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ワクワクで世界のQOLを最大化── 不動の〝軸〟を打ち据えて成長曲線を描く

株式会社和久環組 鎌田友和 記事サムネイル画像

中古物件とリノベーションを組み合せ本当に暮らしたい生活空間を提供

「2013年6月に35歳で起業したとき、具体的にどんな事業をするのか、まだ決めてはいませんでした。頭の中にあったのは、ワクワクすることを創造して、それを世の中に届け、大勢の方々にワクワクしてもらうこと。そして、自分たちもワクワクしながら、さらなるワクワクを深掘りして新たに提供していく。そうしたサイクルを続けていく事は決めていました」

趣味のマラソンやサーフィンで体を鍛え、スポーツマンらしい精悍な顔立ちに笑みを浮かべながら語るのは、横浜に本社がある「和久環組」の鎌田友和社長だ。そうした鎌田社長の話を聞いていると、「それってどういうこと? 何だか面白そうだな」とワクワクした気持ちになってくるから不思議だ。

もう察しがついているかもしれないが、社名の「和久環組」は「ワクワク」と読む。「和」は「和を以て貴しとなす」の「和」。そして「久」は「永久」、「環」は「循環」、残る「組」は「組織」から取った。「ワクワクを創造することに共感・共鳴する仲間が集まって、お互いに理解・調和しながら、ワクワクを永久に循環させていく組織でありたい、という思いを込めて名付けました」と鎌田社長はいう。

具体的な事業を決めていなかったものの、鎌田社長には人をワクワクさせる事業を創造するしっかりとした土台があった。もともと起業を目指していた鎌田社長が2000年の大学卒業時に選んだ就職先が、横浜を拠点する総合不動産商社だった。

「起業するためにはセールスの力を身に付ける必要があると考えてました。真の実力を養うのには、あえて売りにくいモノで挑戦したほうがいい。そして、一般消費者向けの商材で一番高いモノとして真っ先に浮かんできたのが不動産でした。当時、数ある不動産ベンチャーの中でも圧倒的な会社の勢いに圧倒され、横浜の不動産会社で共に成長することで経営者に求められる資質も磨けると考えました」と話す鎌田社長は、販売に携わるようになると瞬く間に頭角を現し、入社4年目にはトップセールスとなる。そして、28歳のときに、最年少支店長に就任。

実は、この28歳という年齢は、鎌田社長が当初のライフプランで起業の目標としていた時期だった。「しかし、自分の人生を賭けてまで成すべきことが見えていませんでした。不動産市況はとてもよく、不動産業会で独立するのなら応援するという人も多くいましたが、自分が起業の先に本当にやりたい事は何なのか?どこか違和感を感じていました。そこで、20代での起業は一端延期して、働きながら『一生の人生掛けて何のために起業するか』を模索し続けたのです」と鎌田社長はいう。

「ワクワク」──。それだけ聞くと軽い言葉のように思えるかもしれないが、鎌田社長がそうやって何年も思案を巡らす中で生まれた、思い入れが深いキーコンセプトなのだ。起業時に具体的な事業計画を持ち合わせていなかったのも、「飛ぶ鳥跡を濁さず」を実践し、前職の要職を滞りなく引き継げるようにすることに精一杯だったから。「ワクワク」という不動の〝軸〟を打ち据えた鎌田社長には、焦燥感など微塵もなく、それこそ「何をしようか」とワクワクしていたのだろう。

世界中の耳目を集める発明・発見は、何も突拍子もないアイデアから生まれるのではなく、目の前に存在する〝平凡〟なモノ同士の〝非凡〟な組み合わせによって生まれるものだといわれる。鎌田社長の場合、画期的な第1弾のワクワクは、フィールドにしてきた不動産市場における「中古物件」と「リノベーション」の組み合わせによって生み出された。

