出版社・作家との直接契約は1800件以上に達する
確立されたビジネスモデルを見ると、巧みにつくり上げたという印象をもつが、その大半は試行錯誤の結果であり、当初から完成形がイメージされていたわけではない。2017年3月に東証マザーズに上場したビーグリーも、今でこそ競争力のあるモデルで増収増益を続けているが、曲折を経て確立に至ったのである。
同社はコミック配信サービス『まんが王国』を運営し、月間アクティビティユーザー800万人、単行本に換算すると累計6億冊をダウンロードされている。出版社・作家などのライセンサーとの直接契約は1800件以上に達し、漫画だけでも5万タイトルを揃え、 常時2000タイトル以上を無料で読める。
スマートフォンの普及がまんが王国の購読拡大に直結し、スマホによる購読比率は90%超える。スマホへの配信を始めたのは11年で、この6年で一気にスマホへシフトさせた。それ以前は、06年から『ケータイ★まんが王国』を携帯電話向けに配信していた。
同社の配信モデルは、おもに出版社との法人契約と作家との個人契約によってコンテンツを仕入れ、自社内で電子ファイル製作・ビューア開発・契約管理業務を行ない、ユーザーへはほとんどアプリストアを介さずに配信している。取次会社機能を保有しているのだ。
一方、多くのコミック配信会社は、作家と直接契約を結ばす、コンテンツを出版社や取次会社から仕入れている。ビューア開発は外注して、ユーザーへは通信事業者とアプリストア経由で配信し、直接配信は行なっていない。アプリストア運営会社への支払いは重くなってしまう。
紙媒体で知る人ぞ知る作品が『まんが王国』で大ブレイク
こうした差異が競争力をもたらしているのだが、社長の吉田仁平氏によると、事業開始の当初は難儀したという。
「当社は外資系企業の日本法人として設立されたので、作品を預けるに値する会社として認めてもらうまでには難しい時期がありました。苦労しながら出版社さんや作家さんとの直接契約を取り付けて、少しずつコンテンツを増やしました。購読者数の増加に伴って直接許諾契約が増えて、作品の充実により講読者数がさらに増加するというように、わらしべ長者的に事業を拡大できた面があります。今では市場が拡大し、さまざまなバリューチェーンが確立しているので、今から当社と同じモデルをつくるのは難しいのではないかと思います」
まんが王国の特徴は①知る人ぞ知る良作を発掘する独自性②ニーズに合った特集を高頻度で展開し、さまざまな指標から随所にレコメンド作品を表示する提案力③50文字以上の長文レビューが多数掲載して、コンテンツ選びをサポート――おもに、この3点である。
たとえば良作でありながらもあまり知られていない作品が、まんが王国での取り扱いを契機にブレイクし、単行本に換算すると数十万部の販売に至ったケースもある。吉田氏は「一般に知られていない作品を世に送り出すことには大きな意義があると思います」と自負している。
作品の選定は「トライ・アンド・エラーの繰り返しが大原則」(吉田氏)だが、読者の反応をフィードバックさせながら作品を見極めている。まんが王国の拡大に伴い、出版社からの売り込みも増えたという。さらに、まんが王国で蓄積したマーケティング・ノウハウを活用し、出版社・作家と共同でオリジナル作品の創出も開始した。
再訪機会や滞在時間を最大化新たなユーザー層も開拓
コンテンツ販売では、さまざまな施策を実践している。一例を挙げると①無料タイトルと月額ポイント制により、再訪機会や滞在時間を最大化②平均在籍期間2年以上の月額有料会員により、優良な顧客基盤を保有③自社での広告運用により、状況に応じた出稿調整・広告コストの回収確認をスピーディーに実現④サイト内特集と直接運用広告を駆使して、紙の出版物と異なる露出タイトルで、新たなユーザー層やジャンルを開拓⑤ビッグデータ解析により、ユーザー動向やコンテンツ動向を詳細に把握。これらの施策が、まんが王国のブランド力を培ったのである。
過去3年の業績推移を見ると、14年12月期に売上高39億2000万円、経常損失2億4100万円だったが、15年12月期に71億9800万円、経常利益は6億7000万円に黒字転換。16年12月期は83億3700万円、7億4800万円を計上した。17年12月期には91億6500万円、10億8200万円と見通している。順調な業績見通しの裏付けは何だろうか。
コンテンツプラットフォームを活用して物販・デジタルコンテンツ販売を計画
まず挙げられるのは電子書籍・電子コミック市場の拡大である。インプレス総合研究所の調査によると、電子書籍市場の81を電子コミックが占め(15年実績)、16年の電子書籍市場規模は1940億円。年率14%弱のペースで拡大をつづけ、20年には3000億円に届くという。
新規ユーザーの開拓余地も十分に開けている。インプレス総合研究所の調査では、電子書籍を主に利用している世代は20~30代だが、この世代で有料の電子書籍サービスを利用した人の割合は低位にとどまっているため、電子コミック市場の成長余地は大きいという。
「まんが王国はユーザー、コンテンツ、サービスの3要素で成り立っています。オリジナルコンテンツの開発や販売方法で、まだまだ実施できることは多いですし、市場の拡大にともなって新しいチャレンジがどんどんできると考えています」(吉田氏)
今後は新事業として、オリジナルコンテンツを他の電子書籍運営会社に販売する電子取次や、コンテンツプラットフォームを活用した物販・デジタルコンテンツ販売・マーケティング支援などに着手していく。
同社の事業コンセプトには「日本が誇る漫画文化の発展に貢献します」と記されている。
吉田氏は「起業して間もない経営者には、成長に向けて本質を大事にしてほしい」と述べるが、自身も文化への貢献という本質に経営資源を集中させつづけて、現在の地歩を固めたのだろう。
※取材日:2017年6月27日