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最高品質の日本製格安シャツをニューヨークで売る男の実績と成算

メーカーズシャツ鎌倉株式会社 貞末良雄 記事サムネイル画像

ビジネスシャツの聖地で日本製シャツを本気で売り始めた

2012年10月30日、米国ニューヨーク市マンハッタンの高級ショッピング街であるマディソン街に、日本、いやアジアから初めてというビジネスウエアのショップがオープンした。その店を運営しているのは「メーカーズシャツ鎌倉」。創業者で会長の貞末良雄氏は、1960年代から70年代にかけて、アイビー・ファッションで一世を風靡したヴァンジャケットでの勤務を含め、男性用の服飾関係の仕事に30年以上携わってきた人物だ。

「私たちにとってニューヨークはまさに〝聖地〟のような場所。まだ1ドル=360円の時代に貴重なドルを持って渡米し、マディソン街の店先のディスプレーを写真撮影したり、なけなしのお金をはたいてサンプルの服を買ったりしながら、ファッションを勉強したものです。3000人いるヴァンジャケットのOBの皆さんから『よくやってくれた』とお褒めの言葉をいただきました」

そう語る貞末会長にニューヨーク進出を決断させた同社オリジナルの主力商品が、93年11月の古都・鎌倉での創業時から販売しているメンズのビジネスシャツ。しかし、ただのシャツとは違う。百貨店などで販売されているブランド品と同等の、特別な極細糸をより合わせた綿生地を100%使用し、ほつれにくい縫い方で仕立てた高級シャツなのだ。にもかかわらず値段は税込み5145円で、百貨店などが扱うブランド品の半値以下ということから、瞬く間に人気を集めた。

いまでは、同社はフランチャイズ店を含めて国内に25の店舗を構え、12年5月期の売上高は28億800万円に達している。それだけに貞末会長は自信を持ってニューヨーク進出に臨んだのだが、彼の地のファッション文化の壁は厚かった。現在の店舗を借りる際にもオーナーから「私が銀座で寿司屋をやるようなもの。そこへ食べに行きますか? 失敗するのは目に見えていますよ」と助言される始末だったという。

シャツは海外で作るよりメイド・イン・
ジャパンのほうが安い

しかし、独創的な戦略によって作り出したシャツの商品性に対する自信は揺るがなかった。単に安くするだけなら中国など労働コストの安い海外で生産すればいいというのが普通の経営者の考え方。ところが、貞末会長は「メイド・イン・ジャパン」にこだわった。当然それでは製造原価がアップしてしまうはずである。

「確かに大手アパレルや百貨店は、中国などでの海外生産にシフトしてきました。しかし、その際は大量発注する必要があるうえ、日本に運んでくるまでのロジスティクスの経費もかかります。また、大量発注した分がすべて売れるとは限らず、バーゲンをしたり、売れ残ってしまうリスクも考えなくてはなりません。一方、国内生産は製造原価だけを見ると高くなりますが、売れ行きに応じた小ロットずつの発注ができて、ロジスティクスの経費も安く済みます。結局、国内生産のほうがトータルのコストは安く抑えられるのです」

同社のシャツの製造原価率は約60%で、百貨店で扱っているシャツのそれが15%前後というから約4倍にもなる。しかし、最終的にバーゲンをすることもなくすべて売り切っていくことで、当初計画していた適正な利益を確保することができるようになるのだ。

貞末会長がメイド・イン・ジャパンにこだわるもう一つの理由が、百貨店などの買い手優位という服飾業界に対する疑問だった。

「国内の縫製工場は最盛期と比べて10分の1に減っていますが、それも当然でしょう。無理な値引き要求などで、買い手が大切にしてこなかったのですから。本来、商人はいい品物を供給してくれる仕入れ先をいの一番に大切にしなくてはいけません。そして仕入れた商品を、今度は売り手である自分たちの努力で少しでも安くお客さまに提供する。それが本来の商人のあり方だと思い、自分の手で証明したかったのです」

それゆえ貞末会長は、手持ちの資金が1300万円しかなかった創業時から、全品買い取り、現金決済を貫いてきた。翻ってみると、総コストで比較検討するのも商人なら当たり前のこと。貞末会長の独創性は、業界の〝常識〟に背を向け、業界の〝非常識〟とされる商人本来の姿に立ち戻るところに、その神髄があるのかもしれない。

3年で国内100万枚、5年で海外400万枚を売る!

そして、79ドルの価格で売り出されたメーカーズシャツ鎌倉のシャツは、ニューヨーカーたちに「本当にこの値段でやっていけるのか」と驚きの声をもって迎えられた。大々的な広告宣伝を打つわけでもなく、当初は日本人の顧客の割合が多いのではと予想していたのだが、ふたを開けてみると米国人の顧客の割合が全体の7割を占めるようになっている。

「ニューヨーク店の初年度の売上げは7000万〜8000万円と見込んでいましたが、その9掛けくらいは充分に達成できるでしょう。なにより心強いのがこの4月1日から英文のウェブサイトが立ち上がり、アメリカ国内だけでなく世界中に私たちのシャツのネット通販ができるようになったことです。8月からは180ドル前後の価格でミリメートル単位のサイズのオーダーメードも受けつけます」と貞末会長は言う。

オーダーを受けてから届けるまで約5週間で対応するそうだが、そのために必要不可欠なのが、「世界に誇れるメイド・イン・ジャパン」を支える供給体制の強化だ。いま同社が取引きしている国内の縫製工場は11社。袖縫いが得意だったり、それぞれ強みと弱みを持っていて、トータルの技術レベルにも差がある。

そこで貞末会長は各社のトップをニューヨーク店オープン前日に現地に招き、全社がAランクの技術レベルにアップできるように、各社の技術やノウハウをすべてオープンにして共有していくことを要請した。その取り組みは着実に進み、将来を見据えて若手社員を採用するところも現れ始めている。

「今年、国内での販売は80万枚になります。それを2、3年のうちに100万枚へ、さらに5年以内に海外での販売を400万枚に持っていくことが私たちのタスクです」と語る貞末会長だが、確かな手ごたえを感じているようだ。