統計調査の結果からは真のファン数はわからない
「2011年はパチンコ・パチスロの参加人口が前年に比べて約25%減の410万人減少」という『レジャー白書2012』の数字は業界に激震をもたらした。同年3月に東日本大震災があったとはいえ、にわかには信じがたい落ち込みぶりだったからだ。ところが、その後、民間企業の市場調査では震災前と震災後の参加人口は2・5%程度しか減っていないという結果が表れた。
さらに、『レジャー白書2013』では、市場規模(貸玉料金)は前年比プラス0・9%の19兆660億円、参加人口は前年比150万人減の1110万人と発表された。ユーザーが150万人も減っているのに、市場規模は拡大するというのもおかしな話。これらの数字は本当に業界の実態を物語っているのだろうか。
複数店舗を展開するホール企業が加盟するパチンコ・チェーンストア協会(PCSA)の金本朝樹・代表理事は次のように見ている。
「レジャー白書は年に1回以上、民間企業では3ヵ月に1回以上ホールに行った人を参加人口としてカウントしています。売上げの寄与度を考えると、民間企業のほうがより現状に近いといえるでしょう。しかし私は、それでも不十分、1ヵ月に1回以上を参加人口として考えるべきだと思います。その基準で見ると、近年の参加人口は横ばい、下げ止まりという印象をもっています」
あと10年もするとヘビーユーザーは消滅!?
かといって、将来を楽観視しているわけではなく、むしろ危機感のほうが強いという。
「売上げを支えるヘビーユーザーは40歳代後半から60歳までのパチンコファン。しかし、あと10年もすると、こうしたヘビーユーザーは確実に減るでしょうし、若者のパチンコ離れも著しい。これがいま、業界一番の心配事です」(同)
若者は、打ち方を工夫できるパチスロにファンが多く、打つだけのパチンコ人気は低い。金本代表理事が代表取締役社長を務めるパチンコホール、アメニティーズ(長野県内に16店舗を展開)を例に見ると、39歳以下と40歳以上の顧客の割合はほぼ半々だが、パチンコをやる人は39歳以下が2割、40歳以上は8割と、若者のパチンコ離れが明らかになっている。
パチンコの歴史を振り返ると、大衆娯楽として発展してきたが、とくにこの10年で射幸心をあおるような機種が増えギャンブル性がどんどん高くなった。加えて高度ないろんな機能が加わり、従来からのファンがついてこられなくなったということも指摘されている。その反省もあり、現在は、昔のようにファンに長く愛される「大衆娯楽」を目指す動きが出てきている。
「パチンコ業法」制定には業界の結束が不可欠
次に、金本代表理事が課題として挙げるのは「業界の社会的地位の向上」だ。その手段の一つとして、ホール企業の株式公開を挙げる。
「PCSAの勉強会に招いた専門家によると、ホールと産業廃棄業(産廃)、エステの3つは株式公開できない業種といわれていたが、産廃もエステも上場できるようになり、残るはホールだけとなった。さらにホール大手、ダイナムジャパンホールディングスが昨年8月、香港証券取引所への上場を果たし、徐々に日本でも株式公開への道が開けるような、いい空気になってきている」(同)
PCSAに加盟のホールをはじめ、これまでにも複数の企業が、上場基準に合わせ、コンプライアンス体制や内部管理体制の構築、財務体質の強化などを図り、株式公開に向けた準備を進めてきた。「すぐに株式公開できなくても、経営内容をガラス張りにし、上場基準をクリアする企業になることは従業員や取引先はもちろん、パチンコファンにとっても良いこと。業界の社会的地位向上にもつながると思います」と積極的だ。
ホールの社会的地位向上には、パチンコを法律で規制する「パチンコ業法」の制定が必要との声もある。パチンコ業法を制定し、現在適用されている風営法と一線を画すことで、業界のイメージを向上させることも目的の1つだ。
ただ、全国に約4000社あるホール企業の足並みがそろっているわけではない。「法律の成立には警察の理解と国会議員の協力が必要だが、それはとても無理……」という後ろ向きの声も少なくない。さらに、少数店舗のホール企業にとっては「多店舗展開を目指すホール大手が得するだけの法律ではないか」と反感もあるようだ。
パチンコは、本来法律によって禁止されている換金行為を「3店方式」と呼ばれる景品流通システムを採用することによって今日まで存続させてきた。しかし、実際には3店方式を守らないホールがなくならないというのが実情だ。
ある大学教授は、パチンコ業界に向けた講演会をこんなメッセージで締めくくったという。
「過去に衰退して消滅した業種には共通点が2つある。1つは消費者の意見を聞かないこと。もう1つは業界が1つにまとまれないことです」
カジノ法案の成立で厳しい規制がかかる!?
第2次安倍政権の成立で再び動き始めたIR(統合型リゾート)推進法、通称「カジノ法案」。それが成立した場合、カジノ出現はパチンコ業界にとって脅威となるのだろうか。
「私は、カジノにお客様を奪われるとは思っていません。カジノはギャンブル、パチンコは『大衆娯楽』で、遊び方が違うからです。それよりも私が心配しているのは、カジノ法案が注目されることによって、『パチンコの規制はどうなっているんだ』という声が上がることです。パチンコ業法が成立していれば法律によって業界は守られますが、いまの状態ではより厳しい規制がかけられないとも限りません」(同)