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FILE NO.0177
金融

株式会社ビザイン 早嶋聡史 | 売り手の多くは譲渡価格5億以下、完全成功報酬で小規模案件に特化

株式会社ビザイン 代表取締役 早嶋聡史

福岡県の経済事情に精通し、売り手に張り付いてフォロー

M&Aアドバイザリー会社の経営陣には公認会計士や金融機関出身者、コンサルティング会社出身者などが多いが、ビザインはやや毛色が異なる。

社長の早嶋聡史氏は横河電機株で研究開発、海外マーケティングを経験後、中堅中小企業に戦略アドバイスを提供するビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2007年に取締役パートナーとしてビザイン設立に参画し、2009年に代表取締役パートナーに就任した。シニアディレクターの松原良太氏は都市銀行、不動産デベロッパー、IT関連会社、住宅関連会社取締役を経て、2007年にビザインに加わった。

M&Aアドバイザリー業務のメインは中小零細企業のM&Aアドバイザリー業務で、譲渡価格は1億円以下で、5000万円前後の規模も多い。同社のある福岡県にはM&Aアドバイザリー専門会社が少なく、まして小規模案件を扱う会社はほとんどないが、後継者不在などで潜在需要は多い。このギャップに着目して、早嶋氏と松原氏は、小規模M&Aに特化したアドバイザリー業務をスタートさせたのである。

株式会社ビザイン 早嶋聡史社長 インタビュー画像1-1

早嶋氏は一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(東京都千代田区)理事にも就任し、

東北圏、関東圏、関西圏、中国圏、九州圏にパートナーを配置している。パターンとしては『買い手が東京で売り手は福岡』と『買い手と売り手ともに福岡』が多く、早嶋氏は「当社は売り手側の実態、経営者の考え方、福岡の経済事情に通じている。しかも売り手企業に張り付いて、マッチングから交渉、M&Aに関わる諸々の作法、最終譲渡契約までフォローできることが強みである」と話す。

資産価値が1500万円なら3000万円で売却できる

年間の成約件数は7件前後。売買金額のボリュームゾーンは2000万円~3000万円で、直近の最大金額は4億円である。過去には50万円、あるいは無償譲渡の案件も扱った。小規模案件ゆえに報酬体系も成功報酬が基本で、着手時に文書作成費が発生する場合もあるが、完全成功報酬が多いという。手数料体系は、売買金額1億円以下は5%、6000万円以下は350万円、3000万円以下は250万円、1000万円以下は150万円と組み立てられている。

取扱業種は建設業、製造業、IT、美容室、クリニック、サービス関連など多岐におよぶ。自社の業種と規模ではM&Aには縁がないと考える経営者も多いだろうが、成約実績を見る限り、決してそうではない。早嶋氏はこう助言する。

「相場観としては資産価値が1500万円で経常利益が300万円なら、3000万円前後の価格が付く。経常300万円なら売り上げは6000万円程度だが、この規模でも従業員が数名程度いて仕組みとして稼働していれば、M&Aによって事業を継続できる。この現実を中小零細規模の経営者に認識してほしい。判断を自分で行わないで欲しい」。

株式会社ビザイン 早嶋聡史社長 インタビュー画像1-2

子供が高学歴で活躍していると後継者になってもらえない現実

現状では売却の相談に対して、成約の可能性を見出して交渉に入るのは5割程度である。あとの5割のうち、4割は都内の関連会社に委託して事業再生に入り、もう1割は再生の可能性がないと判断して、弁護士に依頼して清算に移行している。

早嶋氏の経験によると、社長が引退しても、従業員の力か、あるいは何らかの仕組みでキャッシュを生み出せる企業には業種を問わず確実に買い手がつく。では、なぜ後継者が不在なのかと言えば、こんな背景が多いのだという。

「年商1億5000万円~2億円規模の社長の年収は1000万円ぐらいだが、20~30年前は経費も潤沢に仕えて派ぶりが良かった。子供の教育にも熱心で、その子供は優秀な大学を卒業して、一流企業で高いポストに就いていたり、起業して年商数十億円を上げていたりする。いまさら年商数億円規模の企業に興味が無い。社内に番頭はいるが、この規模の企業ではイエスマンが多く、後継者の器となりえない」。

株式会社ビザイン 早嶋聡史社長 インタビュー画像1-3

M&A後の経営は買い手の責任
あえてPMIには関与しない

一方、買い手には2つのタイプがあるという。ひとつは、戦略的にM&Aを活用する「良い買い手」(早嶋氏)だ。M&Aの成功確率は20件に1件とも言われるが、それは戦略の精度が不足しているからだ。

もうひとつのタイプは、潤沢なキャッシュを保有しているため、良い案件があれば何でも持ち込んでほしいと望むタイプだ。「こうした経営者は判断基準をもっていないので、検討に時間がかかりすぎる」(早嶋氏)。戦略の欠落もさることながら、M&Aは“鮮度が重要な旬の取り引き”であることを理解していない。

同社が関与するのは譲渡契約までで、あえてPMI(組織統合マネジメント)には関与しない。PMIにも関与するアドバイザリーが増えているなかで、なぜ関与しないのだろうか。

株式会社ビザイン 早嶋聡史社長 インタビュー画像1-4

「『買収後は買い手の責任でシナジーを出す』というのが当社の考え方だ。当社がPMIに関わってしまうと、買い手との責任の分担が不明瞭になりかねない。買い手からPMIにも関わってほしいと望んでいるかどうかは、最初の面談でわかる。その場合は『経営に自信がないのなら買収を行わないほうがよい』と話して、お断りしている」。

アドバイザリー会社としては商機の損失だが、M&Aを通して中小零細企業の活性化、資産(経営リソース)の承継を推進することが同社の指針だ。手数料稼ぎに走らず、あくまで顧客(経営者)目線に立脚し、M&Aアドバイザー業務を推進している。

interviewer

KSG
眞藤 健一

interviewer

経済ジャーナリスト
小野 貴史

引用元:M&Aタイムス

記事掲載日:2016年4月7日

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