異例ずくめだった友好的なM&A
中古の賃貸マンションやオフィスビルなどを購入し、開発・再生を施して収益力を高め、富裕層に売却する不動産投資開発事業を柱に据えるビーロット。稼働率向上、管理コスト修正、違法箇所の是正、最適用途への変更などで潜在価値を引き出すことに長け、2015年1月には東京・築地で、そして同年11月には新宿で、需要が急拡大しているインバウンド向けのホテルへのコンバージョン・プロジェクトを成功させ、不動産業界のみならず、多方面からの注目を集めている。
そうした再生ノウハウを持つビーロットだからなのだろう、リーマンショック直後の08年10月の設立ながら市況悪化の荒波を乗り越え、14年12月に東証マザーズへとスピード上場を果たした。目下の業績も好調で、2015年12月期は売上高69億5,000万円(前期比87.4%増)、当期純利益4億円(同126.8%増)は5期連続の増収増益。そして中期経営計画では、17年12月期の売上高を123億5,400万円(15年実績比77.7%増)へ、当期純利益も7億1,400万円(同78.3%増)へ伸ばす業績予想を発表した。その一方で、宮内誠社長は1つ大きな経営課題を抱えていたのだという。
「東京の本社に加えて、11年に札幌、13年に福岡、そして昨年の15年にシンガポールに拠点を展開してきました。しかしながら、国内第2の都市である大阪に拠点を構えることが出来ずにおりました。私どもの事業は、お客様や不動産業者様から、一番はじめにお声掛け頂ける信頼関係づくりがとても重要です。そのため、きちんと拠点を構えてフットワーク良く、お客様や業者様、そして物件に足を運び関係を構築する必要があります。ところが、ゼロから信頼関係を創りあげていくことは、例え優秀な営業マンを送り込んだとしても、それなりの時間を要すとも考えています。決して東京の営業人員が充足している状況ではありませんので、それでは現地で既に信頼あるネットワークを持った方と組んだほうがスピードを重視する当社らしいと考え始めていました。」
884万人の人口を抱え、交通や生活のインフラ設備も充実している大阪の不動産市場のポテンシャルは高く、ビーロットでも賃貸マンション取得や売買仲介を中心に少しずつ事業を手掛けてきた。そして「大阪を中心に関西での事業をさらに拡大したい」という思いを募らせるようになった宮内社長は、1人の経営者との出会いによって大きな転機を迎えることになる。
「関西エリアで25年間、新築分譲マンションの販売代理会社を経営されてきたライフステージの大塚満社長を共通の知人から紹介されたのです。初めてお会いしたのは、忘れもしない15年10月15日でした。食事をとりながら、お互いの経営に対する考えなどを話し合っているうちに、根本のところで共通していることが分かり、これからも違和感がなくお付き合いできるなと思いました」と語る宮内社長の話しを引き継いで、大塚社長が次のように語る。
「もともと私は営業至上主義の不動産会社に勤め、電話営業や飛び込み営業を経験したのですが、そのやり方に疑問を感じていました。そこで1990年12月に設立したライフステージでは、トラブルやクレームを起こさない、お客様第一の営業に徹し、また全社員に宅地建物取引士の資格を取らせることを目標に掲げたのです。物件に何か問題があれば、包み隠さず話すように指導もしてきました。その結果、大手のディベロッパーから信頼いただけるようになり、販売代理を数多く任せていただけるようになったのです」
そうしたお客様や取引先との信頼関係重視が、宮内社長と大塚社長の経営哲学の共通項になっていたのだ。目先の利益を追うあまり、利益の大小に応じて顧客の仕事を次第に後回しにする会社もある。でも、宮内社長は「それは違う」と考え、まず信頼関係を第一に大切にしている。「当社では、複数回取引頂けているお客様がたくさんいらっしゃり、新規開拓はお客様からの口コミ・ご紹介がほとんどです。私たちは、お客様の資産についてご提案を申し上げるプロフェッショナルなわけですから、その後継者、そのご友人の方とも長期継続的にお付き合いをできることが前提で、追うのは目先の利益ではありません。利益の大小ではなく、まず優先的にお声掛け頂ける、そのことを誇りにしています。多様化する富裕層のニーズにとことん応えていくことを、決して疎かにしてはいけません」と宮内社長は言い切る。
営業・利益優先の傾向が強い不動産業界において、2人とも異色の考えの持ち主なのかもしれない。しかし、それだからこそお互いに惹き合うものを感じ、「これから一緒にやれることを考えましょう」と意気投合できたのだろう。やがてその思いは単なる事業の提携という話にとどまらず、16年4月28日のビーロットによるライフステージの全株式取得(子会社)という形に結実し、両社ともに手を携えながら新たな成長ステージに一歩足を踏み出すことになる。
