アエリアは、オンラインRPG『Klee(クレー) ~月ノ雫舞う街より~』(配信元:アエリア)、恋愛リズムアドベンチャーゲーム『アイ★チュウ』(配信元:リベル・エンタテインメント(グループ会社))などを配信しているほか、データセンターや電子出版ポータルサイトの運営なども手がけるネットサービス企業だ。1998年にコミュニケーションオンラインとして設立され(2002年にアエリアに社名変更)、04年には大証ヘラクレス上場も果たしている。
長嶋貴之会長は慶應義塾大学理工学部卒業後、イマジニア、ソフトバンクを経て、アエリアを起業した。「うちの親はサラリーマンだったのですが、学生時代から『サラリーマンって、何だかつまらなそうだな』と思っていました。大学卒業後に就職はしたのですが、そんなわけで、ベンチャーを選んだのです。チャンスがあれば独立しようと、その頃から考えていました」と明かす。
イマジニアに入社した長嶋会長は、神蔵孝之氏(現在のイマジニア会長)と出会ったことで、さまざまな薫陶を受け、それが今日のアエリアのゲーム事業にもつながることになったわけだ。そのうち、イマジニアの同僚だった小林祐介氏(現在のアエリア社長)が、ソフトバンクに転職。小林氏に誘われる形で、長嶋会長もソフトバンクに移り、さまざまなネットビジネスの経験を積んだ。
アエリアの前身であるコミュニケーションオンラインは創業当初、コミュニティサイト事業を手がけていた。長嶋会長がソフトバンク時代から携わっていた事業だったからだ。ところが02年、同事業を楽天に売却してしまう。
「私はイマジニアにいたときにIPOによる企業成長を目の当たりにしていたので、起業したときからIPOを目指し、ベンチャーキャピタルなどからも資金を集めていました。ところが、コミュニティサイトのメーンの収入源は広告なので、収益力が上がらず、IPOの基準にもなかなか達しません。そこで、コミュニティサイト事業を売却して仕切り直し、事業全体のポートフォリオを組み替えることにしました」
コミュニティサイト事業に代わって、強化したのがオンライン無料ゲームだった。
「オンライン無料ゲームは、誰でも気軽に楽しめるので、参加するハードルが低いわけです。爆発的に普及するだろうと見ていました」
ただし、オンラインゲームの開発では産みの苦しみをさんざん味わったと、長嶋会長は振り返る。既存のゲーム開発のノウハウが通用しない局面や、PC向けとモバイル向けとの違いなどが現れる局面も多かったからだ。
「例えば、スマホゲームとPCゲームでは、プレースタイルが違います。PCゲームは自宅でゆっくり楽しみますが、スマホゲームは通勤・通学の電車内などでプレーするので、短い時間でも楽しめるような仕組みにしなければなりません。また、スマホゲームのユーザーは、PCゲームのユーザーに比べて入れ替わりが激しいのが特徴。そのため、飽きられないよう、新しいイベントを次々に打ち出すといった工夫が欠かせません」
いうまでもなく、ゲーム事業はコンテンツの良し悪しに左右される。長嶋会長は、ゲーム開発を担う、優秀な技術者を集めるのにも力を注いだ。ゲームの開発プロジェクトでは、外部から招集したフリーの技術者に拠るところが大きい場合もある。そうした社外の技術者との太いパイプを培っているのが、アエリアの強みの一つになっている。
「フリーの技術者を集める場合、金銭面の条件に左右されると思われがちですが、実は、ゲーム開発で最も重要なのはビジョンなんですね。夢を感じられるプロジェクトなら、優秀な技術者がこぞって参加してくれますよ」
オンラインゲーム事業は、立ち上がりの時期には「鳴かず飛ばず」だったという。しかし、ブロードバンドの普及、さらにスマートフォンの普及とともにオンラインゲームも急速に広まり、その追い風を受けて、アエリアも急成長したのである。
ネットビジネスの生命線ともいえるのが技術力である。アエリアは、優れた人材を得るため、社外の技術者とのネットワーク作りに力を入れてきたが、もう一つ力を入れているのが、M&Aの活用だ。
オンラインゲームはアエリアにとって事業の柱の一つ。しかし、ゲームの世界は浮沈が激しい。ヒット作に恵まれれば、一攫千金も夢ではないが、もし作品が不発に終われば、莫大な開発費が回収できないこともある。ゲーム事業を継続させるためには、優良なコンテンツを安定供給しなければならない。それには、優良なコンテンツを抱えた企業をM&Aによって手中に収めるのが手っ取り早く、確実な方法の一つなのだ。長嶋会長は、次のように説明する。
「オンラインゲーム関連でM&Aを決める際にはまず、その企業の技術力を見極めます。ゲーム開発チームのレベルは大事な要素です。それに、例えば魅力的なキャラクターを持っている会社であれば、ゲーム内やリアルグッズなど様々な販路と組み合わせて考えることができますので、M&Aの対象となるのは、ゲームメーカーとは限りません。ゲーム以外でも技術や開発クオリティなど、色々な側面から投資先として有望な企業を判断しています」
それだけではない。M&Aは、アエリアにとって成長を推進するエンジンの役割も担っている。長嶋会長は、「ソフトバンクにいたとき、M&Aが事業拡大のための有力な手段になることを学びました。市場の変化が大きい中で、対応するスピードを上げることが大事だと考えています」というのが持論で、今後もM&Aを積極化するといい切る。
一方、M&Aだけでなく、ときには割り切って事業を売却することも辞さない。創業以来のコミュニティサイト事業を楽天に譲渡したのがその好例だ。事業売却によって得た資金を次の新規事業に回す。そうした事業の売買も、アエリアの経営戦略の特徴といえよう。
「事業売却においては、自社に圧倒的なアドバンテージがあります。その事業の裏表を知り尽くし、シビアな評価ができるのは自分たちだからです。例えば、自社独自のシビアな視点で将来性がないと感じた事業でも、世間的に評価されていれば、高値で売り抜けることもできます。とはいえ、苦労して育ててきた事業を手放すのはつらいものです。愛着もありますしね。しかし、そこを冷静に判断して売り時を見誤らないのが、経営者の資質だと考えています」
アエリアは、中期的な経営戦略としては、オンラインゲーム事業をメーンとする方針だ。「ゲームの世界では、プラットフォームの変更が大きなビジネスチャンスになります。当社はそうした変更を経験し、対応するノウハウも蓄積しているので有利なのです」と、長嶋会長は自信をのぞかせる。
ただし、オンラインゲーム以外の事業ももちろん、虎視眈々と狙っているそうだ。
「過去の成功体験にとらわれず、チャレンジする価値を見い出すことができるのであれば、リスクを冒しても攻略する。それが私の信念です。信念を持って真面目に事業に取り組んでいれば、人材もノウハウも集まってきますし、チャンスを見極める眼力も養われていきます。カードを着々と集めておいて、チャンスが到来したときに切ればいいのです」
長嶋会長は、『フロー体験・喜びの現象学』という学術書を愛読していて、「苦しみをどうやったら楽しみに変えられるのかということを、その本から学びました。企業経営では苦労も多いのですが、そうした術を身につけることも経営者には必要です」と語る。「企業の規模は、経営者の事業構想よりも大きくなることはありません。例えば、経営者が売上高20億円を必死で目指さなければ、10億円の達成も難しいでしょう。経営者は志を高く持たなければなりません」と、長嶋会長は起業家予備軍にエールを送った。