ネットサーフィンをしていて、ついページの傍らの広告をクリックしてしまったことはないだろうか? 中には、そのまま買い物をしてしまったという人もいるだろう。そうした場合、サイトの運営者には、スポンサーのビジネスに貢献したとして一定の報酬が支払われる。そうした広告の仕組みが、ITを生かしたアフィリエイト広告(成功報酬型広告)だ。今ではネットに欠かせなくなったアフィリエイト広告の代理店の中で、リーディングカンパニーといえるのがネットマーケティング。2004年に設立され、今年3月にはジャスダック上場も果たしている。
創業者である宮本邦久社長は、慶應義塾大学を卒業後、1998年に日商岩井(現在の双日)に入社。2000年に自ら志願して同社子会社だったITXに転籍し、新しい情報事業の立ち上げなどを担当した。それが独立の契機になったと振り返る。
「大学時代に通っていた湘南藤沢キャンパスは、ネットの学術分野では先進的だったことから、その頃既にITには関心がありましたが、ネット事業に本格的にかかわったのはITXに移ってからですね。投資先のITベンチャー企業各社と仕事をしたことは、企業のマネジメントを体得するいい機会になりました。それに、ちょうどその頃、ソフトバンクの孫正義さん、サイバーエージェントの藤田晋さんなど、若い世代の起業家がITビジネスで活躍するようになって、強烈な刺激を受けました。私は自営業の父の影響もあって、『いつか起業したい』と漠然と考えていたのですが、それで道が決まりました。ネットビジネスで一旗挙げ、いずれは自分の会社を上場させ、世の中から必要とされる企業にすることが目標になりました」
ひと口にネットビジネスといっても、さまざまな事業形態がある。その中で、ネット広告を選んだ理由について、宮本社長は次のように説明する。
「ITXでは、アフィリエイト広告事業も手がけていました。ネットビジネスには巨額の初期投資が必要なものもありますが、商社マンだった私には、まだ十分な資金がなかったので、アフィリエイト広告なら、机とPCがあればできると考えたのです。起業したからには、まず“死なない”ことが第一義ですからね」
もう一つ、ITX時代に大手カード会社と一緒に仕事をする中で信頼関係を築くことができ、バックアップを得られるほどに人間関係が深まっていたことも大きい。創業間もなく同社との取引が成功し、初年度から3億円の売上げを達成するなど、順調なスタートを切った。
ところが、創業3年目の06年、大きな危機が訪れる。大手カード会社の担当者が交代し、新しい担当者から「今の広告サービスは不要」と通告されたのだ。「売上げがゼロで、蓄えを食い潰す状態が3カ月も続きました」と、 宮本社長は明かす。数カ月後、大手リスティング広告会社であるアイレップの高山雅行社長から、「アフィリエイト広告では、広告主とメディアを仲介するASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)はあっても、広告戦略をトータルプロデュースするエージェントがない。それをやってみてはどうか」とアドバイスされ、試行錯誤の結果、ビジネスモデルの転換に舵を切ったのだ。それが同社の飛躍のきっかけになった。ちなみに、新しいアフィリエイト広告事業の最初のクライアントになったのも、その大手カード会社だったという。
アフィリエイト広告の世界で現在、同社は独自のポジションを築いている。アフィリエイト広告代理店は、広告主をサポートし、ASPと協力してメディアとの仲立ちをする。しかし、ネット広告でアフィリエイト広告が占める割合は5%にすぎない。広告代理店の多くはネット総合広告代理店で、アフィリエイト広告は取り扱い広告の1つという位置付けだ。それに対して、「アフィリエイト専業の上場広告代理店は当社だけ。それだけに、専門性の高いきめ細かなサービスができます」と、宮本社長は胸を張る。
