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最初の起業に失敗、「仕事で人の役に立とう」と再出発

株式会社クラウドワークス 吉田浩一郎社長 記事サムネイル画像

日本最大級のクラウドソーシングサイトに発展

最近、「クラウドソーシング」という言葉を、よく耳にするようになったのではないだろうか。
クラウドソーシングとは、簡単に言えば、ネットを通じて、業務を外部のおおぜいの人に委託すること。例えば、新商品の商品名やロゴを社内で募集しても、アイデアを出せる人数には限りがある。社外の人からアイデアを募集すれば、さまざまなアイデアが寄せられるのを期待できる。そうした仕組みをシステム化して、業務を発注するクライアントと業務を受注する個人事業主を、サイト上でマッチングするサービスを提供しているのがクラウドワークスだ。

現在、登録会員数は70万人以上で、クラウドソーシングのサイトとしては、日本最大級に成長しているという。

基本的なビジネスモデルはこうだ。クライアントは、業務を請け負ってくれる個人事業主をサイトで募集する。個人事業主が応募してきたら、条件を交渉し、合意できたら契約。業務が完了したら、報酬を支払う。個人事業主は、クラウドワークスに手数料(システム利用料)として、報酬の5~20%を支払うという流れだ。委託できる業務の種類は、ホームページやアプリの制作など188種類。登録している会員はシステムエンジニア(約12万人)、Webデザイナー(約13万人)など、ネットを通じて仕事のやり取りができる職種が多い。そのほか、大企業向けには、エンタープライズサービスを展開しており、複雑・大量の業務の分解、会員への発注、成果物の質と納期の保証まで一貫したサポート体制を整えている。

クラウドソーシングの利点は、労働のマッチングがネットを介して全国レベルに広がること。これまで“1対1”の取引にほぼ限られていたクライアントと個人事業主の関係が、“多対多”の関係に転換するわけだ。

クライアントは、新しい委託先を探しやすいし、急いで仕事を頼みたいときでも、引き受け手を簡単に見つけられる。取引ルートが少ない中小企業の利用が多いように思われるが、トヨタ自動車、ソフトバンク、ヤマハといった日本を代表する大企業も利用している。また、6省庁、30~40の地方自治体の利用実績もある。

ポテンシャルのある個人事業主なら、今まで接点のなかったクライアントを開拓し、ビジネスチャンスを拡大しやすい。実際、最高で年収2000万円を稼ぐ会員もいるという。地方在住の主婦、シニア、ハンディキャッパーでも仕事ができる。時間の空いたとき、サイドビジネスを探すのにも向いている。「埋もれていた労働力を引き出すことができる。日本の働き方革命につながりますよ」と、同社の吉田浩一郎社長は意気込む。

吉田社長が、クラウドワークスを立ち上げたのは2011年。しかし、そこに至るまでには、さまざまな曲折があったそうだ。吉田社長は大学卒業後、パイオニアに就職。「学生時代、演劇に熱中していたのですが、舞台で音響機器に興味を持ったのがきっかけ」と語る。カーナビのトップセールスとなるなど営業でたちまち頭角を表すが、2年後には展示会ビジネスを展開する外資系のリードエグジビジョンジャパンに転職、4年間在籍した。「当時、展示会ビジネスは定着しておらず、営業も新規開拓が求められていました。パイオニアではルートセールス中心でしたが、環境が変わっても自分の力が通用するか試したかったんです」(吉田社長)。そこでも手腕を発揮し、マネージャークラスまで昇格するが、マネジメントを経験したことで、今度は企業経営に関心が向く。「大前研一さんの起業家養成スクールに参加したんですが、ITビジネスの将来性に目を見開かされました。そのときの縁で、ドリコムが営業担当の幹部を探していることを知り、移籍したんです」。

執行役員としてドリコムのIPOにも携わったあと、08年には起業を果たす。しかし、ベトナムのアパレル事業などさまざまなビジネスを手がけたのだが、なかなか軌道には乗らなかった。「ビジネスがうまくいかないと、その穴埋めのために、別のビジネスに飛びつくという繰り返しでした」と、吉田社長は振り返る。「僕は、仕事をするときは退路を絶って自分を追い込み、わき目も振らずに打ち込んできたので、営業成績はよかった。しかし、人の上に立ったとき、マネジメントで失敗しました。仕事を任せられなかったんですね。それで、下の人たちが離反してしまったのだと思います」