「戦後、日本では官民揃って新築の持ち家政策を進めてきました。そこでは平均所得の人が買えるように、住宅の工業化が進み画一的で同じ外観、同じ間取り、同じ設備で、建築コストを下げる事が出来て、多くの方が持ち家を持つ事が出来るようになった。そして、それが当たり前と思ってきました。しかし、100人いれば100人それぞれ趣味や嗜好・価値観が異なるように、暮らし方だって100通りあるはずです。衣・食・住で一番高価な住宅が一番不自由なのはおかしい。だったら、人口減少時代を迎えて空き家問題が社会問題化され、市場に数多く出てくるようになった割安な中古物件を、自分たちが好きなように顧客を出発点としてリノベーションする事ができたら、毎日の暮らしの中にワクワクを提供することができると考えたわけです」

が、「言うは易く行うは難し」で、中古の好物件があっても、設計や仕様、見積もりの手間で1カ月近くもかかると、その間に他の人に買われてしまう。そこで、あらかじめ自然を感じられる「オーガニック」、北欧風の「ノルディック」など7つのデザイン案を用意して、リノベーションした空間をイメージしやすくしたうえに、築年数や建坪などの条件を入力すると見積もり金額とともに、住宅ローンを利用した場合の月々の返済額まで瞬時にわかる「BeatHOUSE」のサービスメニューを開発し、起業から3カ月後の9月に立ち上げた。

ただし、起業時の手持ち資金では、派手な広告宣伝は打てない。フェイスブックで自分たちの思いや日々の活動を伝えていく中で、翌月に60代の夫婦の茅ヶ崎にある中古戸建住宅の「仲介+リノベーション」が初の成約案件となった。それから徐々に口コミなどで認知され、「今年の7月には一時受注をストップして、『受注半年待ち』をお願いしていました。しかし、現在は人員増強・組織体制強化し、その問題は解消済みです」と鎌田社長は話す。

周辺事業から未知なる領域へ決して尽きることのないワクワク

「BeatHOUSE」での成約実績は16年5月期末で累計約300件になる見通しだ。その顧客たちの共通点として〝熱狂〟してもらえることがある。「家の中にバーがほしい」というもてなし好きの女性の築40年の団地の施工実績の写真を見せてもらうと、アイランド式のキッチンの片側がモザイクタイルで仕上げられたカウンターとなっていて、その前にはアクリル製のカウンターチェアが並んでいる。そのスタイリッシュバーのような空間を実際に目の前にして、顧客の女性は「わぁー、素適!」と声を発したのだろう。BeatHOUSEの特徴として、感激して涙を流す顧客も多いという。

しかし、そうしたワクワクを日本全国の暮らしの中に届けようとしたら、和久環組だけの力では難しい。鎌田社長は「実績を積みながらノウハウが蓄積された段階で、ボランタリーチェーン(VC)での全国展開を考えていました」という。そして、そのVCの本部機能として14年8月に子会社として設立したのが「リノベ不動産」だ。

もともと、不動産市場で業者が中古物件を敬遠してきた大きな理由が「手間が掛かる割には収益性が低い」こと。中古の場合は新築と比べ、場合は取引価格が低いうえに、収益は3分の1程度に落ちてしまう。

しかし、「BeatHOUSE」の一社完結ワンストップサービスプランを利用して、中古物件の仲介とリノベーションを組み合わせれば、トータルで〝利〟を確保できる。その結果として新築物件を扱うよりも約2倍の収益をあげられるのだ。折しも空き家の急増が社会問題となっており、中古物件の需要を喚起する点で社会的な貢献につながる。つまり、「売り手よし、買い手よし、事業者良し、世間よし」の「四方よし」のビジネスモデルでもあるのだ。

「現在、北は札幌から南は熊本まで、参加企業は40社を数え、その内訳は建設会社と不動産会社が半々です。建設会社は不動産の集客や営業ノウハウ、不動産会社は設計や施工のノウハウに乏しいケースが多い。そうした足りない部分を補い、自社で仲介から施工まで一貫してできるようにするのが、私たちのVCなのです。施工事例だけでなく、仕様書の内容までを全参加企業の間で共有し、ノウハウをお互いにシェアすることで、新たな住宅購入の選択肢として、事業者が1つでも多くの暮らしの中にワクワクを提供できるように工夫しています」

