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士業金融

太田アカウンティンググループ 太田孝昭 | 当事者の言葉には多くの思いM&Aアドバイザリーの鉄則は真意を読むこと

太田アカウンティンググループ 代表 太田孝昭

OAG税理士法人、OAGコンサルティング、経理秘書、福祉総研など8法人で構成される太田アカウンティンググループ代表の太田孝昭氏は、1988年3月、 東京国税局調査一部退職して、5月 に太田税務会計事務所を開業した。同時に株式会社シーケーシステム研究所を設立。その後07年にOAG税理士法人を設立した。

長年、M&Aのアドバイザリーを手がけてきた太田氏は、この5~6年、M&Aを巡る風向きの変化を実感している。

「経営者の間でM&Aについて普通に話せるようになった。それまでは企業を売却することに対しては『社長だけが潤って良い思いをしている』とか『ひとりで勝ち逃げしている』など否定的な見方が強かった」。

そもそもM&Aの目的は何か。米国では“法人=金融資産”という単純な図式から、益出しの手段としてM&Aが繰り返される風潮が根強いが、日本の産業風土では容認されない。日本の場合、多くの経営者が企業の存続を最重要視し、企業売却の主な目的も存続にある。

「企業を存続させるには、何かを変えなければならない。商品を変えるのか、ドメインを変えるのか、経営者を変えるのか、株主を変えるのか。しかも何かは複数であり、変える手段のひとつがM&Aである」(太田氏)。

太田アカウンティンググループ 太田孝昭社長 インタビュー画像

変えるべき要素のうち、最も大きなウエイトを占めるのは経営者だが、オーナー企業の場合、たとえ経営者としての資質に恵まれていても、創業家以外の第三者がMBOなどによって経営権を取得することは、およそ現実的な選択肢とは言い難い。債務保証能力に乏しいからで、太田氏は「債務を背負って経営を受け継ぐ度胸の持ち主はほとんどいない」と喝破する。

しかも多くの中小オーナー企業では、後継経営者を育てきっていない。企業を存続させ、雇用を守るには、M&A以外に選択肢は少なく、それがここに来てオーソライズされつつあるのが現実だが、太田氏は「M&Aの増加にはアメリカナイズの影響もあるかもしれない」と指摘する。

OAGでは常時20件近くのM&A案件が進行し、年に5~6件が成約している。現状、買い手候補は各業界から続々とアプローチしてくるが、売り手候補が少ない。売り手の発掘はアドバイザリー機関の重要な任務となったが、買い手は何を求めているのだろうか。

買い手の多くは、本業の周辺分野への事業拡大を意図して、不足している機能を補充する目的でM&Aを実施する。その機能が期待どおりに成果を上げるかどうか。それは社員の働き次第である。太田氏は語る。

M&Aの失敗の多くは買い手責任と言われるが、アドバイザリーの責任もあると思う

「例えばパテントの取得をM&Aの目的にしたら、金融資産を買うようなものだ。新たなリソースを得て事業を発展させるための買収なのだから、真の目的は人材を買うことである」。

かりに人材不足が常態化した時世にあって、雇用確保が約束されないなど人事上の不利益が想定され、売却側の幹部やキーパーソンに退職されたらどうなるのか。

幹部クラスを早期に補充するには、通常は人材紹介会社を起用するが、年俸800万円で10人を採用すれば、紹介手数料を年俸の25%として「200万円×10人=2000万円」もの支払いが発生する。しかも、その10人に顧客がついているとは限らない。

OAGは経営幹部などキーパーソンの退職リスクをデューデリジェンスで見極めるが、一方で売却側の経営者も、売却の意思決定に至った経緯について、公表前にあらかじめ少数の幹部に説明して人心の掌握に努めるようになったという。「社内の誰ひとりとして公表前に知らされずに売却されると、モチベーションが下がってしまい、その後の経営は上手くいかない」(太田氏)のが実情である。

買収後に人員整理をして身軽な体制につくり変えるのは、もはや、ひと昔前の手法となった。「そんなことをしたら金の卵がどんどん逃げてしまう」(太田氏)。今では雇用の維持を約束したうえで、給与水準をアップさせるのが常道である。

それは、同時に売却側の経営者が望む施策でもあるという。

「多くの経営者は自分の会社を売却したのちに、より良い会社に成長してほしいと望んでいる。だから、業績を伸ばしてくれることを期待できる相手かどうかを重視している」(太田氏)。

太田アカウンティンググループ 太田孝昭社長 インタビュー画像1-2

いわば自分と気脈の通じる経営者に売却したいと思うものなのだ。しかし、経営者によって判断の基準は一様でない。

例えば、売却側がより高い価格での譲渡を考えるのは当然だが、最重視するのは売却価格か、買収側経営者の人物か、経営者によって判断基準はさまざまである。しかも、いざ意思決定を下す段におよぶと、価格最重視の経営者が途端に人物を気にし始め、あるいは「金ではない」と明言していた経営者が、今度は価格にこだわり出す。豹変するケースもけっして少なくない。

太田氏は「彼らはウソをついているのではない。人間の言葉の裏にはいろいろな思いがあるので、M&Aアドバイザリー会社は“この経営者はこういう売却を望んでいるのだろうか”と読み取らないとピントがズレてしまう」と打ち明ける。

OAGには、M&Aアドバイザリー件数のみを拡大させる方針はないようだ。買収側と売却側それぞれの提示価格が合致し、相互のリソースに相乗効果を認められても、組織風土の相性が芳しくないと判断すれば、あえてアドバイザリー業務を請け負わない。良縁ではないからだ。

売却側のリソースや組織風土と自社との親和性について判断力を持たない経営者が、案件を求めてOAGを訪ねてくることも多いが、これもアドバイザリー業務を請け負わない。あるいは、買収資金として銀行融資を取り付けて訪ねてきても、それが経営能力に乏しい人物であれば、買収そのものを断念させている。

太田氏は「M&Aアドバイザリー機関として手数料を得られれば、それでよいというわけではない。ビジネスモラルというものがある。M&Aの失敗の多くは買い手責任と言われるが、アドバイザリーの責任もあると思う」と結んだ。

太田アカウンティンググループ 太田孝昭社長 インタビュー画像1-3

取材・文/経済ジャーナリスト・小野貴史

引用元:M&Aタイムス

記事掲載日:2015年7月10日

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