不動産取引とITを融合させた革新力 4つの新事業でシナジーを狙う
2016年12月期決算は営業利益、経常利益とも倍増
ベンチャー企業には、前回取材から1~2年後に訪問すると、ガラリと変貌している例が多い。アパート経営プラットフォームを運営するインベスターズクラウドは、その典型だろう。2016年12月に東証一部に上場した同社は、すでにベンチャー企業の域を卒業したが、2年ぶりに訪問したところ、相変わらずベンチャー精神が横溢し、業態の革新を一気呵成に進めている。
同社は2016年に、業態を大きく拡充する4事業をスタートさせた。IoT事業、民泊事業、クラウドファンディング事業、リノベーション事業の4つで、同社の成長力を担保しているリアル不動産ビジネスとITの融合を複合的に進めるステップに入った。
だが、既存事業の成熟を見据えて、4つの新事業に着手したのではない。既存事業は成長力を持続させ、成熟の兆しを見せていない。16年12月期通期決算では売上高の97%を既存事業が占めたが、売上高は前期比76・2%の379億1500万円、営業利益は100・6%増の38億600万円、経常利益は101・9%増の38億300万円だった。
TATERU事業で運営される会員と不動産事業者との土地マッチングは、デベロッパーなどを介さない一次流通モデルである。会員は中間マージンや二重課税を回避でき、不動産事業者は仲介手数料が増える。同社は土地在庫を持たないため財務リスクを軽減でき、“利益=現金”のフリーキャッシュフロー経営に取り組める。
こうして三者三様のメリットを創出しつづけ、会員数は前期比1万5869人増の10万6592人、会員と登録不動産事業者(1万2000社)との成約件数は前期比249件増の687件、管理戸数は3591件増の1万3187戸に至った。
17年12月期業績予想も、勢いが持続している。売上高505億4000万円(33・3%増)、営業利益53億6000万円(40・8%増)、経常利益52億8000万円(38・8%増)と発表している。
1口10万円のアパート投資
運用額の下落は劣後債でカバー
この勢いの渦中で、何を意図して新事業を仕掛けたのか。古木氏は説明する。
「フリーキャッシュフロー経営で得た現金の投資先として、4つの事業に取り組んでいます。4つの事業は、TATERU事業とシナジーを見込める事業と、リアルエステートテック企業としてリアルとネットを融合して展開できる事業、この2つのコンセプトで選定しました」
4事業をそれぞれ概観すると、リノベーション事業は「明確に他社と差別化できる要素はないのですが」(古木氏)とはいえ、TATERU事業で築いたプラットフォームを横展開し、昨年度には売り上げを上げている。クラウドファンディング事業はWEB上で1棟のアパートに対して1口10万円で出資を募り、賃貸収益から運用益を分配する。運用資産の評価額が下落した場合、同社が劣後出資者として下落分を補てんするため、30%以上下落しなければ元本に変動が発生しない。さらに投資物件が1棟なので、複数物件に投資するREITと違い、物件の収益状況がわかりやすい。
アパート室内にタブレット設置
入居者はスマホで来訪者と会話
クラウドファンディングの少額投資、安定性、透明性。これらの要素は出資希望者を文字どおり駆け込ませ、第1号ファンドは約20分で募集が完了し、第2に至っては約1分で完了した。第3号では初の新築物件ファンドを組成したところ、募集総額5040万円に対して、約3倍の1億5390万円の応募が集まった。この4月には第4号として5400万円を募集し、今後は全国14都市の新築アパートを中心に、民泊物件や海外不動産も運用資産に組み込む方針である。
古木氏は、TATERU事業とのシナジーについて「クラウドファンディング事業ではアパート経営へのステップアップを支援していますが、すでにTATERUで取り扱っているアパート7棟を販売して、約5億8000万円を売り上げています」と評価。今後ファンド規模を拡大させる計画を立てている。
もうひとつのコンセプトであるネットとリアルの融合事業のうち、IoT事業は、これからサービスの普及に着手する。アパートの室内にタブレットを設置し、入居者が所持するスマホと連動させ、外出先からも来訪者動画を見ながら応答できる。来訪者が宅配便業者なら、その場で配達時間の予約を取り付けられる。タブレットのセントラルコントロールによって、スマホから室内のエアコンや照明の操作、侵入者などのセキュリティーチェックもできる。
だが、利便性が格段に向上する一方で、タブレット設置費用は賃料に跳ね返るのではないか。この疑問に古木氏は「検討中だが、もし賃料に反映させた場合でも月々1000~2000円程度です」。この金額なら普及のハードルにはならず、物件の付加価値として認知されるだろう。おもにTATERU事業の管理物件に勧めていくが、これもプラットフォームをもつ強みである。
民泊物件にスマホをレンタル
コンシェルジュ機能を導入
一方、民泊事業では、16年12月に、全国の民泊物件にスマホやPCから予約できる宿泊プラットフォーム「TATERU bnb」の運用を開始した。収入源はマッチング手数料だけでなく、17年2月には、子会社ⅰVacationが宿泊施設向けにコンシェルジュ機能を導入したスマホのレンタルを開始した。英語・中国語・韓国語・日本語の多言語対応のコンシェルジュが、チャットで24時間にわたって、観光案内、レストラン予約、タクシー手配などを行なう。
こうした4事業を展開できるのは、リアルとネットの融合によって「不動産業界でIT化されていない業務を一つひとつIT化してきた」(古木氏)蓄積があるからだ。同社は不動産企業であり、IT企業でもある。いわば2つの業種を組み合わせた事業体である。目下、リアルとネットの融合は各業界に共通した喫緊の経営テーマだが、次の発展段階に進むには、リアルとネットのどちらでも専門企業であることが必須で、どちらかが専門外では、成長力の高い融合モデルは築けない。
同社の場合、ITエンジニア部隊が成長に大きく寄与してきたという。古木氏は「当社のITエンジニアたちはたいへん優秀です」と評価するが、処遇にも配慮している。社員289人の平均年齢は30・8歳で、平均年収は721万円と高水準。職種別では「収益の源泉を担っている」(古木氏)という理由でITエンジニアが最も高くなっている。しかもITエンジニアは人員が増え、職種別構成比は15年12月末に全社員の9・9%(21人)だったが、16年12月末には20・3%(61人)にまで拡大した。
インベスターズクラウドは出資にも意欲的で、すでに7社に計16億円を出資し、すべてIPOに向けて支援していくという。機会を改めて、この取り組みも詳しく尋ねてみたい。
interviewer
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引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2017年5月29日