経営者インタビューサイト LEADERSFILE

国内上場企業30%超が利用する配信サイト 事業立て直しからスタートした改善の連続

株式会社PR TIMES 山口拓己社長 記事サムネイル画像

上場準備責任者からPR社長へ転身

プレスリリース配信サイト「PR TIMES」の利用社数は約16000社に及び、国内上場企業の30%超が利用している。月間PVは730万PV、プレスリリース本数は月間6500本。上場企業の広報担当者の間では広く知られたサイトだが、地方創生に向けてブランディングが喫緊の政策課題となった自治体にとっても、PR TIMESの利用が増えそうだ。

運営会社のPR TIMESは2016年11月、自治体に特化したサービスを展開するホープ(福岡市)との間で、全国の地方自治体の広報支援で業務提携した。ホープは650超の自治体と既にリレーションを築いており、PR TIMESは「PR TIMES」の提供やデジタルPR戦略の立案、ホープ運営のスマートフォン向け行政情報アプリ「マチイロ」へのコンテンツ掲載などを行なってゆく。

さらに17年2月、PR TIMESはCheetah Mobile Inc.(中国・北京市)が運営するニュース速報アプリ「News Republic」と提携し、プレスリリースの提供・掲載を開始した。News Republicは全世界1000万ダウンロードを突破し、40カ国37言語に対応している。この提携によって、PR TIMESのパートナーメディアは94件となった。

PR TIMESは2017年2月通期決算で売上高13億円(20%増)、経常利益2億1100万円(19.8%増)を見込んでいる。第3四半期の累計実績(売上高10億1800万円、経常利益2億1300万円)から推し量ると、達成しそうな状況だ。

設立は2005年で、2016年3月に東証マザーズに上場した。設立時に親会社のベクトルは上場に備えて資金調達を実行し、デロイトトーマツからベクトルに転じた山口拓己氏は、上場準備の責任者として指揮を執っていた。ベクトルは2012年に東証マザーズに上場したが、その数年前に年1.5倍を持続してきた成長力が踊り場にさしかかった。

サービス機能もプライシングも外しては改善する試行錯誤の連続

山口氏は、収益力確保に向け、子会社キジネタコムの再生に着手する。同社はのちにPR TIMESに変更されるが、これが、山口氏がPRビジネスに関わる契機となった。

「キジネタコムにはクライアントも情報も集まらなかったので閉鎖して、違うビジネスモデルに切り替えて、企業とメディアと生活者をつなぐインターネットサービスを立ち上げました。これが今のPR TIMESのモデルです」。

当初はベクトルを上場させて、新たな事業に取り組むプランを描いていたが、いわばベクトルの新規事業の再生を通じて、期せずして山口氏のキャリアが切り開かれたのである。

以来、試行錯誤が繰り返され、今もなお変わっていないという。

「当初に開発した機能の7割がすでに廃止され、新たな機能が加わっています。プライシングも試行錯誤しました。当初はフリーミアムの顧客をたくさん獲得して有料に切り替える方針でしたが、見事に外れてしまいました。こうして外しながら次の手を打っていくという試行錯誤は、今でもつづいています」。

成長力の要因は、親会社ベクトルの経営資源や、西江肇司ベクトル代表取締役社長が良きメンターになったこと、さらにスマートフォンやSNSの台頭など「さまざまなことにタイミング良く恵まれたこと」。とくに2010年以降は、2期ごとに利用企業数が2倍のペースで増えつづけるなど成長に加速がついた。利用企業の増加がメディアと生活者の利用を増やし、それがまた利用企業を増やすという循環が形成されたのだ。

メディア関係者への認知を進め検索に並ぶ情報収集手段にする

PR TIMESが取り組む当面の重点施策は、潜在ニーズの掘り起こしである。従来、PR会社の主な顧客対象はメディアに選ばれるような大企業や人気企業だったが、PR TIMESは利用企業の裾野を広げつつある。ニュース発信の価値に気づく企業が増えているからで、この流れを推し進める方針である。

たとえば山口氏が「ほとんどプレスリリースを見たことがない」という美容サロン、あるいは先端的な技術を持つ町工場などが考えられるが、とくに限られた商圏での店舗ビジネスにニュース発信は有効ではないか。山口氏は「ブランディングされれば商圏外からの来店客の導線が形成され、リピーターにもなりうることに気づく企業が増えている」と実感している。

中期目標は2020年度までに利用企業数5万社、グループサイト閲覧数を月間1億PV、営業利益10億円を達成させること。その手段として、メディア関係者にとってPR TIMESがネット検索と口コミに並ぶ情報源になるように認知させる一方で、生活者が企業ニュースを求めるようにプロモートしていく。「生活者に届くニュースは事件やスキャンダルが多いので、もっと人が活躍しているニュースを生活者に届けたいと思います」。

自分の経験則を踏襲させると社員の成長は鈍化してしまう

PR TIMESの社員数は約50人。16年4月に3人、17年4月入社では5人の新卒者を採用したが、「IPOしたから安心できる企業と考えるタイプは求めていません。ベンチャー精神が必須です」と強調する山口氏は、組織運営をこう考えている。

「設立から10年以上経った今振り返ると、少数で運営していれば結果として精鋭揃いになると思います。酷な業務を与えてきたような気もしますが…(笑)」。

人材育成の方針は2点。ひとつは、社員に自分の経験を踏襲させると成長を阻害しかねないので、社員がみずから道を拓くように見守ること。もうひとつは、社員が自分の活躍できる場を自分で見つけ出すこと。この2点を徹底させれば、今後も成長を持続できると山口氏は確信している。

すでにPR TIMESはPR業界のプラットフォームとして地歩を固めたのではないか。そう尋ねたら、山口氏は「そうなれればいいなと思ってはいますが、まだそのレベルには達していません」と控えめに返してきた。

「自分たちにとって本質的に大切なものは何か。社会にとって本質的に大切なものは何か。それを事業によってどう具現化するかについて、自分に問いかけているのが現状です。その答えはまだ見つかっていません。IPOしてからはPR会社を立ち上げたいと志す方から相談を受ける機会が増えていますが、他人にアドバイスできるほど上手くいっているわけではありません」。

山口氏はけっして誇大な発言をせず、ひと言一言を選ぶように、ていねいに語りつづけた。