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士業

株式会社クラリスキャピタル 牧野安与 | 小規模市場M&Aのアドバイザー調査に2年連続でランクインした成約力の秘訣

株式会社クラリスキャピタル 代表取締役 牧野安与

着手金、中間手数料、顧問料はなく成功報酬だけで手がける

今回取材したクラリスキャピタル社長の牧野安与氏は、終始控えめな話しぶりと、柔らかな雰囲気が印象的な人物であった。

M&Aでは買収側も売却側もアドバイザーに求めるのは、究極は信頼性である。牧野氏も信頼関係の構築をきわめて重要視している。手数料収入額や成約件数などの数字の追求ではなく、「お客様に喜んでいただけるご縁づくり」に徹しているという。そうすることで、おのずと結果がついてくる、と牧野氏は言う。

早稲田大学政治経済学部を卒業した牧野氏は、意匠建築設計事務所、コンサルティング会社を経て、M&Aアドバイザリー会社・かえでフィナンシャルアドバイザリー(東京都千代田区)に8年勤務して、おもに中堅・中小企業のM&Aアドバイザリー業務の経験を積んだ。

独立してクラリスキャピタルの営業を開始したのは2014年8月(会社設立は同年5月)。中堅・中小企業のM&Aを手がける新規参入のアドバイザリー会社には珍しくないが、同社の報酬体系は完全成功報酬である。着手金、中間手数料、毎月の固定報酬は受け取らない。成功報酬も割安で、もっとも案件数が多い取引価格が1億円以下の案件では、相場のおよそ半額に設定している。

たとえば着手金100万円、中間手数料100万円、毎月の顧問料数十万円、成功報酬500万円の場合、報酬総額は800万円前後になるが、この規模の案件なら同社は200万円の成功報酬を得るだけである。クライアントにとってはメリットだが、M&Aアドバイザリー会社の設立時に完全成功報酬というフロー収入だけでは不安定ではないのか。

株式会社クラリスキャピタル 牧野安与社長 インタビュー画像1-1

自社HPでのプル型営業

牧野氏が、経営の安定を考えて、同社の営業を開始したときに、ストック収入を得る目的で取り組んだのは、意外にもマッサージ店の経営だった。こう振り返る。

「あるマッサージFCに、フランチャイズオーナーとして加盟したのです。スタッフも雇って店舗の経営をはじめましたが、専門外の仕事だったこともあって上手くいかず、4カ月で閉じました。結構な損失が出てしまいましたが、やはり自分がよく理解し、得意な仕事に専念すべきであることを勉強しました」

たった4カ月で店舗を閉じるとは異例だが、この判断は正しかった。得意のM&A仲介・アドバイザリー業は設立後からすぐに軌道に乗り、15年に4件、16年には9件を成約させ、トムソン・ロイターが発表した15年および16年の「Small-Cap M&A Financial Advisory Review」に案件ベースでランクインした。

アドバイザリー業務の成否を担うポイントは「買い手企業はいくらでもあるので、良い売却案件をどれだけ獲得できるか」(牧野氏)。同社はDMなどのプッシュ型の営業ではなく、ホームページでの情報発信に力をいれるプル型営業によるホームページからの集客がメインだ。通常、売却理由でもっとも多いのは経営者が高齢で後継者がいないため事業承継というパターンだが、そういった高齢の経営者はネットで検索する方が少ないので、おのずと30~50代の若い経営者が同社のホームページを見て、相談されることが多いのだという。

株式会社クラリスキャピタル 牧野安与社長 インタビュー画像1-2

買い手側、売り手側、仲介で成約させた案件は全国・各業種

売却理由は海外移住、健康悪化などさまざまで、子育てに専念する目的で売却を考えるケースもあるという。あるいは「私が女性のアドバイザーだから相談しやすいのでしょうか。女性経営者からの相談も多いですね」(牧野氏)という。

取扱案件は全国のさまざまな業種におよび、16年には、買い手側フィナンシャルアドバイザーとして、WEBコンサルティング(買い手)・ヨガスタジオ(売り手)=事業譲渡、小売り・飲食店=事業譲渡、売り手側フィナンシャルアドバイザーとして自転車販売・自転車販売(上場子会社)=事業譲渡、訪問介護・訪問介護=株式譲渡、仲介者として冠婚葬祭(上場)・訪問介護=株式譲渡、システム開発(上場子会社)・システム開発=株式交換などを成約させた。

17年には、すでに2件を成約させている。2月に、学童保育事業者の人材派遣会社への事業譲渡を仲介し、4月には、投資事業のJ-STAR(東京都千代田区)が出資する持株会社JVCCのフィナンシャルアドバイザーとして、動物病院とペットサロンを運営するフジフィールド(東京都調布市)の発行済全株式取得を成約させた。

同社のアドバイザリー業務は、基本的にクライアントと専属契約を結んで着手する。複数のアドバイザリー会社に併行して委託する案件は取り扱わない方針だ(例外あり)。牧野氏は理由を説明する。

「M&Aの交渉は相当ハードです。なかなか商談が進まないと売却側の心が折れてしまったり、買収側からの評価によって傷ついたりすることも多いのです。専属で受託して信頼関係を築かないと、心理面も考慮しながら成約まで運ぶことが難しい。ですから、当社は基本的に専属契約を結んでアドバイザリー業務を引き受けています」

こうした折衝には相応の経験が必要で、数年程度のアドバイザリー業務経験では難しいだろう。

株式会社クラリスキャピタル 牧野安与社長 インタビュー画像1-3

M&Aで買い手と売り手は対等

同社では、依頼があってもM&Aを当面の間、見送るようにアドバイスするケースもある。たとえば売り手の直近の業績の実績が乏しいが、1年後は必ず成長すると想定している場合だ。中小企業は些細な経済環境の変動に翻弄されやすいことから、買い手は売り手による成長の見通しを保守的に見がちであり、未来よりも過去の実績を重視する傾向にある。そのため、業種などにもよるが、売り手が高い確度で成長を予測しているのであれば、1~2期、実績を積んでからのほうが買い手の評価が高まり、高く売却できる可能性が高い。すぐに売却する必要性がないのなら、それから売却のお相手探しをしたほうがよい。そうアドバイスして、1~2年後に、M&Aの依頼を受託する。

一方、買い手に対して、牧野氏は次のように助言する

「投資業を営む会社以外の事業会社の場合は、単に利益がでているなどの数字がいいから、ではなく、本業との相乗効果や成長戦略との整合性を考えるべきでしょう。また、M&Aは買い手と売り手の対等な取引ですから、買う側だから、エライ、どちらがエライなんてことは当然ありません。どのような立場であっても、お相手への敬意を示すことが、よいM&Aに繋がると思います」

独立前を含めM&Aアドバイザリー業務に関わって10年。牧野氏はこの業務に何を見出しているのだろうか。

「M&Aにはハゲタカや乗っ取りなどネガティブなイメージが世間一般的にはまだあるかもしれませんが、現実は、M&Aの取引を相手方に強制させることはできませんし、M&Aは売り手と買い手の双方がハッピーになれる手段だと思います。そのため、良いご縁をたくさん成就させることは、ひいては社会貢献につながるでのは、との思いで取り組んでいます」

牧野氏の誠実な思いが伝わる、率直な言葉である。この明晰なスタンスも、トムソン・ロイターのリーグテーブルにランクインする成約件数に至った原動力に思える。

株式会社クラリスキャピタル 牧野安与社長 インタビュー画像1-4

interviewer

KSG
関 幸四郎

interviewer

経済ジャーナリスト
小野 貴史

引用元:M&Aタイムス

記事掲載日:2017年4月27日

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