価値と対価はイコールであるべきと考え、成果報酬型コンサルティングを貫く
価値と対価の乖離に問題意識を抱く
佐谷氏が率いるコンサルティングファーム、プロレド・パートナーズ。2009年12月の創業から9年で東証マザーズへの上場を果たした。同社の特徴は、成果報酬型のサービスであること。何故、成果報酬型にこだわっているのであろうか。
「リーマンショックの時に、僕は不動産ファンド(REIT)のマネージャーとして商業施設開発に携わっていました。テナントである食品スーパーの経営が厳しくなり、撤退したいものの違約金が多すぎて出るに出れないという状況でした。結果として、他の拠点を複数閉店する決断をしたのです。食品スーパーは地域の食インフラを支えるという、価値あることをやっているのに赤字で苦しむ状況にある。一方、僕は投資家から称賛される立場にいて利益も出していた。ただ、僕一人の対価としては大きすぎる。ならば、その困っている事業会社が適正な利益(=対価)を出せるようコンサルティング会社で勝負をしたいと思ったのが起業理由です。
そして、価値=対価の世の中にしたいのであれば、まずは自分たちも価値=対価のサービスを提供しないと辻褄があいません。それで、成果報酬型を選びました」
長らく、同社の主力事業はコストマネジメントであったが、最近は売上拡大に向けた成果報酬案件が急増している。メインターゲットに置いているのは、売上100億から数千億円の中堅企業。このゾーンでは、良質なコンサルファームが存在しておらず、加えて成果報酬であれば十分ニーズがあると見込んだからだ。
どうすれば実現できるかを導き出すのが我々の仕事
同社の業績は好調だ。快進撃を続けている。それでも、上場までに8年半もの歳月が掛かったことには、「もう少し早くできたのでは」というのが本音のようだ。
「今の自分がスタート時から経営していたら5~6年あれば十分実現できました。残念ながら、スキルも努力も足りなかったんでしょうね。実際、比較すると思想とか考え方、性格が全然違い、今の方が能力として上回っています」
それは、言い換えれば佐谷氏が経営者として年毎に着実に成長してきた証ともいえるが、これまでにターニングポイントとなるような局面はなかったのであろうか。
「大変だったというのはありますが、経営者を辞めたいとか精神的にきついといったことはなかったですね。ただ淡々と目の前の仕事をやるだけ。今自分ができることを愚直にやるしかないという感じでした。それに、『これ難しいなあ』と思うと、どうやったらクリアできるんだろうといつも考えていました。『できません』とか言われると『どうやったらできるようになるか』を考えるのが楽しくて堪らない。できないことをできるようにする、それが仕事の価値だと思っています」
様々な困難を乗り越えての上場。佐谷氏は上場をどう位置付けているのであろうか。
「いろんなことが自由になることです。会社として業務提携も、営業活動もしやすくなります。信頼を得られますし、資金が調達できることでやれることが増えたり、色々な投資もできます。会社のブランドが高まることで社員も転職しやすくなる。」と笑顔で語る。
口先だけのゼロベース思考では、何も変わらない
プロレド・パートナーズの経営者として同社を上場へと導いた佐谷氏だが、驚くことに母校は東京芸術大学。芸大からコンサルタントの世界を目指した背景には何があったのかがどうしても気になる。
「僕はもともとアーティストになりたくて芸大に入りました。専攻は建築でした。デザインに関わる仕事に携わりたいと思っていたものの、どういうデザイナーになるかは決めていませんでした。方向性を色々と考えていた時に、30歳ぐらいの先輩らと飲む機会があって、『給料が20万円の大台に乗ったよ』という話を聞いたんです。月に500時間も働いているのに、そんなにも安いのかって驚きました。自分なら経営者側に立って、もう少し上手く皆をプロデュースして、いい生活させてあげられるのではと考えたんです。ただ、その前にビジネスの原理原則を知らなくてはいけないということで、『ビジネスを学ぶのであれば経営コンサルファームだ』と勧められ、知名度の高いところから順番に受けていきました」
芸大で磨いたアーティストのセンスは、ビジネスでどう活かすことができたのかも聞いてみた。
「コンサルタントの時は、役立ちませんでした。むしろ、足枷になっていました。コンサルタントのゼロベース思考は、僕の場合、完全にゼロで考えてしまったり、ロジカルシンキングではなく、感覚やストーリーを大事にしたりするので、先輩からは『お前もっと常識を考えろ』と言われていました。ただ、経営者になり、成果で対価をもらうようになってからは、かなり役立つことが増えました。誰もが考えたり、挑んだりしたこともないようなアイデアや視点で新たに提案する機会が多くなったからです」
もう一点、気になっていたのは独立のタイミングだ。何故、リーマンショックからまもない時期であったのか。
「独立した2009年12月は経済的には一番底でした。僕の感覚では結局、景気の良い時に独立した人は景気が良くないとうまくいかない人が多い。逆に、景気の悪い時に独立した人はどんな時でもうまくいく人が多い。あと、2009年の頃は不動産の仕事が動かなくなっていました。仕事が減って自分の成長も感じられないため、独立するには丁度良いタイミングだと思いました」
重要なのは時間軸。長期的な視点でビジネスに取り組む
佐谷氏にとっても、マザーズ上場はあくまでも通過点に過ぎない。経営者として、さらなる先を見据えているはずだ。そこで、今後の展望をどう思い描いているのかも聞いてみた。
「僕たちのビジネスは結局何をしているかというと投資なんです。ヒト、カネ、システムを先行投資して、上手く行ったらフィーをもらうという仕組みです。軸としてはそうしたインベストメント型のコンサルティングをして、どんどん経営コンサルティングとインベストメントを掛け合わせたサービスを提供していきます。そうすることで、クライアントはリスクなくクォリティの高いコンサルティングを受けることができますし、かつフィーも成果と連動するのでリスクがありません。この仕組みを極めていきたいと思います。数値目標としては、マザーズに上場した当日にコミットした通り、5年後の時価総額1000億円を実現したいですね。そうすると、営業利益ベースで50億、コンサル単体で150億円の売上をクリアしないといけません。それはなかなか難しいので、M&Aも考えていくことになると思います」
当然ながら、コンサルタントなどの採用も積極的に進めていかなくてはならない。どんな人材像を求めているのだろうか。
「ベストは考えることが好きで、COPASSION(思いやりと優しさ、多様性を受け入れられる)のある方です。今の時代、ミッションがどうだからではなく、その会社の空気感に惹かれるとか、そのメンバーと働いている感じが凄く良いということで人が集まってきます。やはり、自分と合わない人と仕事をするのが一番つらいのではないでしょうか。チームとしてのパフォーマンスを最大化させていくためにも、思いやりや優しさは大切にしたいですね」
最後に、佐谷氏の経営に対するこだわりを語ってもらった。
「僕は時間軸に重きを置いています。実際、僕が尊敬している経営者は皆30年、50年、300年先を見ていて、自分の生きている時間もしくはそれ以上の時間使って、何かを成し遂げようとしています。そういう視点で見ると柔軟になれ、打ち手も広がります。戦略もより深くなりますよね。僕は、そこまで大きなスケールで見えていませんが、5年後もまた10倍にしたいと宣言するでしょうね。そうすると時価総額が1兆円になるので、今から実現するにはどうしたら良いかという観点で、ビジネスに取り組んでいけるようになります」
引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2018年10月9日