“飲みにケーション”といった方がいいかもしれないですね。遊びも一緒にやる。釣りもやる。ゴルフもやる。若い社員と麻雀もやる。人を信用することから始めることが大切なのではないでしょうか。『海外進出をしたいけど、人材がいない』という経営者の方の話を聞くこともよくありますが、『それは任せないからですよ』と。私の場合、英語も喋れない社員をアメリカやヨーロッパに放り込んでいるわけです。それで喋れるようになるんですから。『一生懸命英会話学校に行かせて、喋れるようになったら海外に出してやるという方法じゃあ、人は育ちません』と。今、加賀電子グループには六十以上の子会社がありますが、それぞれの社長に全部を任せて私は兼務していません。最初は少々物足りなくても、任せればできると思っています。ポストが人を作るということもありますからね。ただ、トップのポストに向かない社員も確かにいます。その場合は、本社に適材適所があります。そういうことを噛み合わせながら、思い切って任せています」

何を頼まれてもノーと言わずにやってきたその積み重ねで今がある

そのような企業文化のもとで社員が活躍し、現在はグループ売り上げ2000億円を超えるワールドワイドなエレクトロニクスの総合商社に成長した加賀電子ではあるが、創業当時は零細の電子部品卸売り販売会社に過ぎなかった。しかし、その経験が事業を多角化できる今につながっていると、塚本会長は振り返る。

「電子部品の商社から始まったことは良かったと思いますね。抵抗器などは1個あたり30銭や40銭。その代わり、何億個という単位を扱うわけですけど、額は張らない。コンピュータを売っていた人に、抵抗器を売ることはできないと思いますよ。細かいもので稼ぐという経験がなかったら、異業種への参入はできなかったと思いますね。まさに“利は元にあり”です。要は便利屋ですから、何を頼まれても『ノー』とは言わずにやってきました。その積み重ねで今があるわけですけれども、“春風の如く人と接し、秋霜をもって己を制す”。爽やかにお付き合いをして、己をわきまえて制することは常に心がけています」

interviewer

KSG
眞藤 健一

引用元:あすなろ

記事掲載日:2011年1月25日

POST

Edit

アクセスランキング

ACCESS RANKING

編集部厳選インタビュー

STAFF SELECTION
新着記事
NEW ARRIVALS