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製造業

株式会社テラプローブ 渡辺雄一郎 | 顔認証ソフト、脳波による意思伝達 社内ベンチャーで2つのテーマを研究

株式会社テラプローブ 代表取締役社長 渡辺雄一郎

新卒でNEC入社、エルピーダ出向
一貫して経営管理業務に従事

「ちょっと来い」。エルピーダメモリのテスト部門を引き継ぐ形で設立されたテラプローブの取締役 渡辺雄一郎氏は、呼び出しを受けた。取締役に就任して1年が過ぎた時である。

呼び出したのは、同社の母体であり大株主であったエルピーダメモリ社長(当時)の坂本幸雄氏である。坂本氏は、倉庫番からのたたき上げの社長として業界でも広く知られた名物経営者だ。

用件は「テラプローブの社長をやれ」。単刀直入だった。すでに取締役就任時に、坂本氏から「1年やるから勉強しろ」と、社長候補であることを示唆されていたが、渡辺氏は「私にはできません。他の人を考えてください」といったんは断った。

だが、辣腕で鳴らすような人物は、そんな拒否は意に介さない。グローバルに激しい競争が繰り広げられる半導体業界では40代の経営者は珍しくない。東証マザーズに上場した同社を次のステージに導くためには、技術者としての経験豊富な、初代、2代目の社長の次には、若く計数管理に秀でた渡辺氏が適切というのが、坂本氏の見立てだった。2011年6月、坂本氏の熱意に応え、渡辺氏は42歳でテラプローブの3代目社長に就任したのだった。

渡辺氏は関西学院大学を卒業し、1992年にNECに入社した。入社後は、半導体事業グループの経理、中央研究所での予算管理に従事した。2003年にエルピーダメモリに出向、翌年転籍し、業績管理や中期経営計画策定などに従事してきた。一貫して経営管理畑を歩み、営業や開発は経験してこなかったが、2010年6月に就任したテラプローブ取締役としての担当は営業である。顧客を廻って問題点を把握し、業績向上に取り組んだ。

2010年12月に東証マザーズに上場した同社は、当時、主力のDRAMのウエハーテストに加え、メモリ以外のウエハーテストやウエハーレベルパッケージ事業の取得など、業容拡大を図っていた。株式会社テラプローブ 渡辺雄一郎社長 インタビュー画像1-1

経営手法は企業ごとに差異がある“必読”ビジネス書は読まない

社長就任後の渡辺氏は、まず社員のモチベーション向上に注力する。

「現場で仕事をするのはトップマネジメントでなく社員です。経営戦略を社員が納得することが大切なので、各部門を戦略策定に参画させ、トップマネジメントと各部門の意思疎通を図りました。社長の私も各部門の会議に出席しました。事務方のキャリアを積んできた私が外から来て社長になったので、最初は“この人、大丈夫かな?”と不安がられていたと思います」

P・F・ドラッカーの著書などを読み、あるべき会社像や社長像を思索する経営者も多いが、渡辺氏は、経営者の必読書と言われる書籍も一切読んでいないという。

「ビジネス書の内容は正しいところもあると思いますが、ほとんどは現実と違っているでしょう。書かれていることは一般論であり、会社によって方法が違うよね、と。ただ、本を読まないといっても、半導体の専門書は相当読みました」

株式会社テラプローブ 渡辺雄一郎社長 インタビュー画像1-2

事業で注力してきたのは、顧客である半導体メーカーとの関係強化である。日本メーカーが自社投資を抑制する中、生産活動のサポートを担う同社は、2つの施策を打った。ひとつはオペレーションだけでなく開発からの受託で、もうひとつは設備投資の負担である。これらによって、テストについては同社にすべて委託できる体制をつくったのだ。

富士通セミコンダクターとJV
ウエハーテスト事業を開始

今年1月には、富士通セミコンダクターと合弁会社「会津富士通セミコンダクタープローブ」(福島県会津若松市)を設立し、共同のウエハーテスト事業を開始した。「日本に余剰気味の生産能力を束ねて最適化することを通じて、当社のビジネスを拡大していきたい」(渡辺氏)という。

新たな収益源の候補には、2年前に社内ベンチャーで立ち上げた組み込みソフトウエアの開発も挙げられる。開発テーマは2つ。第1に画像処理技術を応用した顔認証ソフトの開発である。NEC製顔認証エンジンを組み込み向けに再構築し、それまでPC環境が必要だった顔認証システムをマイコンに組み込むことに成功した。

第2のテーマは、生体信号を用いたヒューマンインターフェイス技術の研究である。
脳波を用いて、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や高齢化で、言語やジェスチャーによる会話が困難となった人の意思伝達を可能にする技術で、熊本大学と共同研究を推進。自宅や医療介護施設などでの利用を想定した、携帯性にすぐれた小型脳波計と乾式センサーを用いた脳波測定技術を開発する計画だ。

株式会社テラプローブ 渡辺雄一郎社長 インタビュー画像1-3

日本では出る杭は打たれる
過度に目立たないほうが現実的

同社の2016年3月期は売上高227億3100万円(前期213億300万円)、経常利益25億5500万円(同13億600万円)だった。2017年3月期業績は、半導体市況が短期間で激変するため予想が困難と判断して発表していない。

渡辺氏が社長に就任して6年目。渡辺氏は創業者ではないが、その目に、若手ベンチャー企業経営者はどう映っているだろうか。「会社をグイグイと引っ張って、自社の製品に自信をもっているイメージがあります。ただ、良い製品は売れると思っている人が多いかもしれませんが、それは違います。良い製品が売れるのではなく、売れる製品が良い製品なのです」

株式会社テラプローブ 渡辺雄一郎社長 インタビュー画像1-4

さらに、昨今の定説をくつがえすような一言を投げかける。

「日本の社会では、やはり出る杭は打たれます。若い経営者は目立ちすぎないことを念頭に置いていただきたい」

経営者からは滅多に聞かれない発言だ。出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれないといわれることは多いが、これは若者にハッパをかけるための言い換えのようなもので、あまり乗せられないほうがよい。経営者なら世間とのバランスをわきまえたい。

interviewer

経済ジャーナリスト
小野 貴史

引用元:ベンチャータイムス

記事掲載日:2016/11/21

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