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設立時から見えていた5年目の業績 “人と組織”に強みを確立する

バレットグループ株式会社 小方厚社長 記事サムネイル画像

設立メンバー4人の1年分の給与原資を確保

起業が議論されるときには、必ず「リスクに挑むべきだ」という提言が示されるものだ。昔から繰り返されている決まり文句だが、現実は“あるべき論”に追随できるほど簡単ではない。その点、バレットグループ社長の小方厚氏は、俗論に影響されず、現実的に起業した。

同社を設立した2013年、小方氏は36歳。3人の子供を抱え、他の設立メンバー3人にもそれぞれ家族がいた。万が一、想像できている収益が上がらなければ、給与の減額や未払いで家計を圧迫して凌ぐという手段はあり得なかった。「それだけは“なし”にしようと皆で合意して、起業しました」と述懐する。

小方氏は設立と同時に、次々に見込み客に営業をかけ、会社運営に必要な向こう1年分の利益を確保した。「起業を考えている人たちに相談されたときには、営業による予算獲得でもVCからの出資でもよいから、最低1年分の食い扶持を確保すべきであることを話しています」。恒産なくして恒心なし――これは起業にも当てはまる。

じつは小方氏には独立志向がなかった。課金型アドネットワークやSI事業を展開するエージェントゲート(東京都千代田区)取締役だった小方氏は、新たな方向性を模索し、オファーが舞い込んだ上場企業への入社を検討していた。取締役会で小方氏が退任の意向を述べたところ、同社取締役の後藤衛氏と小幡好昌氏は、小方氏を社長に据えた起業を持ちかけ、説得した。そして後藤氏と小幡氏は取締役に就任し、取引先の営業責任者であった大崎亮氏を執行役員に迎え、設立に至ったのである。

「大半のベンチャー企業の社長はもともと強い独立志向を持っていますが、独立を考えていなかった私は、自分の意思ではなく、かつがれて社長になったのです。生粋の社長タイプではありません」(小方氏)

AD、ICT、EC
3つの事業のシナジーを創出

同社の事業内容は、運用型アフィリエイトネットワークサービス、実店舗とネットワークをつなぐO2Oサービス、コンテンツ向け送客支援サービスを提供するADソリューション事業をメインに、ITエンジニアのキャリアコンサルティングを軸に、アウトソースしてシステム開発やSIを請け負うICTソリューション事業、美容サプリメントを企画開発・販売するECマーケティング事業などで構成されている。

売り上げ構成比は順に60%、30%、10%。運用型アフェリエイトネットワークサービスでは著名なASP事業者と提携し、250万サイトをカバーしている。ICTソリューション事業で、は同社社員80人の半数を占めるITエンジニアが取引先に常駐している。

だが、同社の特徴は個々の事業内容よりも、むしろ事業構造にある。小方氏は説明する。

「当社の事業を個々に行なっている企業は多くありますが、この3つを全て展開し、事業同士にシナジーを生み出している企業はほとんどないと思います。たとえばADソリューション事業を通してECで売れる商品が何かを把握しているので、サプリメント開発のグローバルコネクトを子会社化して(17年に吸収合併)、ECマーケティング事業を立ち上げたのです」

設立5年目の年商30億円に「やり切った感はない」

業績推移を見ると、実質的な稼働が6カ月だった13年度の年間売上高は1億3800万円、以降、5億7000万円、23億8000万円、17年度の見込は30億円。営業利益率は10%で推移している。なかなかの勢いだが、小方氏にとって、30億円までは設立時から織り込み済みの数字だった。

小方氏は前職でも前々職でも、営業責任者として数十億円を売り上げていた。「だから設立5年目の30億円に“やり切った感“はありません。30億円は人の成長とプロダクトの強化におけるステップのひとつです」という。現時点で見えている数字は、19年度の年間売上高100億円である。仙台支店の開設やミャンマー現地法人の設立など商圏の拡大策も打っている。

一気呵成に業績を伸ばした小方氏の営業力は、何が特徴なのか。「人間力です」と即答してきたが、具体的に教えてもらおう。

「営業現場にいたときは体と時間を使いました。取引先が私から離れられないように24時間365日電話がつながる状態にして、昼も夜も、それから出張にもついていってサポートしました。過去には上場企業3社に常駐してきましたが、私は常駐先の内部に入り込むのが得意でした。用意されたデスクから商談も聞けますし、より入り込んだ先では、PL作成にコミットしたこともありました」

IPOは目標に掲げない
IPO水準に届いたら検討

しかし、この手法は社員に踏襲していない。労働集約色を強めてしまううえに、実行できる社員と実行できない社員に分かれるからだ。営業力の強化に向けては、個々人のバラツキを抑制して組織力を強化するために、エン・ジャパンなど外部機関の研修を導入し、さらに四半期ごとに小方氏が全社員と個人面談をして、目標設定や課題解決に臨んでいる。

同社の特徴が3つの事業のシナジーにあることは先に述べたが、小方氏が研修や面談によって志向しているのは、人と組織が強みになる企業である。成長を持続できる体質づくりを重要視しているのだ。

「個々のサービスだけを比較すると、サイバーエージェントさんやリクルートさんのサービスは時間をかければ真似できます。しかし、この2社の企業文化や組織力は簡単に真似できません。そこに2社の強みがあると思います。サービスは世の中に出した途端、すぐに真似されてしまうので、人や組織が強みになる企業をめざしたいと考えています」

一方、19年度の年間売上高100億円、営業利益6億円達成に向かう過程で、IPOについては慎重に判断するという。小方氏には、過去に勤務先でIPOをめざした経験が2度あるが、いずれも叶わなかった。得た教訓は「IPOを目標に掲げると、現状とのギャップから社員に無理を強いて会社全体を疲弊させかねない」。だから、いつでもIPOができる水準に達した時点で、改めて検討する方針を固めている。