「安くて、大きくて、うまい」もつ焼きの居酒屋食材の生産から加工、店舗配送まで一貫体制構築
「もつの串焼き」と言えば、赤提灯では定番の“のん兵衛”の大好物。そのため、居酒屋では、もつ焼きを強化している店も少なくない。
そんな中、圧倒的に“安くて、大きくて、うまい”もつ焼きで、顧客の支持を集めているのが、もつ焼き専門居酒屋「串屋横丁」だ。例えば、看板メニューの豚のもつ焼き「スーパーホルモンロール」は1本(100グラム)120円だが、他店なら30グラムで160円はするという。同店を東京や千葉などで約40店舗展開しているのが、千葉県茂原市を本拠とするドリーマーズだ。
同社は2003年の設立。食材の生産から加工、店舗への配送までの一貫体制を構築、大幅なコストダウンを実現しているのが強みだ。そうした居酒屋は、ほぼ皆無に等しいという。ひと口に“もつ”と言っても、牛、豚、鶏といった具合に由来の家畜はいろいろあるが、とりわけ、同社が力を入れているのが豚のもつだ。「お客さまに喜ばれ、店も儲かる仕組みを作るには、流通革命を起こさなければなりません。
しかし、牛や鶏の流通ルートは完成されてしまっていて、新規参入するのは容易ではない。その点、豚の流通ルートは入り込む余地がまだ多く残っていたからです」と、同社の中村正利社長は明かす。
農家からの豚の直仕入れで、原価を大幅圧縮
低コスト化のポイントの第一が豚の直接取引。実は、中村社長は、生家がかつて茂原市で精肉店を営んでいたため、畜産品の流通にくわしく、畜産農家や精肉市場とのコネクションもあった。それらを生かして畜産卸に参入、家畜の屠場を利用できるようにした。その上で、養豚農家を1件1件口説いて、豚の直仕入れを拡大していった。
「屠場がないと、農家から家畜を引き取ることができないからです。農家には一般の卸よりも高めの仕入れ値を提示して、協力してもらっています。肉やもつは、メニューに応じて部位別の必要量を確保しなければなりませんが、畜産卸を兼営すれば、肉やもつが余っても外販で効率よくさばけるので、適正なストックが維持できるわけです」(中村社長)
畜産品の大半は、一次卸→二次卸という流通ルートを経由するため、中間コストが高くなる。大半の居酒屋は豚の肉やもつを二次卸、もしくは精肉店から買い入れているが、同社はその数分の1の原価で調達できるという。さらに、2013年には、千葉県の直営牧場で養豚にも乗り出した。現在、「縄文豚」(沖縄のアグー豚の純血種)を約300頭飼育している。
工場に串刺し作業を集約、労働生産性がアップ
養豚農家や直営牧場から集められた豚は、屠場で処理されたあと、茂原市の直営工場で集中加工される。それが第二の低コスト化のポイントだ。
「もつ焼き店では、原価のほかにコストがかかるのは人件費なんですね。とりわけ、もつを串に刺すのに、時間と手間がかかるんです。そこで、工場に串刺し作業を集約しました。工場のスタッフは作業に熟達するので能率が高まり、各店で串刺し作業をするよりも労働生産性が格段にアップします。さらに、店頭での串刺し作業が不要になるため、店舗も厨房設備が縮小でき、串焼きや接客に専念できます。作業人数も減らせるので、人件費がぐんと下がるのです」
工場で加工したもつの串は、専用トラックで毎日、各店に配送されるので、鮮度は保たれている。工場と配送の人件費は現在、月に約600万円かかっているが、仮に店頭での串刺し作業に切り替えたとすると、全店の人件費は月に約1700万円増えると推計される。つまり、月間人件費が約1100万円節減できるというわけだ。
頑固親父のもつ焼き繁盛店をチェーン化する仕組み首都圏で100店舗体制を築いたら出店をストップ
ドリーマーズが低コスト化できる第三のポイントは「一等地に出店しないこと」。例えば、駅から離れた裏通りの店舗は、駅前の目抜き通りに比べて賃料が大きく下がる。流通のセオリーからすれば、裏通りのような不便な立地は集客力が落ちるとされているからだ。しかし、同社は逆張りの戦略で、そうした店舗運営費の安い「訳あり物件」をあえて狙う。中村正利社長はこう説明する。
「居酒屋の場合、立地条件は競争力の決め手にはなりません。酒飲みのお客さまは、味や価格といった中身で店を選ぶからです。しかも、店舗年齢が上がれば上がるほど、常連さんの割合が高まるので、ファンがつけば立地が悪くても商売は成り立つんです」
それだけではない。同社はグループに建設会社も抱えており、1件3000万円とも言われる店舗の建築費も抑えている。余計な宣伝広告費もかけない。「お客さまは口コミで店を評価しています。ましてや、今はインターネットの時代。店の中身に価値があれば、SNSなどを通じて、おのずとお客さまが集まるはずなんです」(中村社長)。
