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日本のこれからを見据えたビジネスリーダーたちの次世代を切り開くメッセージを収録。

FILE NO.0202
外食産業

株式会社エー・ピーカンパニー 米山久 | 客単価2000~2500円の新業態「やきとりスタンダード」を本格展開

株式会社エー・ピーカンパニー 代表取締役社長 米山久

金儲けだけではモチベーションに限界
新たな提案を求めて外食業界に進出

エー・ピーカンパニー代表取締役社長の米山久氏が外食業界に参入したのは、意外な動機からだった。

「それまでの事業では、経営者としてモチベーションがつづかなかったのです。物品販売、不動産、海外挙式プロデュースなど複数の事業を展開して、利益も出していましたが、お金儲けだけではモチベーションに限界があります。手がけていた事業はどれも差別化された内容ではなく、世の中に新しい提案ができていませんでした。どれもが自分にとって、一生やっていく事業には思えなかったのです」。

その過程で、不動産事業を通じて取得した居抜き物件でダーツバーを始める。これが飲食業に関わる契機となったが、米山氏の視野に、月並みな飲食店経営はなかった。あくまで革新性を求めたのである。

「農家が直接経営するよう店を打ち出せばおもしろいだろうと。地鶏という高品質な食材をいかにリーズナブルに提供できるか。高品質・中価格を考えたのです。高品質な食材を高価格で一部の富裕層向けに売ることは誰でも考えることですからね。そこで、高品質な食材を一般の方に食べていただくために農場や工場を自社で持てば、どのぐらいコストダウンできるかに関心を持ちました」。

株式会社エー・ピーカンパニー 米山久社長 インタビュー画像1-1

良質な地鶏を提供すれば客単価1000円の差をカバーできる

宮崎県の生産地を訪ねて試算したところ、食材生産を内製化すれば仕入価格を3分の1に削減でき、且つ、取引する生産者にもより多くの支払いができることがわかった。この仕入価格であれば、客単価を一般の居酒屋よりも1000円程度高く設定するだけですむ。1000円の差なら美味しい地鶏を食べたいというニーズはあるだろう。そう見通して、従来は客単価6000~8000円が相場だった地鶏専門店を客単価3800円で展開する計画を固めたのである。

「新しいマーケットの開拓というよりも、大きなマーケットから拾い上げるという視点で始めたのですが、この視点が上手く事業にかみ合ったのだと思います」

2004年、宮崎県産地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」を使用した1号店「わが家 八王子店」をオープン。2006年には宮崎県日南市に自社養鶏場を建設し、みやざき地頭鶏の生産を開始する。以降、北海道上川郡新得町や鹿児島県霧島市などに自社養鶏場を建設して、それぞれの地域の地鶏生産を開始し、さらに自社漁船による定置網漁業にも参入した。

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この取り組みを通じて、同社は、農業や漁業など生産から、物流・加工の流通、外食店舗などでの販売までを自社で一貫して手がける「生販直結モデル」の確立に向かう。

この時期には、デザイナーズレストランとかカジュアルダイニングと呼ばれるスタイリッシュな飲食店が続々とオープンし、外食市場を賑わせていた。同社も新興の成長企業として同列に扱われることもあったが、同じ土俵に立たず、一線を画していた。

米山氏が「お皿の上をどう表現するかというよりも、食材が生産されてお皿に盛られるまでのプロセスに重点を置いたのです」と話すように、いわば商品の実質に徹したのである。

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一過性の流行で売れ続ける時代ではない“価値”を伝え、坪月商20万円をキープ

その後、同社はスピード成長を遂げ、2012年に東証マザーズに上場し、翌年には東証一部に市場変更した。店舗数は「宮崎県日南市 塚田農場」「宮崎県日向市 塚田農場」「四十八漁場」など17業態・255店舗(直営203店 ・ライセンス52店 )におよぶ(2016年9月末現在)。

2016年3月期連結売上高は218億3900万円(前期は192億3500万円)と増収だったが、経常利益は8億2500万円で、前期の14億9300万円から大きく下げた。米山氏はこう総括する。

「メディアでの露出などで弊社のビジネスモデルが注目を集めた時期の坪月商は、30万円を超えていました。当時は、「物珍しさ」や「流行っている」という理由で来店するお客様が多かったです。しかし、一過性の流行はいつか廃れます。現在の「塚田農場」では、我々が大切にしている“美味しい理由”について店舗を通してお客様に体験してもらうことで、坪月商20万円をキープしています。来年10周年を迎える「塚田農場」ですが、“美味しい理由”にこだわり10年、20年後もお客様に愛されるブランドにしていきたいと考えています」。

株式会社エー・ピーカンパニー 米山久社長 インタビュー画像1-4

伸びている外食経営者は“人たらし”業界コミュニティでもリーダーに

減益の改善策として、同社は、エリアマネージャーやスーパーバイザーなどを店長に戻して本部経費を2~3億円圧縮する一方で、新業態「やきとりスタンダード」の展開に入った。

客単価を2000~2500円に設定し、塚田農場の利用頻度の低い20代の顧客層を開拓してゆく。年内に試験店舗の「若どり屋」「やきとりスタンド」を含む9店舗を出店し、FL比率の検証など業態の強化を経て、短期目標は首都圏100店舗、長期目標としては全国300店舗の展開をめざす。先行する焼鳥専門店チェーンに対しては、同社の強みである生販直結モデルで培った商品の供給力や、鶏に関する専門知識によって、優位性を発揮する考えだ。

同時に中国の天津市に2号店をオープンし、中国での店舗展開を本格化させる。

来期業績予想は売上高260億円、経常利益4億円とまだ改善がつづく見通しだ。

こうした足跡を貫いているのが、同社のミッション「食のあるべき姿を追求する」である。このメッセージが生産者と消費者に届いたことが生販直結モデルを確立させたのだろうが、メッセージ力は台頭する経営者の必須要件だ。

これは資質にも起因する。米山氏はこんな見方をしている。

「伸びている外食経営者は人たらしです。人たらしは従業員やお客様に対してコミュニケーション力を発揮しますし、外食経営者のコミュニティでも自然にリーダーシップを取るようになっています。一方で、まじめに一生懸命に経営していても、どこか人間的な魅力に乏しい経営者は伸び悩んでいるように思います」。

人を惹きつけて離さない磁力は、説得力の素である。これは台頭する経営者に不可欠な資質である。

interviewer

KSG
眞藤 健一

引用元:フードタイムス

記事掲載日:2016年12月20日

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