『面白いゲームを世に生み出すため、すべての開発を社長が統括』
職人肌の修練と「アメーバ開発」が大ヒットをつくる
累計2000万ダウンロード。日本人の7人に1人が遊んでいる計算となるゲーム『パズル&ドラゴンズ(以下、パズドラ)』。誰もが知るビッグタイトルを運営しているのがガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(以下、ガンホー)だ。さまざまなメディアで紹介され、ゲーマーから投資家、子供から大人までが注目する企業となった、まさに時代の寵児である。なぜこんな超ド級のゲームができ上がったのか。代表取締役社長CEOの森下一喜の話を聞くと、それが見えてきた。
森下の名刺には、「企画開発部門統括 エグゼクティブプロデューサー」という肩書きが書き加えられている。なんと、すべてのゲーム開発の統括を行なっているのだ。それも、初めのゲームデザインから、最終のテストまで。その徹底ぶりは誰もが知っていて、リリース直前であっても、ダメならやり直す。それで開発期間が伸びようと、費用がかかろうと関係ない。一切の妥協を許さない。
森下に言わせると「ゲームのつくり方は大工の棟梁みたいなもの。鉋の削り方はこうやるんだ、みたいな勘を養っていくしか方法がない。ゲームについて言葉で一生懸命説明してもわかるわけがない。山本五十六ですよ」
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」なのだ。
だから、教え方にも細心の注意を払う。例えば、キャラクターデザインを伝える際に「もっとかっこよく」ではわからない。その言葉がわかるためには、自分のなかのビジュアルイメージを相手の脳にインプットする必要がある。だから具体例を見せ、無ければ自分で描いてみせる。
上場企業でありながら、社長自らが開発を統括する。一見、経営の本質からはずれて見えるが、この体制に至ったのには、苦い過去がある。プロデュースしたオンラインゲーム『ラグナロクオンライン』が大ヒットし、上場。その後、森下は開発を離れ、経営に専念した。しかし、それからというもの何一つヒットが生まれなかった。
「作品が生まれないのではないが、これではガンホーそのものとしてやっている意味がないと思った」
そこで、何のために会社をつくったのかを自ら問い直した。結論は、社長をするためではない。
「面白いゲームがつくりたい。だから、自分が再び開発のトップをやると決めた」(森下)
反省から生まれ変わった開発体制。この変化は功を奏し、ヒットが出始めた。いままでに出したスマートフォンのタイトルはすべて黒字。ガンホーの力は開発の力であると森下は力説する。
ガンホーの開発力には、もう一つの特徴がある。「アメーバ開発」だ。プロジェクトごとに細かくチームを分けつつ、流動的な組織で開発を行なう。もし、どこかで困っているプロジェクトがあったら、自分の手を止めてでも助けにいく。困ったら助け合うゲームの協力プレーのようなチームワークが根づいているのだ。
また、森下が統括する利点は他にもある。森下の頭には、全タイトルの全仕様と全状況が入っている。俯瞰で見ることにより、「このプロジェクトにあいつがいれば絶対いいな」と思えば他のチームから引っ張ってくる。
この帰結として、森下は予算や包括的な人事管理はまったくしない。開発と管理を分け、開発は作品のことだけを考えられるようにしている。そのため、ラインマネージャーが予算と包括的な人事管理をしている。彼らは、開発会議に出席できないほどの徹底ぶりだ。
ゲームづくりも会社づくりも破壊が必要
森下の考えるゲームづくりには3つのポイントがある。
「面白くて楽しくて驚きのあるものをつくる。面白いのは当たり前。楽しければもっと長く続けて遊びたくなる、驚きは直感的にびっくりするから、人に教えたくなる」(森下)
シンプルだが言葉の意味は深い。つまり同社では、常に「こんなゲームをつくりたい」という思いが念頭にあるのだ。だから、既存の考え方に縛られないし、開発にマーケティングは不要。
「マーケティングに則ってゲームをつくるのは、所詮、二番煎じ」
そのため、みな常にいまの自分たちに懐疑的である。遊び方のセオリーを破壊し、見たことのない遊びをつくりたいからだ。だから、うまくいくまで徹底する。すると、不思議と形が見えてくる。「脳汁の出る瞬間です」(森下)
そういえばパズドラも最初は横に持つスタイルだったが、スマホを縦に持つようにしたという。
「その方が片手で持って動かせるし、女性も可愛く見える」
それがひらめいた瞬間このゲームは成功した。
「結局、物事は原体験でしかない。頭の中にインプットされた原体験がインスパイアされ、ゲームができる。だからこそ、たくさんの人の原体験を寄せ集めて、アイデアを出していく。企画会議もするし、飲みに行ってくだらない話から浮かんだりもする」
森下のワンマン体制のようでいて、実はチームとして高度に機能しているところに同社の「成功」があるのだろう。
右肩上がりの急成長を続ける同社だが、過度な人員の増加は行なっていない。
第2、第3の森下は生まれるかと尋ねてみると、森下はこう言った。
「生まれたらいいとは思う。ただ、自分なりのやり方で、森下流を破壊していかないと駄目だとも思う」
引用元:CEO社長情報
記事掲載日:2013年10月