音声認識の“第2の波”を作り出す
音声認識専業で日本初の黒字化を実現
日本国内の病院数は約8,500で、ベッド数300床以上の病院は1,500ある。そのうち1,100以上の病院に、アドバンスト・メディアが開発した音声認識「AmiVoice(アミボイス)」放射線科向け読影レポートシステムが導入されている。また、電子カルテ向けは1,500以上のクリニックや病院に、調剤電子薬歴向けは1,800以上の調剤薬局に導入されている。その他のシステムを含めると、導入先は実に5,000施設を越えている。
導入によって、読影レポート作成、電子カルテ入力、診療情報提供書作成や服薬指導記録作成などにともなう医師や薬剤師の作業時間は、キーボード入力に比べ30%以上削減されるという。医師の身体的負担が軽減され、診察時のコミュニケーション不足が改善されたという導入効果も報告されている。
以上は一例である。このほかにも同社の音声認識システムは、自治体向け議事録作成支援やコールセンター向け自動音声応答システム、通話のテキスト記録・通話品質管理、製造/物流/建設業界向けボイス検査ソリューションなどに導入され、製品及び適用領域の拡大と利用者の増大といった成長エンジンが駆動しつつあるようだ。
1997年に設立された同社は先進テクノロジーのアーリーアドプター獲得戦略に成功し、2003年から2005年の3年間、黒字を計上したが、音声認識専業会社としては日本初の黒字化の実現だった。2005年に東証マザーズに株式上場し、一時は時価総額が1,500億円に到達し、音声認識の“第1の波”を作り上げたのだった。
マザーズ上場前に36億円を調達
技術開発に6年、ビジネス開発に10年を費やす
その淵源は1985年に設立された人工知能開発ベンチャーのインテリジェントテクノロジーに、鈴木氏が入社したことにある。設立翌年に入社した鈴木氏は、その年にカーネギーメロン大学のスピンオフ会社であるカーネギーグループ社の知識工学エンジニア養成プログラムを修了した。
帰国後は、日本でも希少な知識工学者として人工知能の実用化と普及活動に従事していたが、「優秀な知識工学者がいないと進化しないという自己進化不能な人工知能を見限って(笑)、カーネギーメロン大学に集結し、米国防総省「DARPA」主催の音声認識競技会で優勝した天才たちと組み、テーマを音声認識に切り換えて独立した」。のちに人工知能フレーバーの音声認識・アミボイスを世に出したのは、当然の成り行きと言えるだろう。
アドバンスト・メディアは技術開発に6年、ビジネス開発に10年を費やし、現在、ビジネス導入から普及への移行期に来ているが、これだけの期間を「成長のための挑戦」に使えたのは資金調達に成功したからだ。2000年、先述の天才たちが設立した会社が買収され、1年後にMBOで買戻し、筆頭株主として支援した結果、10年後に10倍のプレミアムでの売却に成功し、更なる資金を確保したのである。
自然なボイスコミュニケーションがアタリマエに
IoTとDNNが追い風になった
鈴木氏は「私たちが日本の音声認識市場を拓いてきました。グーグルやアップルも音声認識を出していますが、彼らは音声認識で儲けようとしていない。従って、私たちの市場化に影響力を有していますが、市場形成はしていません。」と明言する。そして、第3次のAIブームのきっかけとなり、囲碁戦で天才棋士に勝利したグーグルの「アルファ碁」にも搭載されて一躍脚光を浴びたディープニューラルネットワーク(DNN)がアミボイスにも装備され、一層の精度向上がなされ、愈々、音声認識の“第2の波”による市場形成が進み始めてきた。
追い風も吹きはじめた。それはIoTの時代の始まりである。
「潜在的な需要を顕在化するアイデアが次から次へとサービスの形で生み出され届けられるIoTの時代は人とキカイとの自然なボイスコミュニケーションを必要とし、アタリマエにします」。
同社はビジネス開発からビジネス導入へと赤字続きの苦しい音声認識市場形成の道程を歩んできたが、この“第2の波”によって「黒字化が確実に見えてきました」(鈴木氏)という。
ゴール設定能力、俊敏さ、持続力
成長に必要な資質をもつ強み
鈴木氏は先進テクノロジーを核とするベンチャー企業経営のキモは①世界水準の技術開発②その技術ならではの魅力的な製品開発③顧客(認知の)獲得――この渦巻き状に成長するポジティブ・スパイラルにあると考えている。「成長とは、出来ないことを出来るようにすることです」「企業が成長するためには経営者である私自身が成長しつづけなければならない」と語る鈴木氏は1952年生まれである。還暦を過ぎてもなお、あくなき成長をつづける秘訣は何だろうか。
「私は、成長するための重要な資質である『出来ない目標の設定力、それを出来そうなマイルストーンに砕く力、そして、俊敏で諦めない行動力』に長けた人間です」。
もうひとつ、着目したいポイントがある。成功を収める経営者には何かしら近未来の予知能力が備わっているものだが、鈴木氏は、さらに踏み込んで近未来を見据えている。「私の未来感ははずれません。何故なら、私は予言者ではなく、未来を設定し、それを実現するまで諦めずにやり抜く人間だからです」。つまり、みずから近未来の像を描いたうえで、そこに人々を連れてゆく。「経営者の役割は、みずから設定したゴールにビジネスに関わる人々を連れてゆくことです」と力を込めた。
interviewer
引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2016年8月1日