地場に根ざす中小企業のM&A駆け込み寺 各都道府県にアドバイザー30社を設置する
大手コンサルが拒む1億円以下の案件も積極的に扱う
アルテパートナーズは“中小企業のM&A駆け込み寺と呼んでよいかもしれない。設立は2009年。青山監査法人プライスウォーターハウス勤務を経た大原達朗氏が、2004年に設立した大原公認会計士事務所が母体となった。
中小企業の経営者が、大手M&Aコンサルティング会社に売却の相談を持ち込んでも、多くの場合、門前払い同様の扱いを受けてしまう。たとえば売却価額が1億円以下の案件を完全成功報酬で成約させると、報酬は仲介手数料500万円以下にとどまり、割に合わないと判断されるのだ。
同社が小規模ニーズに特化したM&Aを仲介しているのは、いわば逆張りの発想に基づいている。後継者対策や不採算事業の整理などで売却を望む経営者は、いまもなお増加傾向を辿り、銀行も買収資金を低利で融資する時勢にある。M&Aの需給バランスが良好ななかで、大原氏は同業者の指向性に着眼した。
「M&Aで成果を上げるにつれて、コンサルティング会社はどんどんサイズの大きい案件に向かうようになる。個人コンサルタントも、できる人は大きい案件を扱うようになる。これは自然な流れだが、事業承継のために売却を考えている経営者は、相談先がなくて困ってしまう。このギャップをカバーするために、当社は1億円以下の案件も積極的に扱っている」。
だが、採算性はどうなのだろうか。
M&A担当者は個人事業主、経営者の気持ちに敏感
同社にはM&A担当者を5人配置しているが、5人とは完全成功報酬の業務委託契約を結び、出勤も自由にして、人件費と5人の執務スペース相当の賃料など「間接費を限りなくゼロにした」(大原氏)。報酬が数百万円の案件でも採算を取れる体制を敷いたのである。
担当者の5人とも個人事業主である。同社のメリットはコストパフォーマンスだけでない。5人はみずから行なう確定申告を通してPLとBSに精通し、さらに個人事業主という立ち位置から、中小企業オーナー経営者の感覚に敏感になれるという。
「この仕事は、買収側と売却側双方のオーナー経営者の気持ちを察知できるかどうかが大切だ。コンサルティング会社に勤めるサラリーマンでは、デューデリに長けていても、オーナー経営者の気持ちは分からない。個人事業主は売り上げが上がらなければ生活費に響くが、この感覚はオーナー経営者に近い」(大原氏)。
売却案件には飲食店や美容サロン、英会話教室、整骨院など個人店が多く、生業感覚で営んできた企業や事業部門のM&A仲介には、個人事業主のほうに気脈が通じるのだ。
5人には他の仕事に携わっている人も含まれ、稼働状況はメンバーによって波がある。成約件数は年間6~10件で、企業売却よりも不採算店舗などの事業譲渡が多く、売買価額は250万円から1億円前後の間に分布している。
設立した日本M&Aアドバイザー協会では70社が稼働
完全成功報酬契約のメンバーをどれだけ増やせるか。これが同社の事業拡大を左右するが、大原氏は「社員に比べて個人事業主のコントロールは難しい。いまのスタイルだと最大で20人、実際は10人ぐらいが限界かもしれない」と打ち明ける。
この限界をカバーする体制として、大原氏は2010年に一般社団法人日本M&Aアドバイザー協会を設立した。地場で営んでいる公認会計士や税理士、経営コンサルタントなどにメンバーに加わってもらい、ノウハウとネットワークを活用して、案件発掘から成約まで中小企業のM&Aをサポートしようと考えたのである。
現在メンバーは70社。士業のほかに不動産事業者や複数のフランチャイズに加盟するオーナー企業、あるいは企業売却の経験者もいる。「このメンバーは良い形で売却ができなかったので、経験を活かしてアドバイザーになって良いM&Aを成約させたいという目的で入会している」(大原氏)。
ここで、大原氏は意外なことを指摘した。
「じつは世間のM&Aの多くが失敗している。当社で手がけた案件は半分が成功しているので、成功率は高いほうだ」。
世間のM&Aの多くが失敗するのは経営者の問題
何が失敗を招いているのだろうか。原因は二つあるという。第一に買収側の経営者が買収後の経営を明確にイメージしていないこと。イメージしていれば、事前リサーチで精査すべき要素が明らかになり、フタを開けたら想定と違っていたという事態を回避できる。第二の原因は、買収側の経営者が買収した企業の経営を担当役員任せにして、深くコミットしないこと。
どちらも経営者の問題で、アドバイザーにはカバーできない。経営者の関与は売却側との初回面談にも必須で、大原氏は「初回面談に買い手の経営者が出席すると本気度が伝わる」と強調する。
その一方で、売却側の経営者にも問題が多く、自社に関わる契約内容や店舗別の収支などを正確に把握せず、根拠のある説明ができない経営者も少なくないのだという。信憑性が疑われるだけではない。「経営状況を把握していないと、自社のバリューを見逃してしまうこともある」(大原氏)という失態も引き起こしてしまう。
中小企業のM&Aニーズは全国で高まってゆく気運にあるが、サポート機能は東京に偏在しているのが現状である。すでに日本M&Aアドバイザー協会のメンバーは名古屋市、大阪市、広島市、福岡市などに点在しているが、当面はメンバー数200社をめざす。
いずれ各都道府県に約30社を配置し、全国1500社の拠点化に取り組む構想だ。M&Aのインフラが整備されれば、地方経済の新陳代謝にも寄与するだろう。
interviewer
引用元:M&Aタイムス
記事掲載日:2015年12月3日