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日本のこれからを見据えたビジネスリーダーたちの次世代を切り開くメッセージを収録。

FILE NO.0178
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株式会社オールアバウト 江幡哲也 | 良い会社とは、長くつづく会社 “筋の良い経営”でスキルワーカー輩出

株式会社オールアバウト 代表取締役社長 江幡哲也

多くの人たちに影響を与える
規模拡大へIPOは必然の結果

オールアバウト社長・江幡哲也氏の様々なメディアでの発言を読むと「ビジネスプランの筋の良さ」「世直し」がキーワードのように登場する。同社の核をなす言葉のようだが、真意は何だろうか。江幡氏が言及したのは、良い会社とは何か、良いサービスとは何かという普遍的な経営課題である。

「持論として、長くつづく会社、長くつづくサービスだと思っている。この先の大きな環境の変化を見立てて変化に対して、価値を提供しつづけられるコアとなる力をつけることが重要だ。ここに着目してサービスを設計すれば、多少の変化があっても、長く世の中に役立ちつづけられる。そんな考え方で経営をやってきた。」

株式会社オールアバウト 江幡哲也社長 インタビュー画像1−1

継続性を「ビジネスプランの筋の良さ」と表現したのだ。江幡氏がオールアバウトを設立した2000年は、ブロードバンドが登場した年だった。個人がインターネット上で情報を発信し、情報があふれかえる時代になってゆけば、いずれ信頼できる情報や、それを創り出す人の必要性が普遍的につづく。そう見立て、この状況に刺さるサービスを志向し、総合情報サイト「All About」を開発したのである。

長くつづくサービスに育てるには規模を拡大し、多くの人々に影響を与えつづけることが求められる。その手段として資金調達が必須で、江幡氏は「IPOは必然的なステップだった」と振り返る。

同社がJASDAQに上場したのは2005年9月13日だった。いかにもリクルート出身者らしい革新性に富んだ事業と、上場日が郵政解散で自民党が大勝利した日の2日後というタイミングから、大きくクローズアップされた。

All Aboutは個人のチカラをベースにした知のプラットフォームを目指す

一方「世直し」とは何を指し示すのだろう。江幡氏はリクルート社で様々な新規事業を立ち上げる過程で「青臭い思いを強くもつようになった」。国家と企業が中心の社会システムの行き詰まりに危機感を覚え、個人の自立が焦眉の課題であると思ったのだ。

「オールアバウトは個人の自立、つまり個人が活躍するフィールドをつくる会社でありたい。活躍している人を見て“自分もできる”と気づいてほしい。活躍している人たちがもっている現場の知恵とか知見をオープンにすることで、知恵がついて自立を促せるとか、自分の足で立って考えるとか、そういうことを2000万人や3000万人に対して影響を与えると、日本も変っていくだろうなと……」

株式会社オールアバウト 江幡哲也社長 インタビュー画像1−2

All Aboutに登録する「ガイド」と呼ばれる専門家は約900人。提供している情報は約1300分野。月間の総利用者数は約3200万人で、もっとも多い月には3800万人に達した。利用者の中心は男女ともに40歳前後である。これだけの人数に「知の流通を図れている」と江幡氏は受け止めている。

ガイドへの登録によって活躍の場を広げた人も多い。専門家としての格を上げたり、独立を果たしたり、主婦がガイドになってTV・新聞などの多数のメディアに登場するなど、All Aboutは知を扱う人材の育成インフラとしても機能している。

「多くの方々が、それまで知らなかったことをAll Aboutを読むことで知ることができたという意味で、知のプラットフォームとして、世直しの一端を担っているのではないだろうか。」

お試し購入サイト「サンプル百貨店」で流通構造の変革を促していく

しかし、いまやインターネットの機能は、IoTに象徴されるように産業構造を変革しつつある。同社も産業構造に切り込み、メディア広告事業のほか新たに7分野に取り組んでゆく。トライアルマーケティング&EC、生涯学習、グローバル、CtoC、ウェルネス、クラウドソーシング、デジタルコンテンツである。

トライアルマーケティング&ECでは、一般消費財をお試し買いできるサイト「サンプル百貨店」の伸びが著しい。メーカーはユーザーの意見を収集できるうえに、収集した口コミ情報をネットに配信するコンテンツマーケティングを展開する。消費者はお試しで購入した商品が気に入れば、スーパー、コンビニなど実店舗で購入する。いわば流通構造の変革である。

この事業の売上高は2015年度第3四半期(2015年10月~12月)に26億9300万円(前年同四半期比26・7%増)に達し、売上高構成比で最大の事業になった。

CtoCでは「これからは高額商品の個人間売買が伸びると思っている。その最たるものは家だ」(江幡氏)。この事業も流通構造の変革を促すが、消費増税がひとつの発火点になりそうだ。実施時期はともかく、膨張する社会保障財源の確保に向け、消費税は10%をステップに15%にも向かう趨勢である。

「個人間売買には消費税がかからないし、売り手と買い手との間に中抜きが発生しないので、高く売れて安く買える。諸外国を見ると消費税が伸びていく国では個人間売買が伸びている。ドイツでは中古車の65%が個人間売買で流通しているとも言われている。」(江幡氏)。

株式会社オールアバウト 江幡哲也社長 インタビュー画像1−3

カーコンビニ倶楽部と合弁
中古車の個人間売買をサポート

すでに同社は中古車の個人間売買でトライアルを開始した。カーコンビニ倶楽部と合弁会社を設立し、「カーコン・マーケット」というサービスで個人間売買をサポートしている。売り手の車を各店舗のカーコンシェルジュが専用タブレットで査定して、修復歴がないことを確認し、法定12ヶ月点検を実施して買い手に引き渡す。高額商品に必須の安心を担保しているのだ。

たとえば135万円で売却された車が、幾重もの流通費用と販売利益によって購入時には210万円に跳ね上がっていたとする。一方、この仕組みによって、155万円で売却された車が180万円で購入できるという。20万円高く売れ、30万円安く買えるという売買が想定できるのだ。

この個人間売買も、じつはAll Aboutに通底している。カーコンシュルジュもガイドも、同社は「スキルワーカー」と定義する。新たなスキルワーカーを発掘しながら、従来のスキルワーカーには新たなスキルを見につけさせ、プラットフォームを用意して活躍の場を与え、ユーザーに価値を提供する。このサイクルを循環させることこそ、オールアバウトの核心なのかもしれない。

あらためて江幡氏は持続性を強調する。

「本質的に長くつづく事業をやることが、社員のやる気にもつながると思う。時代観としては、付け焼刃的な事業を金融の力でIPOして、それがゴールになってしまうような経営もあるのかもしれない。だが、若い経営者には社会を変革することを志向してほしい。」

株式会社オールアバウト 江幡哲也社長 インタビュー画像1−4

こういう会社で働く社員は、機会創出力や自己変革力が身につき、起業家の資質が鍛えられるのではないか。機会をあらためて社員の皆さんにも話をうかがいたい。

interviewer

KSG
関 幸四郎

interviewer

経済ジャーナリスト
小野 貴史

引用元:ベンチャータイムス

記事掲載日:2016年4月11日

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