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日本のこれからを見据えたビジネスリーダーたちの次世代を切り開くメッセージを収録。

FILE NO.0144
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株式会社エニグモ 須田将啓 | 冷静と情熱のあいだで、世界を目指す

株式会社エニグモ 代表取締役 須田将啓

サイトオープンにこぎつけるも売り上げなし、新たな収益源で食いつなぐ

「エニグモ」という会社が運営する「BUYMA(バイマ)」というショッピングサイトをご存知だろうか。インターネットを活用して一般生活者同士がファッション商品を売買する「ソーシャル・ショッピングサイト」の1つなのだが、何といってもその規模が桁外れに大きい。海外115カ国にいる日本人留学生や駐在員の奥さまなど6.5万人もの個人のパーソナルショッパーが出品した商品を、国内に250万人いる登録会員が購入する。1日当たりの出品数は8700アイテムを越え、2015年1月期での取り扱い実績は206億8400万円に達している。エニグモは出品者と購入者の双方から、取引金額の5~7%を手数料としてもらう。

そのバイマが産声をあげるきっかけとなったのが、須田将啓・代表取締役兼最高経営責任者が2002年のクリスマスの日に、当時の勤務先である博報堂の同僚だった田中禎人氏(13年4月まで代表取締役兼共同最高経営責任者)と、「インターネットを活用してこんなビジネスをしたら面白いのでは」というアイデアを出し合ったことだった。そして、その場で浮かんできたものが、現在のバイマの原型となるビジネスモデルであったのだ。

「慶應義塾大学院理工学研究科でコンピュータに関する研究を行ない、その知識を活かして30歳までに起業したいと考えていました」という須田代表は田中氏と意気投合。年が明けると出資を募るために休日など使って、創業から2年後のIPOなどを目標に据えた事業計画書を携えながら、友人や知人のところを回り始める。その時の合言葉が「世の中を変えるぞ!」「おう!」だったというから、いかに2人が情熱を込めていたかがわかる。もっとも、友人のなかには「電話で話を聞いただけでも面白そうだから」といって、事業計画書に目を通さずに出資を決めた人も少なくなかったという。

結果、賛同してくれたのは50人余り。自分たちの出資分も合わせた6000万円を資本金にして、04年2月に設立されたのがエニグモだった。一風変わった社名だが「謎」を意味する英語の「enigma」に由来しているそうだ。そして、すぐにバイマのシステム構築に入るのだが、ここで最初の試練が須田代表を待ち受けていた。システムの構築を依頼していた開発会社が、納期に間に合わなくなったことから”夜逃げ”してしまったのだ。

株式会社エニグモ 須田将啓社長 インタビュー画像1−1

「広告代理店にいたこともあり、サイトのローンチに合わせた記者発表会やパーティーなどのイベントを準備万端整えていました。しかし、用意していたロゴ入りの団扇なども含めて、すべて無駄になってしまったのです。契約した開発費を事前に支払っており、銀行口座の残高は100万円を切っていました。6000万円ものお金を集めておいて、『何もできませんでした』では申し開きになりません。そこで、その開発会社の親会社に何度も掛け合って開発費を戻してもらい、ようやく05年2月にバイマのサイトを開設できました」

この須田代表の言葉を聞いて感じるのは、「出資者=株主」に対する経営者としての「強い責任感」である。起業によって創業者利益を大きく取ろうとするのなら、できるだけ出資者を少なくするというのが1つの資本政策であろう。しかし、何かの拍子で事業が躓いたときに、「自分が出資してつくった会社だから」と簡単に諦めがついてしまうデメリットもある。いい意味で須田代表は、「株主になってくれた友人や知人たちを絶対に裏切らない」というプレッシャーを自分自身にかけながら、事業を育ててきたのではないか。

しかし、念願のサイトの立ち上げ後、須田代表は息をつく暇もなく、そのプレッシャーを再び全身で感じることになる。ショッピングの成約がほとんどないのだ。あっても知り合いによるものばかり。立ち上げから30日後に、まったく関係のない人からの注文による初めての成約があった。しかし、それでエニグモに入る手数料がいくらかというと、わずか400円程度。「それからも成約が1日数件という日が続き、会社の近くの神宮で行われる花火大会に来る人に、ローンチのイベント用につくっていた団扇を配ったり、懸命にPR活動をしました」と須田代表は振り返る。

そして、ここで1つ目の大きな決断を下す。「バイマについてはゆっくり育てて大きく刈り取る」ように方向転換をしたのだ。となると、新たな収益源を確保しなくてはならない。そこで目を付けたのが、急速に普及し始めていた「ブログ」を活用した広告ビジネスで、組織化したブロガーに報酬を支払って宣伝をしてもらう「プレスブログ」を05年12月に立ち上げた。すると、これが見事にヒットし、エニグモは一息つける状況となったのである。

