フリーミアムと口コミ効果で販売促進 営業部門がなくてもユーザーは急拡大
メール・ペーパー・電話を不要にしたオフィスを実現
オフィスに1人1台のパソコンがあるという光景は珍しくない。しかし、それによって、書類の山から解放され、仕事が効率化されたという話はほとんど聞かれない。時間に関係なく顧客から直接かかってくる携帯電話への対応やメール処理などで1日の大半が費やされることもまれではない。確かに便利なビジネスツールが身近になりはしたものの、事務作業にかかる時間が大幅に減少したかといえば、だれしも首をかしげざるをえないだろう。
ところが、チャットワークのオフィスはちょっと違う。
「わたしたちのオフィスは、スタッフのデスクに電話はないし、引き出しもなく、書類もほとんどないという状態です。社員同士はもちろん、顧客とのメールのやり取りもありません。すべて『チャットワーク』で情報を共有し、打合せ業務を行なっています」
同社代表取締役山本敏行が言葉にする通り、オフィスはシンプルで見通しもよく静かそのものだ。電話の鳴る音も通話の声も聞こえてこない。事務用複合機もなければ、デスクの上にはパソコン以外、これといったものは見当たらない。
「わたしたちが使っている『チャットワーク』は、当社が扱う業務効率化を目的としたビジネスツール。ただし、従来の仕事を効率化するというより、仕事の仕方やスタイルを変えたうえで業務の効率化につなげていくものです。たとえば、入力用画面を小さくし『伝えたい情報は無駄なく最小限に』といった無言の提案がそこに隠されています」
チャットの便利さをビジネスシーンに応用
『チャットワーク』はクラウド型のビジネスチャット。連絡や確認といったビジネス上で必要な事務作業や、日ごろのコミュニケーションの中で生じる無駄やミスを徹底的に減らすことにより、業務の効率化を実現するものだ。パーソナルユースのチャットやLINEの手軽さを、ビジネスユースに高機能化したといえばわかりやすい。チャットの便利さは、オンラインであれば会話形式のやり取りがずっと表示されるという点だ。チャットワークでは、リアルタイムに限らず、過去から現在に至るテーマすべてを同じように確認することができる。だから新たなメンバーが途中参加した場合にも、過去のやり取りが確認でき、それまでの流れを説明する時間と労力が最小限で済む。
このチャットワークのベースになっている機能が「グループチャット」だ。たとえば、社内外のメンバーでチームを組み、情報の共有、意見交換などを緊密に行なうという場合に効果的だ。依頼事項や約束等を双方で画面表示できる「タスク管理」機能を利用すれば、失念によるミスの防止や進捗状況の確認も簡単にできる。また、クラウドの活用で大容量のデータ共有が可能であり、相手がオフラインであってもメッセージやファイルの送信が行なえる。もちろん、ビデオ会議や音声通話もできる。海外との通信であっても、タイムラグをほとんど感じず会話がスムーズに運ぶ。実は今回の取材は、このビデオ会議システムを使って行なったものだ。
ビジネス上での利用を考えるとセキュリティのことが気になるが、通信のすべてをSSL(Secure Socket Layer)で暗号化している。また、同社の別事業ではセキュリティソフトを提供しており、国際規格であるISO2700(ISMS)も認証取得済み。これは国内金融機関と同レベルのセキュリティ管理だ。
170ヵ国・5万1000社のユーザーが使っている
2014年9月現在で、チャットワークのユーザーは、世界170か国、5万1000社におよぶ。11年にスタートした事業だが、KDDIとの業務提携により、同社の知名度と信頼性が高まったこともあり、ここにきて拡大スピードが一段と早くなってきた。官公庁や大手企業との成約も増えているという。ユーザーの約85%は日本のユーザーで、最近ではアジア地域での利用増加が目立つ。15年中にはユーザー企業数10万社に達する見通しだ。
このようにユーザーを急拡大させている同社だが、不思議なことに営業部署が存在しない。
「チャットワークは、潜在的なニーズはあっても、マーケットが存在しない領域のツールです。しかし、ネットワークの場で体験してもらえれば、その利便性・機能性は伝わると考えています。しかも、そのメリットは、アナログかデジタルであるかを問わず、口コミで広がります。だからあえて広告宣伝も行ないません」
きっかけは何であれ、まず体験してもらうことがチャットワークの販促の第一歩ということだ。同社では、ユーザーが利用できるグループチャット数を14個まで無料としたフリーミアムモデルでお試し利用を勧めている。有料プランを利用するという場合でも、利用人数が多くなればなるほど、1人当たりの料金は安くなる。ちなみに10人で利用した場合、1人1ヵ月200円ですむ。
営業活動をしない理由にはもう一つある。それは現在リリースされているチャットワークが最終の完成型ではなく、ユーザーの声を聞き日々進化させているからだ。最優先で高精度化に注力するため、限られたマンパワーを開発部門に割いている。
「現在のユーザーは、中小から大手まで、一般企業をはじめ官公庁や医療機関、農業分野など多岐にわたっています。これからのユーザー獲得先として注目しているのが、弁護士や会計士など士(さむらい)業に携わる方々。クラウドを使ったツールはこれからのビジネス展開に不可欠な武器です。そこで当社では、士業事務所がそのアドバイザーとして活動をしていく一般社団法人『士業ITアドバイザー協会』の設立に参画しました」
山本は世界を舞台に戦うことを前提に、チャットワークのビジネスモデルをつくったという。次なるステップとして世界規模での拡大を加速させるための戦略を練っているところだ。
引用元:CEO社長情報
記事掲載日:2014年11月