2350社・50万人以上を診断、先行者利益で優位性をキープ
4つの事業領域のワンストップ業態を確立
3年前のことだ。リンクアンドモチベーション出身のWEBコンサルティング社長を取材した折に「どんな会社だったか?」と尋ねたら、明快な答えが返ってきた。「圧倒的な課題解決力を持った会社。圧倒的な頭脳を持つ人たちが、圧倒的に泥臭いことをしていた」。
この社長は、語気を強めて「圧倒的な」を繰り返したのだった。
2000年に設立されたリンク社は8年後に東証一部に上場したが、この間に既存の人事・組織コンサルティング会社は、新規参入の同社に独走を許したように見えなくもない。大手から個人事務所まで群雄割拠の業界で、何が「圧倒的な」競争力を発揮したのだろか。
同社が開始したサービスは人材採用、育成、人事制度設計、組織風土改革の4領域である。会長の小笹芳央氏は「それぞれの分野に先行するプレーヤーはいたが、4つをすべて担うプレーヤーはいなかった」と振り返る。
4つをワンストップで提供する。いわばオンリーワンの業態を確立し、4つを束ねるための上位概念として「モチベーションエンジニアリング」を設定した。この概念は、たんにモチベーションを向上させるという表層的な趣旨ではない。
小笹氏によると、4分野のコンサルティングはそれぞれ目的化されていた。それにメスを入れて手段に位置づけ、4つを接続する上位の目的として「モチベーションカンパニー」を設定した。
労働市場に適応できる“選ばれる会社”への手段
「これからの企業は社員に選ばれる企業にならなければならない。労働市場に適応できる企業にならなければならない。一般に企業は商品市場に向き合っているが、経済のソフト化・サービス化によって、人材に備わっているアイデアとか、ホスピタリティーとか、モチベーションなどが、商品市場での勝ち負けを決めるポイントになっている。これからは人材に選ばれる会社、つまりモチベーションカンパニーになろうと産業界に呼びかけ、それが受け入れられた。」
いかに革新的なビジネスモデルも、模倣や市況などで劣化する。人材に選ばれるかどうかが企業の盛衰に直結することは、とくに中小ベンチャー企業は嫌と言うほど経験している。この膨大なニーズに対して、同社が提供したソリューションの基幹技術は、設定した上位概念と同じくモチベーションエンジニアリングとネーミングされた。
モチベーションエンジニアリングは社会学、行動経済学、経営学、心理学などを統合して開発した独自の技術で、個人や組織のモチベーション状態を可視化・指標化する診断技術、その診断結果に基づいてソリューションを提供する変革技術で構成されている。モチベーションエンジニアリングによって開発された商品は50アイテムを超え、導入先は、年間数億円の取引をする各業界のトップ企業から、取引額50~60万円のベンチャー企業まで多岐にわたる。
「企業」「個人」「企業と個人」の3段ロケットで成長
同社の発展は3段階に分類できる。第一段階は設立から8年をかけて確立した企業支援で、他社にないワンストップサービスのヒット、小笹氏の著作活動によるブランディングなどで勢いがついた。意外にも、2002年の日韓共催FIFAワールドカップも同社の追い風になったという。
「それまでモチベーションは心理学の専門用語にとどまっていた。ところが日本の選手たちがインタビューで頻繁に『モチベーション』と口にしたので、モチベーションという言葉が一般に普及するようになった。」
第二段階に入ったのは、リーマンショックの後である。業績が踊り場に入ったことを契機に、2011年からパソコンスクールや資格スクールなどを買収して、個人のモチベーションアップとキャリアップのサポートに着手した。その後、企業と個人を結ぶ人材紹介と人材派遣にも進出した。小笹氏は「3段ロケットで成長してきた」と語る。
当然、同社をベンチマークして、追随しようとするコンサルティング会社もあるだろうが、同社は「モチベーションサーベイ」という診断だけでも、すでに約2350社・50万人以上に実施している。データの蓄積に格段の開きがあり、先行者利益によって優位性が担保されている。
採用するのは「熱くて、強くて、気持ちの良い人材」
モチベーションカンパニーを提唱する同社は、自身もまたモチベーションカンパニーでありつづけようと努めている。社員教育にモチベーションエンジニアリングを導入し、買収した十数社にも同様に取り組み、モチベーションカンパニーに変身させているが、その前提になるのが採用である。
とくに重要なのは新卒採用だ。「人材こそ会社をつくる。新卒社員が10年後の会社をつくる。」そう確信する小笹氏は設立1年目から新卒採用を始め、新卒1・2期生の中から、のちに5人の執行役が誕生している。
同社が採用するのは「熱くて、強くて、気持ちの良い人材」。その真意を聞いてみよう。
「当社はまだベンチャー企業なので、社員にはモチベーションエンジニアリングに対する思いや覚悟が必要で、そのためには熱さが欲しい。強さとはすぐにポキッと折れないこと。一人前のコンサルタントになるには5年や10年はかかるので、1年や3年で折れてしまってはいけない。気持ち良いとは、取引先だけでなく社員に対しても必要な対人能力だ。」
こうした人材を獲得するために採用説明会では、小笹氏がみずから学生に語りかけ、質問にも答えている。自社の存在意義は何か、何を成し遂げたいのか。ベンチャー企業なら経営者がみずから語りかけることが必須だが、どうすれば学生を惹きつけられるのだろうか。
「場数を踏むことで鍛えられる。場数を踏んで、いろいろな質問に答えていくうちに、労働市場で引きつけることのできる経営者に鍛えられていく。」
小笹氏による会社説明や学生とのやりとりは、たぶん惹きつけて離さないのではないか。お手本として視察したい経営者は多いかもしれない。
interviewer
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引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2016年4月14日