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日本のこれからを見据えたビジネスリーダーたちの次世代を切り開くメッセージを収録。

FILE NO.0143
士業金融

株式会社せおん 越純一郎 | ハゲタカのモデルになったアドバイザーに聴く

株式会社せおん 代表取締役 越純一郎

全米有数の大企業であったRJRナビスコを1989年にレバレッジド・バイアウト(LBO)によって250億㌦で買収し、世界中にその名を轟かせた世界最大のファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)。KKRは2006年に日本に上陸する際に、投資先企業を保有する期間は平均して7.5年であると公表した。 7.5年もの間には、様々な経営上のできごとがあるだろう。しかし、ファンドにいるキャピタリストでもM&Aバンカーでも、企業経営に関しては基本的に〝ペーパードライバー〟であろう。

そのことに対して「経営の〝プロドライバー〟から学んでいくことが重要です」と助言するのは、日本興業銀行(現・みずほコーポレート銀行)でインベストメント・バンキングに従事するだけでなく、自らトップ経営者として秋田の老舗医薬品卸会社だった千秋薬品などの企業再生に携わり、更に大手不動産会社、外銀、投資ファンドなどの顧問も歴任してきた、せおん代表取締役の越純一郎氏だ。

そして、越氏が経営に関する古今東西不変なものとして真っ先にあげるのが「経営理念」である。確かに、ピーター・ドラッカー、松下幸之助、稲盛和夫、永守重信ら著名な経営学者や経営者も、口を揃えて経営理念の重要性を説いている。越氏がそのことに気づく一つのきかけになったのが、1998年に米国で参加したジョンソン・エンド・ジョンソンの社内ベンチャーのチェアマンの講演会だったという。

株式会社せおん 越純一郎社長 インタビュー画像1−1

「100年以上も増収増益である理由を尋ねられたチェアマンの答えは『ミッション』でした。ミッションとは経営理念のことで、それが同社の『Credo(クレド)』です。同社の人事評価制度では、『Credoを守っていて個人業務成績も良い人』が最高ランク、『両方だめな人』は最低ランク。問題は、『Credoを守っているが個人業務成績は芳しくない人』が第2ランクだということです。つまり、個人業務成績が高くても低くても、Credoを守っていれば、上から2番目までにはなれるのです。一方、個人業務成績がよくても、Credoを守っていないと3番目の評価しかもらえません。経営理念が業績と直結していることと、経営理念の浸透の重要性がわかりました。」

効果が絶大なのに、あまり知られていない2つの実務

また、効果が絶大なのに、あまり知られていない2つの実務を越氏は指摘する。

1つ目は、世界でスタンダードになっている「ほめる人材育成」だ。「ようやく国内でも『日本ほめる達人(ほめ達)協会』が設立され、ほめる人材育成が企業に導­入されてきている。ほめ達を導入した諸企業では驚くべき業績向上がみられ、伝統ある某外食チェーンは、それによってIPOできました。だから、投資ファンドが投資先企業に「ほめ達」を導入する動きを見せています。」と越氏、買収した企業の体質改善や業績アップのために「ほめ達」導入を勧める。

2つ目は、固定資産税の「過誤納」のチェックだ。驚くことに総務省の調査によると、2009~11年度の3年度間だけで、固定資産税の取り過ぎが発覚して減額修正されたケースが全国で25万件以上もある。これは氷山の一角にすぎず、膨大な件数の誤徴収、過大徴収が頻発している。しかも、大多数の企業はそれを知らない。

「ある大手製造業は、過去5年間の過誤納の分として数億円の還付を得ました。しかもその後の毎期、税額が減り、利益が増えるのです。機関投資家は保有不動産の固定資産税の適正化と還付の実務を行っていますが、製造業や医療機関の大部分では、納税者が過誤納に気づかず、放置されたままです。」と越氏はいう。

また、越氏は国内系のファンド等では、M&Aのデューデリジェンスの際に、知的財産権(Intellectual Property)の関係がほとんど顧みられていないことを越氏は懸念している。「特許マップ」ですら作成されていないことが多いという。「ライバル企業がこぞって出願している技術分野に新たな事業化を行うと、特許侵害などで一斉に反撃を受けることも考えられます。」と越氏は警告する。

株式会社せおん 越純一郎社長 インタビュー画像1−2

更に、米国の裁判制度にも目を向ける必要があって、輸出さえ行っていない日本企業でも、アメリカからの「裁判の輸出」に遭遇することがあるので、少なくとも「Discovery」や「弁護士依頼者特権(Attorney Client Privilege)」くらいの知識の習得は必須という。

前者は相手方が有する訴訟に関係するあらゆる書類や物を提出することを要求できる制度で、米国の子会社が特許侵害で訴えられた場合、日本の親会社も対象になる可能性が高い。これを知らなかった日本企業が、(大手企業であっても)深刻な事態に陥った例は少なくない。

後者の弁護士依頼者特権は、法律上の助言を得る目的でクライアントが弁護士との間で行った秘密のコミュニケーションについて、前者による開示を拒否できる特権のこと。「特許侵害がない旨の意見書を弁護士に書いてもらっていて、それを裁判所に提出すると、弁護士依頼者特権を放棄したものと見なされます。すると、その意見書に限らず、他の一切の弁護士と相談した内容も開示せざるを得なくなります。でも、そうしたことを知らないキャピタリストが少ないことは、とても心配です。」と越氏は語る。

高度成長期のオールドノーマルから、人口減少にともなう低成長期のニューノーマルへと構造変化に対応することは、ものすごく重要である。同時に、時代が変わっても、「1+1」は引き続き「2」であるように、変化しない真実もある。経営理念の重要性は、その好例である。構造変化と不変原則とを峻別して認識するべきとの越氏の指摘を、経営の現場で、そしてM&Aの実務で役立てていただきたい。

株式会社せおん 越純一郎社長 インタビュー画像1−3

引用元:M&Aタイムス

記事掲載日:2015年8月5日

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