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インバウンド対応は目的ではない。内需活性化のための必要条件の一つだ

株式会社ドン・キホーテホールディングス 大原孝治社長 生地サムネイル

「すべてはお客さまのために」を経営命題に掲げ、インバウンド市場がもてはやされるはるか以前から、訪日観光客を意識した快適な買い物空間づくりを実践してきたドン・キホーテグループ。訪日観光客の2人に1人は同店を利用すると言われる昨今でも、さらなる利便性、快適性の提供を目指している。同グループを率いるドンキホーテホールディングス代表取締役社長兼COO大原孝治氏が国内市場活性化のための方向性を語る。

ドン・キホーテグループが擁する国内小売店舗数は275(2015年3月5日時点)。うち免税店は264店舗にのぼる。インバウンド売上げ(免税売上額)は、昨年(14年)10月〜12月のドン・キホーテの売上げの2・6%を占め、15年1月には3・2%に達した。中国人観光客が大挙して日本を訪れる春節(中国の旧正月)に当たる2月、3月は、さらなる売上げアップとなって現れた。

旅行代理店700社と“ドン・キホーテに買い物に行く旅”を企画

日本政府観光局(JNTO)によれば、昨年の訪日外国人観光客数は過去最多の1340万人。アジアからの旅行者、なかでも中国人観光客の伸びが目立っている。そんな中国人観光客の間では、“日本に行ったら、ドン・キホーテに行け”と口コミで広まっているという。とにかく、免税(消費税がかからない、TAX Free)であるのももちろんだが、圧倒的な商品数と品ぞろえ、激安をうたい、エンターテインメント性を意識した店づくりが彼らの買い物心をわしづかみにしているようだ。

免税店の先駆けとなったドン・キホーテだが、それは、けっして近年の外国人観光客の急増を見越しただけのものではない。新宿店を例にとれば、エリア内に在住の韓国人が多く、その人たちを頼って観光や勉強に訪れる韓国の人たちも多い。また、中国では早くから財団を通じて奨学生制度を設けるなど、昔からの深いつながりがあり、中国人が新生活を始める際に一通りのものを新宿店でそろえることが多かったという。もともと、顧客のニーズにあわせて免税免許を取得し便宜を図っていたところに、「インバウンドブームが追い風となってきた」とドンキホーテホールディングス代表取締役社長兼COOの大原孝治は表現する。

ドン・キホーテが現在、主要顧客対象としてとらえているのは、中国を筆頭に、台湾、韓国、タイの4つの国・地域だ。提携している国内外の700社のうちいくつかの旅行代理店とは〝ドン・キホーテに買い物に行く旅〟を企画し集客に取り組んでいる。今年2月には、事前に商品を予約しておき、全国のドン・キホーテのなかから指定した店舗に受け取りに行けるサービスを開始、その名も「ウェルカム予約サイト」を立ち上げた。

“顧客最優先主義”が導いた
アジアからの旅行客への対応

中国人の日本観光ブームについて、大原社長は以下のように見る。

「旅行という名の〝買い物〟だととらえています。つい7、8年前までの日本人が香港に買い物に行って、そのついでに百万ドルの夜景を見て帰ってきた。いまの中国人も同じ、観光は買い物のついでです。しかも、このブームは、いまはじまったばかりに過ぎない」

『ウェルカム予約サイト』は、そういう中国をはじめとするアジアからの訪問客の買い物のための時間短縮を手助けしようとの発想から生まれた。さらに、同サイト開設と前後して、中国人が最も多く支払いに使用するクレジットカード銀聯カードでの決済も全店舗で取り扱うことにしたばかりか、国内初『外貨によるレジ精算サービス』(円と併用して中国元、台湾ドル、韓国ウォン、タイバーツ、香港ドル、米国ドルおよびユーロでの支払いが可能)を開始した。円と自国通貨を併用した支払いが可能となれば、円を最後まで使い切ることができ、さらなる商品の購入機会が増える。

「われわれは、顧客最優先主義ですから、日本人であろうと外国人であろうと、そのニーズに応えていくのが使命です。お客さまの欲しい物も日々変っていきますから、それに応じて品ぞろえを変えたり、POPを付け替えたりするわけで、インバウンドのお客さまが増えていけば、そのニーズに愚直に応えていくだけです」

と語る大原社長だが、一方で、アジアからの旅行客の増加を「内需のために活かすことが企業の使命であり、アベノミクス第三の矢の必要条件の一つ」ととらえている。

2020年は観光立国日本の
通過点に過ぎない

アジアからの旅行客の取り込みを「日本という国がいまやらねばならないこと」と強調する大原社長。2020年東京オリンピック・パラリンピックについて尋ねてみると、必ずしも楽観的な見通しを持っていない。

日本には素晴らしい観光資源があり、それを活用していくべきだが、そのインフラは欧米並みにもなっていないというのだ。ホテルのシングルルームの広さ、室数、料金についてもしかり。欧米人を呼び込むにはまだまだ彼らのスタンダードにすら達していない。だから「20年は観光立国日本の通過点に過ぎない。そこからが真のスタートだ」と。

大原社長は日本商業施設の会長も務めるが、現在の課題として、観光の出入り口である空港内のテナントがインバウンド対応になっていないことを指摘する。「例えば、イミグレーションを過ぎた後に海外の香水や酒が売られている現実はおかしい」と。

「日本国内の国際空港はあくまで日本人のソリューションになっている。まさしくアウトバウンド対応ですよね。今後のロビー活動を展開していくうえでの課題です」

訪日外国人観光客が14年に使った額はおよそ2兆円。日本のGDPの0・4%に相当する。しかも、その使途内訳は、かつては宿泊、物販の順であったものが、現在では物販が宿泊費を上回る。13年の訪日外国人観光客は1036万人、そのうち約半数の550万人が来店したというドン・キホーテ。その総帥である大原社長の、「あくまで本業である物販に特化して」いくというぶれない姿勢の一方で「官民一体となって、国益につながる努力をしていきたい」という力強い言葉に、日本の歩むべき道が示唆されている。