会社に見切りをつけたほかの役員や社員が出て行ってしまい、吉田社長は一人、取り残された。大きな挫折だった。ところが、そこへ拾う神が現れた。

「ちょうど年末で、誰もいないオフィスで茫然としていたところ、お得意先からお歳暮が届いたんです。『こんな僕でも、世の中には感謝してくれる人もいるんだ。少しは役立っているんだ』とジンときました。そこで、GMOの熊谷正寿社長の言葉を思い出したんですね。人の役に立たなければ、仕事をする意味はない。その原点に帰ろうと決意しました。自分にあるのは、ホールセールとITビジネスのノウハウです。それを生かして、社会に貢献できるビジネスモデルをもう一度、作り直すことにしたんです」

吉田社長にとって第2の創業だった。クラウドワークスの誕生である。

個人事業主の与信管理データベースの構築を目指す

新会社を起こすのに、吉田社長は残りの全財産をつぎ込んだというが、それだけでなく、外部から出資を募ることにして、投資家の元を行脚した。

「第1の創業のときは、自己資金と公的金融機関からの融資でまかないました。自分で好きなようにお金を使えますが、大きな欠点があります。それは、どうしても独りよがりの事業になってしまうことです。間違ったことをしても、自己批判して軌道修正するのが難しい。それに対して、投資家は、事業計画に納得しなければ出資しないし、事業内容を冷静に判断して、間違ったことをすれば、経営者に厳しく注文をつけてきます。お目付け役として、ありがたい存在なんです」

実は、クラウドソーシング事業に乗り出したのも、出資してくれたサイバーエージェントから、有望なITビジネスとして勧められたのがきっかけだったという。

吉田社長は、クラウドソーシングという生まれ立ての事業を育てるため、大企業との関係強化に力を注いだ。

「日本のビジネス社会では、大企業の信用は絶大です。海の物か山の物かわからないベンチャーを確実に成功させたいなら、まず大企業からお墨付きを得ることですね」

サイバーエージェントをはじめ、電通、テレビ東京、ベネッセコーポレーションなどと矢継ぎ早に提携。名だたる大企業をクライアントとして取り込んだのもその一環だ。14年12月には、早くもマザーズ上場を果たしているが、「社会的信用を得るのが最大の目的でした」。とりわけ、伊藤忠商事グループが第三者割当増資に応じてくれたのが大きいという。それ以降、クラウドワークスの信用は一段と高まり、サイトの利用に弾みがついた。

現在、総契約額(会員が得た報酬の総計)は20億円規模だが、早期にこれを100億円規模まで拡大させるのが、吉田社長にとっての最大の目標だ。そこで、既存会員がより快適にサービスを利用していただくとともに、新規会員の獲得も目指し、10月には、タスク形式の仕事の手数料無料化に踏み切った。実は、クラウドワークスは上場以降も赤字が続いているのだが、出血覚悟で追加の先行投資をしている。それには壮大な狙いがあるからだ。

「サイトに蓄積された個人事業主の業務経歴、クライアントからの評価といった情報を、データベース化したいんです。法人の与信管理には、登記簿や調査機関のデータベースなどが活用できますが、個人の与信管理ツールは今のところ、ないんですね。クラウドワークスのデータベースができれば、新しい社会インフラになると考えています」

吉田社長は、「上場はゴールではなく、通過点に過ぎない」と、自戒を込めて力説する。

「例えば、マザーズ上場企業は約200社ありますが、その中で時価総額が1000億円を超えている企業はたった2%だそうです。それなりの業績を挙げている企業も多いはずですが、社会からの評価は高くない、やるべきことが多いということです。僕の場合、上場してみたら、やるべきことが山のように見えてきてしまったのが実感ですね。光武帝(古代中国の皇帝)が言った『志ある者は事ついに成る』を座右の銘にしているのですが、企業は、経営者の志が小さければ、小さいままで終わってしまう。経営者は、大きな志を抱いて、まだ見ぬ高みを目指してチャレンジしなければならないと考えています」