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理念で勝負しつづけて、マザーズ上場 不動産売買仲介専門FC1000店舗めざす

株式会社ハウスドゥ 安藤正弘社長 記事サムネイル画像

60人の新卒社員が1年以内に全員退職

社員の相次ぐ離職は創業期のベンチャー企業に共通した悩みだが、今年3月に東証マザーズに上場したハウスドゥの前身・アップリフォームジャパンの場合、それが極端な形で露呈した。1991年に創業した同社では、社員の出入りがなかなか落ち着かず、新卒採用で体制を固めようと方針を定め、経常利益が1億円を超えた4年目に新卒60人を採用した。

ところが1年以内に全員が退職し、その翌年も同じく60人の新卒を採用したが、またしても1年以内に全員が退職したのだった。入社前に知らされた就労環境と現実が、あまりにもかい離していたとしか思えない。

「仕事が楽で、儲かる事業であるとハードルを下げて説明をしたら、計画した採用数を確保できた。しかし、入社してみたら、現実はしんどいじゃないか・・・と。新卒採用には数千万円の費用がかかったが、無駄になってしまった」。

そう語る創業社長の安藤正弘氏は、この原体験からか、成長の原動力を尋ねると「人材の強化に力を入れてきたこと。よい人材を揃えないと何もできない。このことは『ビジョナリーカンパニー2-飛躍の法則』にも書かれてある」と即答した。決め手は採用である。

作文テストで健全な価値観の有無を判断

2年連続で新卒採用に失敗した教訓は、次の年に活かされた。一次選考は10人単位の面接を実施して、NHK番組「プロジェクトX」の録画を見せ、安藤氏が同社の理念や価値観を話す。二次選考はフリートークで、最終選考では「『大企業に入るよりも、いっしょに大企業をつくろうよ』と入社を口説いた」(安藤氏)。この取り組みは、やがて「日経ビジネス」の「採用試験を受けた先輩が勧める企業」ランキングで32位、建設・不動産・エネルギー業界では5位にランクされるほどの成果を生んだ。

では、同社にとって「よい人材」とはどんな像なのだろう。安藤氏の考えはシンプルである。「健全な価値観を持った人間性を重視している。これが欠けている人は社内をギクシャクさせて社風を悪化させ、周囲がマイナスのエネルギーを費やしてしまうことになる」。
健全な価値観を見分ける手段は作文で、テーマは「親の人生観」。客観的な記述にとどまっているか、それとも親の人生と自分との関係をひもとき、感謝の思いが込められているか。その如何で人を愛し、健全な人間関係を築けるかを判断している。

経常率3.5%、自己資本比率17.6%で目標値に接近

アップリフォームジャパンを前身として、ハウスドゥは2009年に設立された。経営指標の目標値は売上高経常利益率5%以上、自己資本比率20%以上で、2014年6月期はそれぞれ1.5%、9.4%(2億400円)だったが、15年同期には3.5%、17.6%(5億1300万円)と目標値に近づきつつある。
15年6月期の売上高145億7300万円の構成比は、フランチャイズ(FC)事業10%、不動産事業50%、住宅流通事業40%。FC事業では元ヤクルト・スワローズ監督の古田敦也氏を起用したCMなどの広告宣伝効果に、マザーズ上場による企業ブランド価値の向上が加わって加盟店が増加し、加盟店舗数は15年8月末時点で321店。不動産売買仲介専門店FCとしては全国最大の店舗数である。加盟店には建築、リフォーム、建材、司法書士など異業種が約70%を占め、2025年に1000店舗達成をめざす。

不動産事業では14年4月~15年3月の売買仲介数が1万3023件を記録し、住宅新報社の「主要各社の2014年度仲介実績」によると全体で5位、独立系グループでは1位にランクされた。直営店エリアに仕入担当者を増員して、仕入れを強化したことが販売にも寄与したのだ。さらにハウス・リースバック事業(賃貸事業)では、FC事業と同様にブランド価値が追い風となって昨年度に56戸を取得し、累計取得戸数が68戸に達した。
一方、住宅流通事業は消費増税や建築コスト高騰の影響を受けたものの、売買仲介事業との連動などで受注件数、完工件数ともに微増した。
「住まいのワンストップサービス」モデルを構築する中で、今後、重点的に強化する事業はFC事業とハウス・リースバック事業である。ともにストック型ビジネスなので、安定収益基盤として拡充を図っていく方針だ。

人生の目標を見つめ直して「理念で勝負」と決意

こうした実績の遠因を探ると、安藤氏の渇望感に辿り着く。安藤氏が30歳のとき、アップリフォームジャパンの経常利益は1億2000万円に達していたが、「決して満足できず、モヤモヤしていた。利益を上げることが人生の目標だろうか、本当の目標は他にあるのではないかと直感的に疑問をもった」。そこで日本創造教育研究所(大阪府吹田市)のセミナーに通い、潜在意識を見つめ、以下の理念をまとめあげた。
企業理念「お客様の豊かさ、社員の豊かさ、社会の豊かさを常に創造し、末永い繁栄と更なる幸福を追求します」。経営理念「お客様から必要とされ、お客様へ尽くします」。ブランド理念「私たちは日本の住宅市場をオープンにし、お客様のライフステージに即した理想の住宅を積極的に住み替えたりできる『住まいの新しい流通システム』を築きます」。
以来、「理念で勝負する」と決意した安藤氏は、不動産業界の健全化を心から望み、人生を賭けて実践してきたという。毎朝、社内では、安藤氏がみずから実践している考え方をまとめた約150ページの冊子を読み合わせしている。
この体験から、若い世代のベンチャー企業経営者にも「本当にやりたいことは何か、事業の真の目的は何かを明確にすることが大切だ。理想が高ければ世の中を変えることができる」と力を込めてメッセージを送る。