同社の強みは三つある。一つ目は、広告の費用対効果を明確に把握できること。「例えば、脱毛エステの希望者を募集する広告では、応募で終わりではなく、それが実際に契約まで結びついているか、個々のケースをトレースできるシステムになっています。成果設定によるメディアの選別、報酬額の決定が的確に行えます」(宮本社長)。二つ目は広告効果を最大化できるメディアの選定。「比較サイト、ポイントサイト、ブログといったサイトの種類によって、ユーザー層も違ってくるので、各サイトの特性を分析し、最適なサイトに広告を出稿しています」(同)。三つ目は広告主に安心・安全を提供できる体制。最近では、社会問題を引き起こすサイトも少なくない。「そうしたサイトに出稿すると、広告主の信用にもかかわりますから、メディアは短期間で定期的にチェックしています」(同)。
エステなどの美容案件、FXやローンなどの金融案件、人材紹介サービス案件では、広告費のうち、アフィリエイト広告が50%を超える企業もあるという。そこで、そうした業種の広告主の獲得に力を入れている。同社の特色を生かしやすいからだ。現在、広告事業の売上高は70億円規模で、大手クライアント約40社でカバーしている。一方、ASPは、ファンコミュニケーションズ、アドウェイズといった大手を中心に取引しているという。
現在、広告事業がメーンだが、それに次ぐ第2の経営の柱であり成長ドライバーとなるのがメディア事業。「広告事業で売上高は確保できるようになったのですが、上場を目指すには、利益率を高める必要がありました。そこで、2010年に広告以外の新規事業に進出することにしました。当初は激しい社内の対立も起こりましたが、それを乗り越えて、メディア事業を立ち上げることができました」と、宮本社長は感慨深げに語る。
メディア事業として、狙いを定めたのはマッチングサービスだ。「スマートフォンが普及し、SNSの利用も広まってきました。ネットサービスの最先端を行く米国では、結婚のきっかけの3分の1がマッチングサービスになっていることを知り、日本でもマッチングサービスが急成長すると予測したのです」(同)。
マッチングサービスの第1弾として、2012年にリリースしたのがFacebookのプラットフォームを活用した恋愛マッチングサービス「Omiai(オミアイ)」。真剣な交際を希望する男女に、出会いの場を提供している。カップルとなるだけでなく、めでたくゴールインした会員も少なくないという。「出会い系サイト」との差別化のため、安心して利用できるように、不正な会員情報などのチェックを徹底している。そうした取り組みが奏功し、会員数は累計で200万人を突破した。
2015年1月には、マッチングサービス第2弾として、ソーシャルジョブマッチングサービス「Switch.(スイッチ)」もリリース。IT業界の企業を中心に、Facebookで経歴などを簡単登録すると、企業からスカウトされるというのが特徴だ。
アフィリエイト広告市場は、2017年には2450億円、2020年には3500億円規模まで拡大すると見込まれている。「アフィリエイト広告事業を引き続き伸ばすと同時に、新しいネット広告事業にも進出していきたいです。メディア事業では第3弾、第4弾と、新たなマッチングサービスを拡充し、収益性も高めていきます」と、宮本社長の鼻息は荒い。さらに、今後は第3の新規事業の創出にも傾注するという。それは、次代を担う社内ベンチャーを発掘し、育成することだ。ベンチャー事業には毎年度、コンスタントに投資していく方針だという。
「私のこれまでの経験では、新しい事業を軌道に乗せるのに約5年かかっています。当社の成長スピードを速めるためには、私一人の力では限界があります。そこで、私はプレーヤーから監督にシフトし、社内の人材に新規事業を任せることにしたのです」
実は、Switch.は、社内公募で選抜したメンバーが立ち上げを担ったという。このように、同社ではベンチャー事業が続々と花開いていきそうだ。
「ベンチャーを担う人材は今後、新卒採用はもちろん、中途採用によっても積極的に集めます。新規事業は、基本的に人材ありきで考えているので、ネット関係であればジャンルにはこだわりません。ベンチャーに向いているのは、反骨精神が旺盛で高い目標を抱き、そして、誰にも負けない専門性がある人。我こそはという意欲的な人には、ぜひ当社の門を叩いてもらいたいですね」と、宮本社長は力強く語った。