会計顧問報酬は相場の3分の1公認会計士と税理士が直接担当
サービス提供対象の企業はスタートアップ期と年商5億円以下
スタートアップ期の企業にとって、毎月の会計顧問料と決算料はどのぐらいが適正水準なのだろうか。
日本税理士連合会が2015年に実施した「第6回税理士実態調査」によると、法人の月額顧問料で最も多かった料金帯は「3万円以下」(52・5%)、次に多かったのが「5万円以下」(27・7%)。決算料は「20万円以下」(42・5%)が最も多く、次に「10万円以下」(20・3%)が多かった。
かりに月額顧問料3万円、決算料20万円なら年間報酬総額は56万円。決算料が10万円でも年間46万円になる。スタートアップ期には負担になる金額だが、クラウド会計サービスを提供するシンアカウンティングサービス社長の上田昌宏氏(公認会計士・税理士)によれば「ベンチャー企業を対象にした税理士事務所でも、年間報酬が70~80万円におよぶ例もあります」という。
こうした報酬額の水準に対して、シンアカウンティングサービスは報酬額を相場の約3分の1に抑えている。同社はクライアントをスタートアップ期の企業と年商5億円以下のベンチャー企業に特化し、会計サービスのクライアント数は17年5月時点で191社。12年の設立以降、5年間で着実に増やしてきた。
会計サービスは「基本プラン」(記帳代行、決算書作成、税務申告書作成)「おまかせプラン」(取引入力、記帳代行、決算書作成、税務申告書作成)「決算プラン」(記決算書作成、税務申告書作成)の3サービスを提供し、開業3期までの新設法人と新設法人以外で報酬額を変えている。新設法人の場合、年間報酬額は基本プランが12万3000円、おまかせプランが24万円、決算プランが8万円。新設法人以外はそれぞれ24万円、39万円、17万円に設定されている。
公認会計士と税理士が直接担当業務のクオリティーを担保する
安価なだけではない。上田氏は「業務のクオリティーを高く保っています」と自負するが、有資格者に限定した担当制でクオリティーを担保している。通常、決算書や税務申告書の作成は無資格者が担当するが、同社では公認会計士や税理士が直接作成しているのだ。人員は上田氏を含めて約20人で、大手監査法人出身者や上場企業の監査経験者など十数人の公認会計士・税理士を擁している。
だが、人件費のかかる有資格者を起用したうえで、相場をゆうに下回る報酬額を設定して相応の利益を確保できるのか。この疑問に対して、上田氏はクラウド活用による業務効率化を挙げる。それを可能にしたのが、特許出願中のクラウド会計ソフト「10book(テンブック)」である。
「EXCELの入出金記録をクラウド上にアップロードするだけで、決算書、試算表、総勘定元帳等が作成できます。また、この会計ソフトで肝となるEXCELの入出金記録は、日付、金額、取引の内容、摘要を入力するだけです。入力は通常の半分以下の項目数で済み、会計知識ゼロでも簡単に迅速に入力できます。しかも、このフォームは現金預金残高を随時確認できるので、事前にミスを発見しやすい構造になっています」
システム開発会社でなく会計事務所が開発したことも、「10book」の特徴だ。多くの会計ソフトは、会計ソフトを選ぶと同時に会計事務所も選ばなければならないが、このソフトは会計事務所が開発したので、すぐに会計事務所に直結できる。
会計サービスを会計事務所に広めプラットフォームの構築へ
同社は、クラウド化した会計サービスを積極的に展開する計画を固め、ダイレクトメール送付等様々な営業ルートによって新規クライアントを開拓していく。
その次に計画しているのは、会計事務所への普及である。「10book」の利用を会計事務所に普及させる過程で、おのずとプラットフォームが構築され、新事業も創出しやすくなるだろう。
同社はコンサルティングサービスも手がけ、経営力向上計画策定、資金調達仲介、企業価値算定、M&Aアドバイザリーなどを提供している。これらのサービスを提供するバックグラウンドになっているのが、上田氏のキャリアである。
1979年生まれの上田氏は、明治大学経営学部を卒業して、02年に中央青山監査法人に入職した。金融部に勤務し、国内外の金融機関、ファンド、SPCなどの会計監査に従事。中央青山監査法人の後身・みすず監査法人では、上場準備会社支援を中心に製造業、建設業、サービス業など一般事業会社の会計監査に従事した。07年に上田公認会計士事務所を設立。08年よりサン共同会計事務所にパートナーとして参画し、12年にシンアカウンティングサービスを設立した。
「ベンチャー企業を支援する当社も、設立5年目のベンチャー企業」
このキャリアから、上田氏は会計監査だけでなく、金融全般と株式上場にも精通している。
クライアントの成長段階に応じたサービス提供体制も整備し、クライアントが年商5億円を超えたら、より専門性の高いサン共同会計事務所に引き継いでクライアントの個別事情に対応していき、株式上場や上場企業への売却といった展開にも対応している。
「ベンチャー企業を支援している当社も、設立5年目のベンチャー企業です。試行錯誤しながらサービスを開発してきました。クライアントの成長過程に合わせて、役に立つサービスを提供していきたいと考えています」(上田氏)
提供サービスは会計・金融関連業務に絞り込み、HR業務やマーケティングなどにまで手を広げない方針だという。“総合化”による経営資源の拡散を熟知しているのだ。会計監査経験に経営経験を積み重ねた上田氏は、冷徹に社業の推移を見据えている。
同社の理念は「真にクライアントの発展に寄与するプロフェッショナル集団であり続ける」
その趣旨を上田氏はこう説明する。
「メンバー一同がつねに真にクライアントのためになることだけを考え、アドバイスをし、手を動かす。クラアントにとっては時には耳障りなことを言うかもしれませんが、それがクライアントの発展のために改善が必要なことであれば素直にお伝えする。そんなプロフェッショナル集団でありたいと考えています」
クライアントに対して耳障りな発言をすれば、契約を解除されるかもしれない。そのリスクを懸念して、指摘すべきことを控えてしまう会計事務所も、けっして少なくない。上田氏の本音はどうなのか。
「耳障りな指摘を嫌がって契約を切るところもあるかもしれませんが、それでも構わないとスタッフには話しています。まだまだ力不足の面もありますが、弊社ではこの基本的な理念を忘れず、つねに組織全体で自己研鑽し、つねにより高いレベルのクライアントサービスをめざしつづけています」
シンアカウンティングサービスは是々非々の姿勢でクライアントに向き合う覚悟を固めている。
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引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2017年9月11日