世界有数の光学機器生産国の日本。この分野のエキスパートとして光とガラスの世界で成長を遂げてきた企業が住田光学ガラスだ。
1953年の創立以来、高度な光学的性能を達成する精密加工技術の確立に努めてきた。現在、カメラ、ビデオ、望遠鏡、顕微鏡のレンズや特殊フィルターガラスなど200種類を越す製品ラインナップをそろえ、近年ではDVDなどマルチメディア製品の心臓部にも同社の光学ガラスが利用されている。
同社の技術力が世界で認められたのは米国専門誌『Photonics Spectra』で「第1回ベスト25優秀製品賞」を受賞した光学ガラス「ホタロン」の開発が契機となった。人工結晶ホタル石と同等の性能を有する光学ガラス製品は世界初の技術だった。
光とガラスの分野で世界をリードしてきた道のりには創業以来続く一貫した「常に新しいものをつくる」姿勢があった。社内にはこの姿勢を理屈抜きにやる空気が満ちている。
代表取締役社長の住田利明は取材の冒頭「特に語ることはないですよ」と言った。世界をリードする技術を誇る企業が平凡であるわけはない。だが話を聞くうちに判明したことは確かに特別に何かの施策があるということではなく、”ものづくり”の環境が整っているということだった。
いいものをつくることに徹するだけ
通常、他のメーカーではR&Dセンターと呼ばれる研究開発専門の部署を有することが多いが、同社にはそれがない。
「ものづくりは現場にある。だから開発者は現場の近くにいて交流しないといいものづくりはできない」との考えから頭でっかちになりがちな研究開発になることを避け、製造の現場に開発者を置いているのだ。
全社員約400名のおよそ1割が研究開発に携わっている。中には10年以上かけて一つの製品開発に没頭する人、納得がいくまで製品を頑固にチェックする人、ちょっとしたヒントから画期的な製品を生み出す開発マニア的な人など、個性あふれるさまざまなタイプの社員がいる。彼らに対してノルマなどは決めない。自由に伸び伸びとものづくりに励める環境づくりを重視しているのだ。
住田は語る。
「自分がやりたいことは一生懸命やるものです。だから趣味のように働いて仕事のように遊ぶ。そこからいいものづくりができます」
もともとものづくりをしたい人を採用しているのだからその気持ちを行動に移せる環境づくりが一番大切だということか。
だから住田は「収益性は二の次」だと言う。
「経営者として収益を最重要視しないということは覚悟のいることだが、急がば回れ、結局いいものづくりに取り組むことで自然発生的に収益を生み出してきている」
日本のものづくりが低迷してきたと言われる昨今、日本でないとできないものづくりが必ずあると見据える住田。
中途半端にどっちつかずになるのではなく、いいものをつくることに徹する社風。それこそが王道なのかもしれない。