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FILE NO.032

西村あさひ法律事務所 松嶋英機 | 迫る中小企業金融円滑化法 期限切れ!どうなるその後

西村あさひ法律事務所 代表パートナー弁護士 松嶋英機
株式会社エフアンドエム 代表取締役社長 森中一郎
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来年4月以降の倒産続出は誤解?

松嶋 そもそも09年12月4日に施行された「中小企業金融円滑化法(以下、円滑化法)」は、政治的な判断に基づく時限立法です。当時はリーマン・ショックの影響から深刻な不況になり、このままだと日本経済を支える中小企業の倒産が続出しかねない状況でした。そこで中小企業の資金繰り悪化への対応策として、返済負担の軽減要請があれば、できる限り貸付条件の変更に努める義務を金融機関に課すという「円滑化法」が誕生したわけです。これは経済原則からすれば、異例中の異例。その背景には倒産が続出すると、政権を握ったばかりの民主党内閣も倒れかねないという事情もありました。

森中 この4月にも1年再延期されましたが、同じような判断だったのでしょうか。

松嶋 そうですね。しかし、これ以上伸ばすと地域金融機関が弱体化し、経済の健全性も損なう恐れがあるため、今回が最終延長です。

森中 現在、円滑化法による返済猶予を受けているのは中小企業の約1割にあたる30万〜40万社。そのうち2割前後の5万〜6万社は抜本的な事業再生が必要と報じられています。

松嶋 金融庁の担当者もそう話しています。今年(12年)3月末のデータによると、全国に659ある金融機関すべてが返済条件の変更に応じています。申請があった貸付本数は累計で308万7186本。そのうち284万9521本の変更が認められているので、実行率は約92・3%です。実は名寄せができないので、正確な会社数はわからないのですが、推計では30万〜40万社になります。金融機関は政府の方針に極力従っていると言えるでしょう。

森中 来年4月以降、中小企業の倒産が続出するのではないかという懸念も出ていますが。

松嶋 誤解があるようですが、そうはなりません。もし中小企業がバタバタ倒産するような事態になると、そこに貸付けている地域金融機関も破綻し、地域経済はめちゃめちゃになってしまいます。そうならないよう、政府は円滑化法の出口戦略によるソフトランディングを目指しています。

森中 お話を伺って円滑化法ができた経緯などもよく理解できたのですが、この法律は中小企業にとって事業再生のチャンスを得られる、とてもいい施策だったと私は思っています。返済猶予を受けている期間に事業を立て直し、キャッシュフローが黒字になるように指導をすることで、実際に復活した会社も少なくありません。

松嶋 たしかに、資金的に余裕ができて再建しやすくなりますね。

リスケを受けて復活した会社も少なくない!

森中 当社には財務指導室という、中小企業に特化してバックオフィスからの経営支援を行なう部門がありますが、そのなかでとくに財務面からのサポートを行なっている財務指導室という専門部隊があります。当部門がかかわった事例としては、神奈川県の水産乾物卸会社(年商15億円、従業員数22人)があります。個人商店の衰退で、取引の中心が大手スーパーにシフトしたことで価格交渉圧力に押され、粗利率の低下を余儀なくされていました。そこでリスケ(リスケジューリング)によって資金繰りを改善する一方、事業計画に基づいて不要な資産(定期預金・ゴルフ会員権・株式)の換金による債務の圧縮、粗利率の低い取引先の選別を行なうことにより、業務量を削減して人員体制を見直しました。さらに新たな収益源確保として、商品の小分け作業による付加価値の創出と、産学連携による新商品開発を推進。その結果、従業員との連帯感も増し、資金繰りは厳しいながらも組織の雰囲気が非常に良くなりました。

松嶋 乾物のマーケットは広いですから、努力次第で開拓できる余地があります。やはり経営者自らがいかに経営努力するかにかかっていますよね。

森中 そうですね。もう一つのケースは、千葉県の物品・食品の卸売会社(年商4・2億円、従業員数15人)です。本業の伸び悩みから多角化経営に乗り出したものの、飲食店や小売店鋪がことごとく失敗して本業の利益を食って赤字経営になっていました。そこでリスケによって資金繰りを改善する一方、思い切って不採算部門を廃止。現在、年間3000万円前後の経常利益を確保し、金融機関と正常な取引を行なえるまでに改善しています。

松嶋 資金繰りに余裕ができて、冷静に自分の事業を見直す機会ができたんですね。まさに政府は円滑化法によってこういう事業再生を期待していたんですよ。

森中 ただ一つ残念なのは「事業計画は1年以内に出せばいい」という条件になっているため、事業計画を出さずにリスケを受け、そのままなし崩しになっている会社が多いこと。先の2社は、事業の再生計画を立て、リスケと同時に実行したからこそ、うまくいったんです。当初、事業計画を出さなかった会社がそのまま何もしなければ、4月以降本当に倒産するかもしれません。

松嶋 金融機関の債務者区分(正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の5段階のいずれかに分類される)からすると、円滑化法の適用が受けられる会社は「要注意先」として扱ってよいことになっています。とはいえ、抜本的な事業再生が必要とされる5万〜6万社は実質破綻に近い状態。では残りの25万〜35万社はどうかというと、本当は破綻懸念先や実質破綻先であることがほとんど。すぐに倒産が続出することはありませんが、数年後はわからないでしょう。

