オンラインとオフラインを融合し、CRM事業への取り組みを強化
バリューコマースは1996年に設立され(当時の社名はトランズパシフィック有限会社)、2005年にはヤフー株式会社に関連会社化され、2006年には東証マザーズへ上場と順調に事業を拡大し、20年以上もネット広告業界を牽引してきたパイオニアだ。今回お話を伺った香川仁氏は2014年にバリューコマースの社長に就任。4代目社長のバトンを渡された香川氏は、どういった成長戦略を描いているのか
バリューコマース=アフィリエイトの図式を守る?それとも脱却?
バリューコマースと言えば、アフィリエイトのトップランナーというイメージがある。2015年末現在では広告主は1556、アフィリエイトサイト数は623000だといい、国内最大級のアフィリエイトネットワークを誇っている。
「バリューコマース=アフィリエイトというイメージは、あえて崩そうとは思っていません。ただ、お客様のニーズが多様化し、アフィリエイトだけで全てまかなうことはできないので、それに応じてプロダクト、サービスを増やしつつあるところです。現在の軸足はあくまでもアフィリエイトですが、ゆくゆくは“アフィリエイトもやっているバリューコマース”に変化していきたいとは思っています」と社長の香川仁氏は語る。
バリューコマースのアフィリエイト事業の売上高は、2013年は108億89百万円、2014年は120億94百万円、2015年は148億95百万円と過去3年間順調に右肩上がりに伸びており、まだまだアフィリエイトの伸びしろは大きいが―。
「若い人はPCではなくスマホでアフィリエイトを利用するなど、新しいデバイスの普及で利用方法も変化しています。
弊社はアフィリエイトをはじめて16年目で、国内では老舗です。しかしスマホやタブレットの利用や動画の視聴増加、EC市場の拡大、SNSの普及など以前とは消費者の行動が大きく変化しています。アフィリエイトのプレイヤーさんも増えていますし、アフィリエイトを軸にいかに時代に即した事業領域を展開していくかを考えなければいけないと思います」
これからのネット広告はオンラインとオフラインをいかに融合させるかが勝負
そこで着目したのはネットとリアルとの融合であるO2O(Online to Offline)だ。2014年から複数のO2O事業を展開している。
「弊社のアフィリエイトの広告主のお客様は金融、旅行など物販系が多く実際に店舗がある業種が多いので、実店舗に集客するソリューションをとの要望をいただき、PAS+(パスタス)という電子スタンプサービスを使ったO2O事業を2015年11月から開始しました」。
PAS+とはスマホに表示させた画面に、飲食店などが発行するスタンプを押すサービスだ。今までアフィリエイトからリアル店舗への送客の識別方法がほとんどなかったが、これを使えばアフィリエイトからリアル店舗に対して送客したことをトラッキングできる。他にもクレジットカードを使った富裕層インバウンド向けマーケティングサービス「インバウンドCLS」も展開するなど、オンラインからオフラインへ送客のトラッキングの充実を図っている。
「さらにお客様のニーズが高い接客、リテンション(顧客との関係維持)を強化し、フルパッケージでのサービスを提供するために、デジミホ社を買収し、同社のR∞(アールエイト)というCRM(顧客情報管理)ソフトを取得し現在ヤフーショッピング向けにも提供しています。今までは集客=アフィリエイトだけでしたが、今後はCRMにも軸足を置いて両方やっていこうと考えています」。
R∞はECサイト上での消費者の行動、購買データなどを蓄積、分析して顧客に合わせたニーズとタイミングでアプローチすることで顧客満足度を向上させることができ、オンラインとオフラインの顧客のデータを一元化もできる。今後のネット広告の効果を高める重要なポイントとなる技術だ。
香川氏が社長に就任してこういった新しいアドテクノロジーの開発や取得に弾みがついたと言われているが、香川氏とはどんな人物なのだろうか。
バリューコマース社長になったからこその気づき
香川氏は理系出身で新聞社などに勤務した後、B2Cのネット広告に興味を持ち、ヤフーに転職した。同社の広告商品や広告手法の企画からサポート、アフィリエイトまで同社の中核業務に10年ほど従事した後に2013年バリューコマース取締役副社長執行役員に就任し、2014年に代表取締役社長に就任した。
「ヤフーでもアフィリエイト広告は経験していたのですが、バリューコマースに来てから気づいた点があります。
広告はメディアに近い立ち位置の広告もあれば広告主に近い立ち位置の広告もあります。アフィリエイトは売れたらフィーをもらう成果報酬型で、一番広告主に近い広告です。お客様に寄り添ってソリューションを提供するのがアフィリエイトなんですね。お客様に寄り添うという視点があったからこそ、今回CRMを導入することにつながったのかなと考えています」。
4代目社長だからこそできること
バリューコマースは、ティモシー・ロナン・ウィリアムズ氏が1996年に創業し、2001年に二代目社長にブライアン・ネルソン氏が就任。2011年に飯塚洋一氏が三代目社長となった。香川氏は2014年に就任した四代目の社長だ。
「ネット広告の会社はほとんどが創業者の方が社長を続けているので、社長が4人変わるのは珍しいですね。
創業者のティムの時はベンチャー色が強かった時代だと思います。ブライアンはグロウスのスペシャリストで会社を成長させ、飯塚の時代にガバナンスなどを整備しました。
会社が一回りしたタイミングで、技術革新の時代になり、私が社長になってから技術的な面を強化したという流れです。歴代の経営者の良い部分は残し、時代によって変えていった方が良い点は変えています。
社長になってからは全責任を負わないといけない反面、社長でないと変えられないことがたくさんあるということを実感しましたね」。
社内の雰囲気や人材のマネジメントはどうなのだろうか。
「創業者の社長の場合、その社長が好きで入社する社員が多いと思うのですが、弊社の場合、会社が好きだという会社へのロイヤルティが高い社員が多いと思います。
マネジメントとしては、社長になった時に4つの“コアバリュー”を掲げました。これは追求する、挑戦する、スピード、エンジョイの4つ。社員自ら変化し成長するための行動指針です。行動を起こさない限り結果は出ないのでチャレンジしてもらいたい。失敗しても繰り返さなければ良いのですから」。
ベンチャーの成長期を経て、成熟期に入ったバリューコマースだが、香川氏のアドテクノロジーのプロデュース力と人材マネジメント力で、新しい成長局面に入ったと言えるだろう。
interviewer
引用元:ベンチャータイムス
記事掲載日:2016年10月24日