名古屋、大阪、博多、そして地元の横浜で加盟募集セミナーを積極的に展開しており、今期末時点での参加企業100社に達する見通しだ。そして、鎌田社長は近い将来に300社規模まで拡大する構想を持つ。また、それに伴って高まってきたスケールメリットの購買力をフルに活かして、独自に開発した床材や家具、キッチンなどのVC向けの卸売りもスタートさせ、異なる周辺事業の強化も図っている。

一方、顧客が気にする住宅ローンついて鎌田社長は、「これまで、不動産部分は住宅ローンの対象になるものの、リノベーションについては金利が住宅ローンの約4倍近い既存の『リフォームローン』で組まざるを得ないことが多かった」という。そこで、メガバンクやノンバンク、信販会社等の金融機関と提携して、リノベーション費用も住宅ローン並みの低金利で融資を受けられるように万全の体制を整えている。

中古物件の仲介からリノベーション、インテリア、ファイナンスまでの〝ワンストップソリューション〟によって、日々の暮らしにワクワクを提供する唯一無二の存在となっている和久環組。その強みをいかんなく発揮することで、今期の予想売上高は前期比3.2倍の30億円へ急成長が見込まれている。

しかし、鎌田社長は現状で満足するつもりはない。なぜなら、冒頭でも紹介したように、さらにワクワクすることを深掘りしては、新たに提供していくことを永久に続けていくのが、起業の目的だったからだ。起業家なら気になるIPOについても、「自分たちの目指す世界に必要であれば、一つの手段として活用を検討したい」という考えにとどめる。

このように自分の軸を決してブラさないところが、鎌田社長が並み居る起業家と大きく違う点だ。「初志を大切に」とよくいうが、目先の成功に気をよくして、その「初志」を忘れてしまい、やがて壁に直面する起業家がいかに多いことか。軸をブラさない限り、1つの成功の先に次なる大きな夢が見えてくる。「社会から生かされてる」事を肝に銘じ、無限の可能性・夢に対して、顧客へワクワクが提供出来ているか否かを見失わず挑んでいけば、自分たちの〝成長曲線〟はどんどん上を目指すようになる。鎌田社長は和久環組を、「暮らしの中にワクワクを提供する総合サービスプロバイダー」として位置付け、「ワクワクプラットフォーム」を創り「世界中のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を最大化させていきたい」と夢を語る。

最近はアウトドアブランド「スノーピーク社」と提携し、アウトドア感覚のライフスタイルを日常の暮らしに持ち込む、暮らし方の固定概念を壊すチャレンジをスタート。そして、次なるワクワクとしてお目見えするのが、12月に横浜市内の白楽にオープンする「睡眠パッケージルーム」だ。近い将来には「ウェアラブルのアプリを利用して、その時々の体調や気分に合わせた、温度、湿度、照度、音、香りなどの調整をITで繋ぎ、誰もが「楽・眠」できる寝室空間を創ります。日本や先進国では3人に1人は睡眠障害といわれています。質の高い睡眠を取ることできれば、気力も体力も充実して、ワクワクした日々を過ごせるでしょう」と鎌田社長は話す。リノベーションにオプションで組み込むこともできるし、海外にも提供していけそうだ。さらに、鎌田社長の目線の先には、食品、ヘルスケア、スポーツ、環境といった領域でのワクワクも浮かんでいるようだ。

いま、鎌田社長にとって何より心強いのは、起業したと際に1人のみだった同じ〝軸〟を持つメンバーが、いまでは40名に増えていることだ。「そのうち不動産経験者は3人だけ。ベルギーで宝石のバイヤーをしていた者、航空会社で旅客サービスをしていた者など、まさに多士済々のメンバーです。会議が終わった夜8時以降、都合がよければオフィスのショールームで、ケータリングの食事を囲みながら、皆で『将来、こうなったら面白いね、ワクワクするね』と話し合っています」と、鎌田社長は目を細めながら語る。

ワクワクの語源は、水などが地中からこんこんと湧き出すことだという。これから一体どのようなワクワクが和久環組から湧き出してくるのか、楽しみが尽きることはなさそうだ。そして、それらワクワクで世界中の人々を魅了しながら、不動産会社という枠組みでは捉え切れない〝未知なる会社〟へどう変貌していくのか、目が離せそうにない。