「不動産業界の先輩経営者である大塚社長と、関西での事業展開についてお話をしているなかで、ライフステージの誠実な企業文化、関西圏での圧倒的な知名度、販売代理業という業務内容に次第に関心を寄せるようになりました。また、ビーロットは起業から8年ほどの『草創期』のチャレンジを重ねるベンチャー企業で、ライフステージは創業25年のいい意味での『成熟期』の安定した企業です。その両社が融合することで、さらに発展が望めると判断し、思い切ってM&Aを検討してみませんかと、16年の年明けに提案させていただきました」
そう語る宮内社長が率いるビーロットは独立系の不動産金融コンサルティング会社であり、大手ディベロッパーから業務を受注するライフステージにとっては〝色〟が付いておらず、もともと手を組みやすいパートナーだった。そして何よりも、不動産市場で新機軸を次々と打ち立てながら成長するビーロットの姿を目の当たりにして、大塚社長は「もともとは株式譲渡までは考えていませんでした。しかし、新築マンション市場の先細りが懸念されているのも事実です。将来に向けて、ライフステージの社員に組織としての成長の可能性や夢を与えていきたい、そのためにビーロットグループに入ることも、有効な手段のひとつだと感じたのです。」と打ち明ける。
それからライフステージへのデューデリジェンスが始まるのだが、今回はファイナンシャル・アドバイザリーなどの仲介業者が加わらない〝異例〟のM&Aとなった。すでに相思相愛の関係であり、あえて〝仲人〟など必要なかったのかもしれない。専門家の株価算定や、開示資料の精査、問題点の解決、協力金融機関からの審査も進み、4月28日にはビーロットによるライフステージの全株式取得となったわけで、これまた〝異例〟のスピードM&Aとなった。それだけ友好的なM&Aであったことの証左ともいえる。
「実際にデューデリジェンスをして分かったこと。それはライフステージの最大の財産は『人』だったということです。ライフステージは09年4月末に民事再生に入ったものの、3年半の再生計画をわずか1年で終結させ、苦しい時期にもかかわらず多くの社員が残ったそうです。大塚社長の求心力、1人ひとりの社員が築き上げたお客様や取引先との信頼関係があったからこそ、自主再建を見事達成されたのでしょう。さらに90名を超えるライフステージの社員の皆さんは、ビーロットにはない大手デベロッパーへの販売実績、実需のお客様への販売力を持っているわけで、一緒になったら心強い仲間になっていただけるものと確信しました」
それだけに宮内社長は、子会社化後のライフステージの経営を大塚社長に委ねることに一切の迷いはなかった。そして、譲渡する株式の価格の交渉もスムーズに進み、4月15日のビーロットの取締役会での株式取得の決議、東京証券取引所における適時開示に至るわけだが、ここでも〝異例〟というべきサプライズがあった。宮内社長は開示後すぐに新幹線に飛び乗って、当日の夜に大阪のライフステージの本社で開催される全体会議に参加し、全社員に対する説明に臨んだのだ。
「そんなことをする買収側の経営者なんていないと言われました。しかし、友好的にやっていきたいという嘘偽りのない自分の思いを、皆さんに一刻も早く伝えたかったのです。処遇面での不安を訴える方もいましたが、今まで通りで全く心配のないことなどをきちんとお話しました」と宮内社長は言い、大塚社長も「宮内社長の意欲的な姿勢を理解した社員が大半でした。実際に子会社化の後に辞めた社員は1人もいません」と話す。
ライフステージの子会社化から約2カ月が経過し、同社の取締役を兼任するようになった宮内社長は毎月大阪で開催される取締役会に出席し、積極的に社員にも話しかけるようにしている。また、毎月行われるライフステージの全社会議では、東京支社の社員18名が新橋にあるビーロットの本社内のテレビ会議システムを大阪とつないで議論のやりとりを行なうなど、着実に相互の社員同士の交流が進んでいる。
「これまでビーロットは開発・再生して付加価値を高めた物件を富裕層にターゲットを絞って1棟販売してきたわけですが、これからはライフステージの販売力を活かして、1棟20室の収益マンションを20人の方に再分譲することができます。逆にライフステージが販売代理を手がける分譲マンションをまとめて10戸買いたいという富裕層をビーロットから紹介できることだって十分にあり得ます」
宮内社長の話を大塚社長が隣りの席で頷きながら聞いている。
急成長企業としてスピード展開に拘るが故に、進出できずにいたビーロット大阪支社も、6月15日の取締役会で開設が決定した。
拡大への熱量に依存することなく、満を持しての「開発・再生」と「販売」の融合は、まさに〝鬼に金棒〟であり、「1+1=2」ではなく、「3」いや「4」「5」といったシナジー効果を生むだろう。今後のビーロットグループがどう成長していくのか、目を離せそうにない。
interviewer
引用元:M&Aタイムス