店舗運営費や広告宣伝費にコストをかけるくらいなら、サービスで還元すべきというのが、中村社長の考えだ。例えば、ドリンク1杯目が永久的に無料サービスしてもらえる「ドリンクパスポート」。つまみを頼まずに酒だけを飲む常連客に取得されると“商売あがったり”になってしまいかねず、「ほかの居酒屋はまず導入しない」のだが、それだけに好評で、差別化の強力な武器になっている。
イタリアンの料理人出身、FC店経営も経験
飲食事業では店舗運営に目が行きがちなのだが、こうした流通の「仕組み化」に着目したのは、中村社長自身のこれまでの経験がバックボーンとなっている。
中村社長はもともと料理が好きで、調理師専門学校を卒業後、東京・麻布の有名イタリア料理店に入り、料理人としての修業を積んだあと、ドトールコーヒーの工場に転職した。さらに、起業を決意して住宅メーカーの営業マンに転身、独立資金を貯めて当時、日の出の勢いだったITベンチャーを設立した。ところが、当初は順調に業績を伸ばしていたものの、ITバブルの崩壊であえなく倒産。約4000万円残った負債を返済するため、今度は居酒屋チェーンとフランチャイズ契約を結んで、地元の茂原市に焼き鳥店を開業し、それがきっかけとなって、2年後に自前の串屋横丁をオープンするに至ったのだ。
「最初に大きな影響を受けたのはドトールコーヒーでした。本格焙煎の喫茶店のコーヒーが格安で飲めるという仕組みに関心を持ったんですね。さらに、自分でも実際にFCの焼き鳥店を経営してみて、飲食事業やFCビジネスの問題点に気づいたんです」
中村社長が考えたのは、「頑固親父がやっているもつ焼きの繁盛店を、チェーンとして仕組み化すること」だったという。
「その土地で長年続いている個人店は、設備投資や賃料がかさむチェーン店と違って、店舗や設備が自前で、ローンを抱えていないケースが大半なんですね。FC契約もしていないので儲かる。ところが、串屋横丁の直営店は、さらに個人店よりも原価が安く、食材を工場で集中加工するので、仕込みの人件費もかからない。同じ売上げなら断然、利益率が高いんです。最強のビジネスモデルですよ」
20代でも年収1000万円の店長が続出
きわめつけが給与システムだ。売上げに応じた実績給が基本となっているので、固定給の支払いで経営が圧迫されることがない。「店の売上げが上がれば、自分の給料も上がるという、わかりやすい給与体系です。放っておいても、店舗のスタッフは頑張って働いてくれるんですよ」と、中村社長はにんまり笑う。
実際に、20代でも年収1000万円を超える直営店長が続出している。外食産業では希有な例と言っていいだろう。同社では、FC加盟店も募集しており、2015年からは店長を養成するための「串屋横丁経営実戦塾」を無料で開講、独立を目指している社員やFC契約を結んだ研修生が参加している。入塾から独立まで最短2年半が目安で、すでにFC店は約30店舗に達している。「FC店のオーナーには10店舗出店、年間経常利益1億円を経営目標にしてもらっています。そうなれば、年収5000万円も夢ではありません」と、中村社長は豪語する。
同社は、串屋横丁のほか、牛の「熟成肉」などを提供するイタリアンステーキレストラン「小松屋」も、東京・銀座などに4店舗展開している。2年後をメドに第二の直営牧場も開設する計画。しかし、「首都圏で100店舗体制を築いたら、店舗開発はいったん止めます」と中村社長は言い切る。それ以上にチェーンを拡大すると、肉やもつの直接調達、工場からの毎日配送が難しくなるからだ。
「うちの生命線は流通の仕組み。経営は量ではなく、質が大切なので、必ずしも売上げは追求しません。それに、ほかの飲食のベンチャーのように、IPOも考えていません。外部の株主が増えれば、経営の自主性が損なわれるリスクがあるからです。まわりと比べる必要はない、自信を持てと、若手の経営者には言いたいですね」
中村社長は来年、50歳を迎えたら経営の第一線からはセミリタイヤし、世界中を巡って趣味の釣りに没頭するなど、人生を謳歌したいと夢を語る。「仕事は人のために行うもの。企業は社会に価値を生み出すための仕組み。お客さまも、お取引先も、社員も幸せにならなければ、企業を経営する意味はありません」。独自路線を貫くドリーマーズ=「夢見る集団」がこれからどこへ向かうのか、ますます注目が集まりそうだ。
引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2018年1月29日