【サンヨー食品株式会社】日本と海外ではルールが違う。海外のパートナー選びにはM&Aの専門家を起用

代表取締役社長/井田純一郎

サービス・飲食

株式会社ベネフィット・ワン代表取締役社長・白石徳生が気になる企業のトップを大胆訪問。
フリートークを交わしながら、成長の秘策を聞き出すというシリーズ企画。
第7回のゲストは今年(2013年)、創業60周年を迎え、主力商品の「サッポロ一番みそラーメン」が発売45年になるというサンヨー食品株式会社代表取締役社長の井田純一郎氏です。

ニ・三代目として迎える創業60周年

井田 白石さんと初めて会ったのは、たしか南部靖之さん(株式会社パソナグループ代表取締役グループ代表)主宰の勉強会でしたよね。

白石 そうです。僕がまだパソナの社員だった頃ですから、もう20年のおつきあいなんですね。公私にわたり、密度の濃い交流をさせていただいている大先輩に、今日はお仕事の話をうかがいたいと思います。御社は今年、創業60周年を迎えるそうですが、井田さんは三代目ということになるんですか?

井田 うちは江戸時代中期から続く造り酒屋なんです。ただ、私の祖父が長男ではなかったため、独立して、お酒の販売店を始めたんですね。そして、私の祖父と父とで新規事業として「インスタントラーメン」を始めたのが1953年。私は二・三代目になるんでしょうか。

白石 実質、お父様も創業者といってもいいんですね。

井田 ええ。インスタントラーメンに着目したのも父だそうです。以来、商品開発や製造など社内の役割は父、営業など対外的な役割は祖父が担当して、二人三脚でこの会社を大きくしてきたんです。

白石 なるほど。そういうおじい様、お父様の姿を見て、井田さんは育ったわけですね。

井田 そうなんですけど、僕には「後継ぎ」という意識はなかったんですよ。父にも「お前に後を継がせることは考えていない」と言われていたので、大学卒業後は銀行に就職しました。そうやって離れていた分、経営者としての父を客観的に見ることができましたね。

白石 一人の経営者として見た、お父様のすごさってどんなところですか?

井田 慎重かつ大胆なところでしょうね。基本はものすごく慎重で、お金の使い方もシビアなんですけど、ここ一番というときは思い切った決断をします。そのバランスはすごいと思います。だから酒販店として成功していたにもかかわらず、新規事業に打って出られたんですよね。当時、周りは相当びっくりしたらしいですから。

リタイアしたいと言うまではベテランの知恵を大事にする

白石 今回、僕が一番聞きたかったのが、井田さんの社員マネジメントについてなんです。僕の場合、自分で作った会社ですから、社員も自分より年下で昔の部下だったりする。でも井田さんが社長に就任したとき、先代に長く仕えていた年長の方もたくさんいたわけでしょう。その方々をどうマネジメントされてきたのかなと。

井田 私が社長を継いだ際、父を支えてきた役員は全員そのまま残ってもらいました。皆さん、僕にない経験と知識を持っているはずで、それを生かさないことにはやっていけないと思ったんです。僕だけでなく、昔からベテランを大事にする会社なんですよ。

白石 そうなんですか。僕の周りでは、先代時代の人材をどうすれば切れるかということで頭を悩ませている人が多いもので(笑)。

井田 僕は優秀な役員から「そろそろリタイアさせてください」って言われるまでは、頑張ってもらう方針なんですよ。わが社を愛し、わが社のために働いてくれる人には最大限、活躍してほしい。

白石 そうやってベテランの方が頑張り続けていると、若手が育ちづらい環境にはなりませんか?

井田 ならないんじゃないですか。実は数年前、賃金体系を成績重視型に変えたところ、社員のモチベーションが下がってしまったんです。成績が悪い人がショックを受けるのはわかるんですが、優秀な人もやりづらくなってしまったようでね。数年後、年功と成績のバランスを元に戻したところ、特に成績のいい社員から「このほうがやりやすい」と感謝されました(笑)。「わが社はそういう社風なんだな」と思いましたね。チームワークを大切に目標を達成していくんです。

白石 個人成果主義はギスギスした空気を生みますよね。うちも合わないかな。優秀な社員にはその分、「周りの面倒を見ろ」と言ってます。そういうことができる人間のほうが、ただ仕事のできる人間よりも偉いんだ、と。

井田 同感です。チームワークを重んじる人のほうが長く活躍できる。とはいえ、うちは社員数が少ないからとも言えるんですけどね。

白石 いま、何人ですか?

井田 正社員で600人ほどです。

白石 え! この事業規模(12年3月期単体売上高792億円、経常利益115億円)でやっていて、その人数ですか?

井田 新入社員採用も年10人くらいなんですよ。それで辞める人がいない。少数精鋭だから結束も堅いんです。

白石 効率がいいですね。成果主義は要らないですよ、それは。

世界の即席麺需要は年間1000億食。まだ普及していない国もある

白石 話は変わって、御社が資本参加している会社で香港上場している康師傅(*1)は、時価総額が1兆3000億円もあるそうですね? あまりに大きくてびっくりしたんですよ。これ、日本ではあまり知られていないんじゃないですか?

井田 知らないかもしれないですね(笑)。
白石 うちも昨年から海外展開を始めたんですが、いろいろ迷うことも多いんです。井田さんの海外展開の秘訣を教えていただければと思うんですが。

井田 海外展開において一番大事なのはパートナー選びですね。

白石 そのパートナーとはどうやって知り合うんですか?

井田 いろんなパターンがあって、康師傅の場合は経営が悪化しているという新聞記事を見て、こちらからアプローチしたんです。グループ会社のエースコックが展開するエースコックベトナム(*2)の場合は日本の商社からの紹介、ロシアのKing Lionグループ(*3)は金融機関からの紹介です。縁をもたらすものはたくさんあっていい。大事なのは、そこからどれだけ細かく相手をリサーチし、しっかりした契約が結べるか。そのための外資系のコンサルタント、会計士、弁護士などM&Aの専門家を起用しました。

白石 それが肝心なんですね。

井田 ええ、外国と日本とではルールが違いますから。それこそ思いもよらないようなことが起こるんですよ。取り返しのつかないことにならないように、契約の段階でしっかりと詰めていかなければ。

白石 なるほど。サンフランシスコに支社を作ったときに、すごい弁護士費用がかかったんです。部下に思わず「使い過ぎだ」って言ってしまったのですが(笑)、それは必要経費だったわけですね。

井田 そうです。でも最後はなんといっても、トップ同士の信頼関係が重要ですけどね。

白石 井田さん個人としては、今後どういうビジョンを抱いているんですか?

井田 個人といっても、やはり祖父と父が興したサンヨー食品の成長が一番の関心事ですから、少なくとも今後10年は会社のために頑張っていきたいですね。この時代において、まだインスタントラーメンが普及していない国もあるんですよ。そこで新たに事業展開していきたいという大きな目標があります。日本国内では、もっと多くの方に愛される商品を開発したい。その両輪ですね。

白石 今日はありがとうございました。勉強になりました!

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