わずか6人のチームだったが、一体感と緊張感のバランスを評価していただいた

須田代表の主な役割はバイマの事業を軌道に乗せることと、そのために必要な資金を調達することだった。資金調達については、ジャフコ、ネットエイジキャピタルパートナーズ(現ベンチャーユナイテッド)、オリックス・キャピタル、ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソネット)などからの出資の取り付けに成功している。特に06年3月のソニーコミュニケーションネットワークの出資は6億円もの金額に及んだ。何が有力ベンチャーキャピタルたちを魅了させたのだろう。

「バイマというショッピングサイトの将来性はもちろんのこと、わずか6人チームの小さな会社でしたが、チームには一体感と、緊張感が常に存在しており、そのバランスを評価していただいた側面が大きかったようです。それというのも一体感だけだと、単なる”仲良しクラブ”に終わってしまうかもしれません。しかし、その一方で必ず事業を成功させるという緊張感があることで、『彼らなら事業を成功に導くだろう』という判断につながったのだと、後で関係者の方々と話しているなかで気が付きました」

株式会社エニグモ 須田将啓社長 インタビュー画像1−2

もともとバイマのようなショッピングサイトの場合、出品内容と購入者のニーズがうまくマッチングしないと、なかなか成約に結び付かない。その点において、当初のバイマは「何でも扱う」ことを理想に掲げていた。しかし、それではサイトの特徴を出せず、会員数の伸び悩み、マッチングの確率の低迷につながってしまう。そこで、06年の春先から「ファッション」と「女性」に絞り込み、米国で流行していた「アバクロンビー・アンド・フィッチ」をはじめとする”LAファッション”の出品を前面に押し出していくようにした。すると、この2つ目の大きな決断が功を奏して、バイマは3年半で単月黒字を計上するようになっていく。

ところが、「好事魔多し」とはこのことをいうのだろうか。翌9月15日にリーマンショックが起き、それまで収益を支えてくれていた広告事業が大打撃を受けてしまったのだ。そして「以前から競争が厳しくなっていたのにもかかわらず、強気の利益計画で営業マンを増員したことも裏目に出て、資金繰りを計算すると1年以内にショートすることが判明しました」と語る須田代表は、断腸の思いでリストラを決断する。辞めてもらう社員との面談には須田代表が立ち会ったそうだが、その心中はいかほどであったのだろう。

実は、エニグモでは創業当初から自分たちの活動の写真を、意識的にたくさん撮るように心がけてきたそうだ。また、そうした写真を社内イベントでなどで全社員で見るようにしているのだという。「全社員の一体感が高まって、会社のカルチャーが一気に浸透していきます」と須田代表は話す。確かに、新しい社員に会社の歴史を知ってもらい、共有することは仲間意識を高めるのに有効だろう。しかし、須田代表にとっては、それだけでないはず。きっと、苦しい時代のことを思い返しながら、常に”兜の緒”を締め直しているのではないだろうか。

株式会社エニグモ 須田将啓社長 インタビュー画像1−3

そして、須田代表の苦労が報われる日がくる。12年7月 東証マザーズへ株式を上場したのだ。「出資してくれた友人や知人への約束をようやく果たすことができました。それとIPOをした後に、社員から『やっと住宅ローンの審査が通りました』といわれ、エニグモという会社の社会的な信用度が増したことを実感しました」と笑みを浮かべながら須田代表は語る。

もちろん、エニグモにとってIPOは単なる通過点にすぎず、資金調達力のアップを背景に、国内ECサイトにおけるバイマのパワーアップを図っていく。ファッションECサイトの国内の女性ユーザーは1274万いると推計されているが、そのうち1000万人をターゲットに据えている。また、20年に325兆円の規模になると予測されている世界のファッション市場に打って出るために、今年中にバイマの”英語バージョン”をローンチする予定だ。「バイマでグローバルマーケットに変革を巻き起こしたい」と須田代表は力強く語る。

最後に起業を志す人へのアドバイスを須田代表に求めると、「情熱と冷静な目を持ち続けることが大切です。何か新しいことに挑戦するのには、多少のリスクをも覚悟する情熱が不可欠です。しかし、情熱だけでは空回りしてしまうこともあるでしょう。ですから、自分が置かれた状況を冷静に見つめる目も必要になってきます。そうすることで、もがきながらも、ゴールを目指すことができるようになってくるのです」との答えが返ってきた。

interviewer

KSG
ヴァイスプレジデント 細川 和人

引用元:ベンチャータイムス

記事掲載日:2015年7月15日

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