強い体質にするために徹底して企業カル チャーを浸透させる急成長上場ベンチャー
まったく新しいサービスを生み出して仲間と起業
日本未入荷を含めた世界中のブランド品やトレンドアイテムをお得に購入できるサービス ―― 『BUYMA(バイマ)』。海外にいる日本人がバイヤーとなり、商品を出品。注文が入るとバイヤーが買付、発送をする。このバイイング・マーケット(買い付け市場)により購入者は安く、バイヤーは無在庫でビジネスができるようになり、月商数百万というバイヤーもいるなど、驚きは多い。
この新しいサービスを運営するのが株式会社エニグモだ。同社代表取締役の須田将啓は、そもそも、理工学部から大学院にまで進んだ経歴の持ち主。「世の中に大きなインパクトを与える職業として、教授か経営者になりたかった」と振り返る。しかし、どちらかを絞り込むことはできず、大学院へ。その際、どちらでも選択できるようにコンピュータサイエンスの分野に飛び込んだ。その後、ビジネスに可能性を感じ「30歳までに起業」という目標を胸に、将来経営者になるならマーケティングの勉強がきっと役立つはずと思い、広告代理店の博報堂に入社し、マーケティングに携わった。
しかし、エニグモの起こりは一足早い28歳のとき。
「のちに共同創業者となる田中禎人と職場で出会い、彼が『BUYMA』の原案を出してきた。アイデアを聞いて、このサービスを世に出したいと強く思った。起業に必要な経験・アイデア・仲間の3つがそろったのがこのとき」だった。
それから準備を重ね、2004年に起業。『BUYMA』を運営し、いまや年間取扱高128億円(2013年1月期)、従業員40人の規模の会社に成長した。
本当に強い企業は強いカルチャーを持っている
10年間の成長を語るうえで、須田が指摘するのは「チームの存在」。チームあってこそといっても過言ではない。
だが、そもそもチームとは何か? 須田は、2つの大切な軸があると言う。1つ目の軸は、価値観の優先順位。
「自分が上にあるのか、チームが上にあるのか。チームのために自分は何が貢献できるかと考える人でないと、突き詰めたときにずれがでてくる。エニグモというチームにおいて、これが非常に大切。また、価値観は直らないものだと思っている」
これまでに培ってきた価値観を、教育することは難しい。だから、価値観の優先順位を採用時には複数の観点から十分に考慮する。
「うちのようなソーシャルサービスの場合、運営者の人柄がにじみ出てくる。そして、われわれの立場はお客様に選んでいただく側である。だから、我が強い人は向いていない」
もう1つ、須田が大切にする軸は、カルチャーだ。
「本当に強い企業は強いカルチャーを持っている。そして、カルチャーが末端まで浸透している。カルチャーは価値観と違い、染めることもできる」
「世界が変わる、新しい価値を」がエニグモのカルチャーを象徴する言葉。振り返れば、起業の発端でもある『BUYMA』はいままでにないサービスだった。
このカルチャーが同社ではサービスの開発から社内イベントの企画まで遺憾なく発揮されている。
「真似をすることはダサいというカルチャーがある。ただし、悪ふざけになっていたら意味がない。ここで止まっていたら、それはカルチャーが浸透していない証拠。本質を見て、体現するべきアイデアを新しく考えるところまでいって浸透していると言える」
エニグモではこのカルチャーを浸透させるためにさまざまな方法を駆使している。その1つが「ENIGMO7」と呼ばれるキーワード。普通の会社における経営理念のようなものといえばわかりが早いか。
「やんちゃであれ!」「仕事に美学を!」「本質を掴め!」「オープンに!」「リアルを追え!」「結果にこだわれ!」「限界をやぶれ!」の7つである。
たとえば、「やんちゃであれ!」を須田はこう説明する。
「ベンチャーなので、何ごとにもチャレンジしていかなければならない。成功例がなくてもフロンティアがあると思ったら飛び込んでいく。そんな人をやんちゃな人という」
しかし、これがすべてという訳ではない。
「言葉では語れないものは多い。だから、『ENIGMO7』がすべてではない。仕事への取り組み方、言動などにもカルチャーはある。朝礼や飲み会などの場でも常に伝えるし気づくたびに指摘している」
価値観、カルチャーを重んじるからこそ、エニグモは強い企業となった。また、人材の就労意識にも目を見張るものがある。「社員は明確な目的を持っている。私のように起業を目指し、学ぶために働いている社員もいる」
驚くことに、これまでエニグモを卒業したメンバーらがそれぞれ起業し、10社もの新会社が生まれているのだ。
世界に旗を立てるための3ヵ年計画
12年にマザーズ上場を果たしたエニグモだが、昨年から3ヵ年計画を実行に移している。1年目はビジネスのタネをまく。出資会社という形を取り、裁量を与えて事業を行なわせる。2年目は、タネを厳選していく。発芽したビジネスの現状から、適切な戦略、施策を考える。そして3年目は、成長させる。
1年目に当たる昨年は、『BUYMA』の韓国版『BUYMA Korea』や世界中の書籍を翻訳、電子書籍化する『BUYMA Books』などの4つのタネをまいた。
「どれもそれなりに手応えは感じている。今年は、ベストな戦略を立てて、すべて黒字化することが目標。さらに先を見ると、17年1月期で営業利益30億円、19年1月期で50億円を数値として立てている。エニグモとしては、上場というのが1つの区切りだった。これからの10年は世界規模で認知されるよう、グローバルで勝負したい。エニグモここにありと旗を立て世界にインパクトを与えたい」
須田はそう語り、微笑んだ。
引用元:CEO社長情報
記事掲載日:2014年3月