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日本サード・パーティ株式会社 森豊 | 二代目社長の新風と伝統のバランス

日本サード・パーティ株式会社 代表取締役社長 森豊

2014年4月に日本サード・パーティの社長に就任した森 豊氏。父親である前社長が病に倒れ、社長に就任。突然の社長就任ではあったが、同社は順調に営業利益の伸びを見せている。その秘訣は何なのだろうか。
日本サード・パーティは1987年に森 豊氏の父、故:森 和昭氏により、海外IT機器メーカが日本に進出する際のテクニカルサービス、ヘルプデスク、トレーニングなどのアウトソーシングを提供する独立系の専門企業として設立された。以降、きめ細やかなサービスを武器に海外の多数のIT企業と取引を行い、独自の地位を確立している。2006年にはジャスダックに上場を果たし、順調に業容を拡大してきた。

新規事業で分かった「ヒト、モノ、カネ、情報」

森氏が社長に指名されたのが2014年3月末。4月1日から就任するに当たっては、父からの事前の社長業のための引き継ぎの時間はなかったという。そして和昭氏は森氏の社長業の船出を見届ける間もなく、4月26日に亡くなる。

社長就任以前は執行役員だった森氏だが、突然社長となって戸惑いを感じることはなかったのだろうか。

日本サード・パーティ株式会社 森豊社長 インタビュー画像1−1

「その時点で入社して12年ほどで、海外事業戦略室、ヘルプデスク、新規事業を一通り経験していたので、戸惑いはなかったですね。特に2013年にサービス提供をはじめたWayin(ウェイイン)を立ち上げたことで経営のための勘所を押さえることができました」。

Wayinとはソーシャルメディアの情報(ツイートなど)を効率的に抽出し、製品やサービスのプロモーションやブランディングを行うことのできるサービスだ。米国のWayin社が開発し、英語版以外での提供は日本が最初だった。

「我々は今までITインフラを中心に扱ってきたので、これまでお取引がなかった業界、例えば広告代理店、一般消費財のメーカ、Eコマースなどへの販路が必要でした。それをゼロから開拓していく過程で、会社経営の基本とされる『ヒト、モノ、カネ、情報』を実践で身につけることができたのです」。

社長に就任してからはまず部署ごと、個人ごとの稼働率など細かい部分の徹底的なチェックに取り組んだ。

「組織をチェックする上で参考にしたのが、アメーバ経営で知られる稲盛和夫氏の経営管理手法です。セクショナリズムが出る恐れもあると思ったのですが、全くの杞憂でした。実際は部署の垣根を越え、うちの空いている要員を使ってくれなどといった組織の活性化が起こって、全体の稼働率が上がり、収益も上がりました」。

次に森氏が取り組んだのは十年来の大きな課題に立ち向かうことだった。

海外IT企業のアウトソーシングというビジネスモデルで順風満帆だった同社だが、2008年頃から業界の劇的な変化に直面することになる。

「ITインフラ業界も2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災で事業の停滞を余儀なくされました。IT業界の技術の変化のスピードは非常に速い。その上、クラウド化の波が来て社内でハードウェアを買うことがなくなり、システムを借りるなどする『持たざる経営』に変化しました。昔は勝ち組の海外企業のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の地位を確立していれば良かったのですが、今は変化が速すぎて勝ち組がどこかすら分からない。私は、当社がどこへ向かったらいいのか、何を売りにすれば良いのかをずっと考えてきました」。

そこで森氏が社長になってまず提唱したのがクラウド、ビッグデータ、ロボティクスという三本柱に注力するということだった。

日本サード・パーティ株式会社 森豊社長 インタビュー画像1−2

「この3つはお客様が特に興味を持っていてニーズのある分野ですから、我々もそれに合わせて技術の研鑽をしないといけない。最先端の技術を持ったエンジニアを育てることこそが差別化につながると考えました」。

同社の360人の社員のうち90%以上がエンジニアである。同社の強みはそのエンジニア達への徹底したトレーニングシステムだ。常に技術を磨いていこうという風土があるが故に、会社が用意したトレーニングとは別に、休日などに社員同士の自発的な勉強会も開かれている。これは創業当時からの伝統だという。

森氏が社長に就任してからはユニークな採用もはじめた。森氏が理想の社員だと思う30人程度の社員を選抜し、そのリクルートチームに採用を全て任せており、良い結果を出しているという。

三本柱のうち、ロボティクスはこれまで取り組んできたITとはちょっと毛色が違うような気がするが?

「今のロボットはいくつものプログラミング言語で動くので、それをプログラミングする技術者も必要ですし、Watsonなどの人工知能(AI)を活用した質問応答システムなどのコミュニケーション機能を組み合わせることも必須なので、複数の最先端のIT技術が必要なのです。実は弊社でも、ロボティクスを提唱した当初はPython(パイソン:ロボットを動かすプログラミング言語)などを積極的に勉強する雰囲気ではなかったのですが、フランスのアルデバランロボティクス社と契約しNAOというロボットを扱うようになった途端に、Pythonの勉強会が満員になりました。ロボットの実物を見るとプログラミングして自分で動かしてみたくなるものです(笑)」。

日本サード・パーティ株式会社 森豊社長 インタビュー画像1−3

2016年は新規事業の飛躍の年へ

同社では今年度新規事業の組織編成を行い5本の柱とした。前述の「クラウド・ビッグデータ」「ロボット・人工知能(AI)」に加え、従来から行っていた高度医療機器のメンテナンスだけでなく、海外医療機器メーカの日本やアジア進出への一貫したBPOやサービス提供をめざす「医療戦略コンサルティング」、O2O(Online to Offline)でのジオロケーションマーケティング機能(地域を特定しての効果的なマーケティング)を駆使した「デジタルマーケティング」、2020年の東京オリンピックに向けて当社の強みである多言語のサポートを行う「マルチリンガルサポート」の事業化を計画している。また、2016年4月に設立された「ブロックチェーン推進協会」の発起メンバーに参画し、新たな分野の事業化も目指している。

利益と義と失敗を大切にする

意識している経営の原則とは?
「第一には荀子の言葉で『義を先にし利を後にする者が栄える』、つまり正しい行為を正しいルールにもとづいて行うという行動規範で、「利益の追求」を優先するのではなく、「正しい行為」を「正しいルール」にもとづいて行なうことです。

第二にはいつも利益を意識する。利益とはお客様からの評価です。提供する技術がお客様の求めているものでなければ利益にはならないのです。

第一と第二は決して矛盾することではなく、利益が出なくても世のためになることであれば、お客様と一緒にやっていこうと考えています。義を大切にしつつ利益も意識するということです。

第三は早く小さくたくさんチャレンジすること。目に見えない小さな失敗がたくさんあった上で成功が生まれます。恐れずチャレンジしていくことが重要です。この3つは私自身が意識しているだけでなく社員にも指導しています」。

日本サード・パーティ株式会社 森豊社長 インタビュー画像1−4

Connect to the Future 未来の新しい技術をお客様に提供する

就任して2年間のうちに良き伝統を残しながらも、改革を行い、成果を上げてきた森氏。

社員が自主的に新技術をマスターしようという気風があるというが、森氏自身が一番貪欲に新技術や業界の動向などを学んでいる印象を受けた。Connect to the Future~未来の新しい技術をお客様に提供する~というコーポレートメッセージを社長自ら実践しているが故に、社員のモチベーションも上がるのだ。今後も日本サード・パーティの変革と成長は続くだろう。

interviewer

KSG
関 幸四郎

引用元:ベンチャータイムス

記事掲載日:2016年6月15日

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