ただ、先ほどお聞きした会社のように本気で事業再生に取り組む気があるなら、来年3月末まではまだ時間がありますし、4月以降のソフトランディグ期間にも再生のチャンスはあるはずです。

政府の目標は3,000件の事業再生

森中 具体的な出口戦略としてはどんな施策があるんですか。

松嶋 たとえば、地域金融機関ごとに「事業再生ファンド」の設立を促しています。ファンドに不良債権を売却し、自行の資産から切り離すという方法です。実際、いくつかの地域金融機関で設立の動きが出ていますが、投資会社などとの連携が必要になるため、順調には進んでいないようです。

政府は、貸出債権を返済順位が低い劣後ローンに転換するDDS(デット・デット・スワップ)の積極的な活用も促しています。DDSは、当初10〜15年程度は元本の返済がないうえ、低金利が特徴。仮に2億円の借金がある会社の場合、1億円を劣後ローンに変えると、破綻懸念先が要注意先に格上げできるので金融機関は取引を継続できます。

森中 今年4月に内閣府・金融庁・中小企業庁から公表された「中小企業金融円滑化法の最終延期を踏まえた中小企業の経営支援のための政策パッケージ」はどのようなものですか。

松嶋 事業再生できない会社はそろそろ見切りをつけ、解散するか売却するか、そういう方法も考えるべきということは政府もわかっていて、政策パッケージはその方針を示しています。3つの柱から構成され、1つ目は「金融機関によるコンサルティング機能の一層の発揮」。金融機関はコンサルティング機能を発揮して、中小企業の経営改善に努力せよ、と。来年4月以降も簡単に見放すな、ということです。

2つ目は「企業再生支援機構及び中小企業再生支援協議会の機能及び連携の強化」。政府がつくった再生機構と連携して事業再生を進めなさいということです。3つ目は「その他経営改善・事業再生支援の環境整備」。これは、事業を売却するなり民事再生するなり破産するなり、次の対策を実行しなさいということです。

森中 2つ目については、300
0件の事業再生という具体的な目標が記載されていますね。

松嶋 しかし、再生支援協議会がいままで成立させたのは年間350社前後です。そこで、これまで再生計画の標準処理時間が1社につき6カ月かかっていたところを、2カ月に短縮することになりました。2カ月ではデューデリ(デューデリジェンス:財務内容を精査し、財務リスクを把握する調査)をやっている時間はないため、再生計画は持ち込む側が準備することになっています。政府が目標を立てたわけですから、3000社程度の実績はつくるのではないでしょうか。

社長が決断すれば再生できる会社もある

森中 政策ばかりに期待して、本気で再建に取り組まないと、倒産してしまう可能性が高いですね。

松嶋 そうならないためにも、御社のような専門家に依頼して事業再生計画を作成してもらうというのも一つの考え方ですね。本来、金融機関はコンサルティング機能を発揮しなければいけない立場ですが、渉外担当者にはそんな時間はありません。御社ではどのように中小企業をサポートされているんですか。

森中 当社の財務指導室で支援を行ないます。今後は急増するであろうニーズに対応するため、当社の持つ税理士の全国ネットワーク「Tax House」に加盟する方々に事業再生のノウハウを提供して、中小企業のコンサルティングに活用してもらいます。以前は会社の経営にかかわらない税理士が多かったのですが、地域経済が衰退すると彼らの仕事も減ってしまうわけですから、最近では中小企業を積極的に支援したいという人が増えています。

松嶋 税理士は地域経済にも会社の財務内容にも詳しいわけですから、まさに適任でしょう。

森中 そう思います。それに、実は中小企業の再建パターンはそれほど多くなく、いくつかに絞られます。ですから、成功事例を提示して、どのパターンが実現できそうかを経営者に選んでもらい、決断が下されれば、あとは意外とスムーズに進むんですね。最大のハードルは社長に決断を下してもらうことです。

松嶋 本気で改善しなければ倒産しますよ、ということを納得させるのが一苦労なんですね。

森中 そうです。あるホテル経営会社は、6億7000万円の借入金をリスケしていたんですが、所有している3つのホテルのうち、不採算のホテルを売却し、その資金で2つのホテルを改築したところ、直近では7200万円の利益が出ています。こうした社長の決断で再生できる会社も少なくないと思います。

松嶋 経済合理性がある再建計画を作成し、手順を踏んで交渉すれば、金融機関も無視できないはずです。

森中 日ごろから金融機関と信頼関係を築いておくことも大切。金融機関に事業計画を提出して、計画通りにいかなくなったら、正直に状況を話して、もう一度計画を練り直するくらいのきちんとした対応をすれば、金融機関からの評価も高まります。

松嶋 政府はまだ時間的な余裕を与えているわけですが、これが最後のチャンスです。中小企業にとって生き残れるかどうかの正念場、背水の陣で臨むべきでしょう。

引用元:CEO社長情報

記事掲載日:2012年10月

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