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専門特化した不動産サービスで急成長海外、シニア、開発と事業領域を拡大中

株式会社S-FIT 紫原友規 サムネイル画像

不動産賃貸仲介会社S-FIT[エスフィット]は社内ベンチャーから発足した。2003年、後に株式上場を果たした不動産企業の専務取締役・紫原友規氏が、6人で立ち上げたのである。リーマンショックを機に親会社が変更、その後11年に、紫原氏がMBOによって独立。個人向け賃貸仲介からスタートした事業は、法人向け賃貸仲介、プロパティマネジメント、さらに介護施設向け賃貸仲介、リノベーション、売買仲介、海外投資家向け事業などにまで拡大した。

売上高は年率30%ペースで増加中

この数年、業績は年率30%ペースで伸び続けている。連結売上高は昨年6月期に44億円を計上し、今年6月期の見込みは58億円。来期は74億円を見込み、18年6月期に100億円を目指す。直近の売上構成比は、プロパティマネジメント50%、賃貸仲介40%、その他売買事業などが10%という内訳で(売上総利益では賃貸仲介が75%)、今後はその他事業を伸ばしてゆく方針である。

成長力にあふれた業績推移だが、紫原氏は「国内市場はやがて成熟化する。しかも今は変化のスピードが速く、先手を打ち続けないと企業はすぐに衰退してしまう」と戒める。

ひとたび上場を経験しているだけに、勢いで邁進するベンチャー企業経営者とは違い、ビジネスモデルのはかなさを熟知しているのだ。

そのうえで紫原氏は、設立当初から強みの確立に重点的に取り組んできた。「後発企業が他社と同じことをやっても勝てないと考えて、強みについて皆でとことん議論し合った。この議論し合う方法は今でも変わっていない」。それぞれの事業で強みを究明し続け、具現化したことは何よりも業績が物語っている。

法人向け賃貸は仲介件数8000件、契約率90%

具現化の例を挙げれば、個人向け賃貸仲介では「借主目線で借主側に立った不動産店舗にすること」。都内に10店舗運営する「お部屋探しCAFEヘヤギメ!」は顧客が入りやすいようにビル1階に入居。外から店内全体が見えるように設計し、店内はカフェのような内装を施している。

取り扱い物件数が多いのも借主目線の実践である。各店舗とも自社物件に加えて地域の不動産会社、管理会社から毎日200件以上の物件情報を入手している。

一方、法人向け賃貸仲介では、クイックレスポンスと顧客企業の社内規定にまで踏み込んだ対応が特徴だ。問い合わせが入ったら1時間以内に担当者を決めて返答する「1時間ルール」、24時間以内に物件を紹介する「24時間ルール」を徹底させ、顧客企業ごとに賃料の会社負担額と駐車場の有無などを把握した上で、スペックに合致した物件に絞り込んで紹介している。

さらに家主と交渉して仲介手数料の軽減や、退去日の2カ月前通告規定を1カ月前に変更するなど、法人に対しても借主目線に徹しているのだ。顧客である大手メーカーでは、S-FITとの取り引きによって仲介手数料を年間数千万円単位で削減できたという。

この営業手法の特徴は、競争要因を増やしたことにある。大手企業は標準化によるコストパフォーマンスを追求するため、競争要因を絞り込まないと間尺に合わず、同社はその限界を突いたのである。

こうした戦法は相談件数に対する契約率に反映され、個人は55%、法人は90%に達している。法人取引先は「委託先を大手不動産会社から当社へ切り替える例もある」(紫原氏)という過程を経て、約450社に拡大した。昨年の法人顧客の仲介件数は8000件を記録したが、「自社による仲介件数では国内1~2位ではないか」という。

年4回の人事評価と表彰制度で年間離職率10%台

これだけを見れば戦略の奏功だが、そのためには社内の人心の安定が必須である。社員の入れ替わりが激しい不動産業にあって、紫原氏は業界体質を是認していない。「業績が悪化するとしたら市況などの外部要因でなく、組織の崩壊など内部要因による」と認識して従業員満足を重視し、年4回の人事評価や表彰制度等、従業員のモチベーション向上に取り組んでいる。こうした様々な施策により、近年の年間離職率は10%台で推移している。

この人事は、社員を経営の中心と考える人本主義経営の実践とも言える。人本主義は1987年に一橋大学教授の伊丹敬之氏(現名誉教授)が著書『人本主義企業』で提唱した概念で、実態は離職率に端的に現われる。離職率の評価基準は業種によって異なるが、それでも毎年10%をはるかに超え続けていれば、多くの場合は組織に求心力が働かず、つねに瓦解のリスクをはらんでいると見てよい。

同社は今後、先にふれた海外事業のほかに、介護関連事業を本格化する。すでに住居にデイサービスを併設した賃貸物件を20棟建設したが、新たに高齢者向け賃貸マンションを展開していく。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は家賃負担が重いという現状を踏まえ、月額賃料10万円程度の物件を開発し、1階には訪問看護ステーションを配置して健康相談や安否確認などを行う構想だ。

何年後に株式上場を計画しているのだろうか。

紫原氏が即答した内容は意外だった。「上場を資金調達の手段のひとつとして視野には入れているが、中期経営計画には盛り込んでいない」。しかし一方で、自己資本比率をもっとも重視する経営指標ととらえ、利益率にこだわった経営をすすめている。

昨今、紫原氏は日本を空けることが多い。シンガポールと台湾に設立した現地法人を拠点に、日系企業の現地でのオフィス確保や、日本国内の不動産を対象とした海外投資家の開拓などを精力的に進めているのだ。

そうした日々から「休日にはゴルフをやって、そして2人の子供たちと過ごしたいのだが、どちらもできていない・・・」。満足感が公私におよべば申し分ないのだが、現状ではこれがやや不足しているようだ。

取材・文/経済ジャーナリスト 小野貴史