三菱商事とRHJインターナショナル(旧リップルウッド・ホールディングス)との共同出資で2008年に設立されたシグマクシス。
顧客の価値創造に際し、必要とされるアセットを最適かつ自由自在に組み合わせながらソリューションを提供することで、従来型のコンサルティング会社とは一線を画し、2013年には東証マザーズへの上場もはたしている。
M&A戦略立案と実行支援は主要サービスの1つであり、昨年10月には専門チームを独立させる形で株式会社SXA(以下SXA)を立ち上げている。そのSXAを率いるマネージングディレクターの岡山太郎氏は、M&A市場の現況について次のように語る。
「市場全体を見ているわけではありませんが、M&Aを活用した新規分野への参入を検討してきた会社が、ようやく実行段階に入り始めました。海外でも成長が頭打ちになっている企業が多くなっており、既存事業の左右隣りのいずれかの分野がM&Aのターゲットになっています。これが国内となるとさらに状況は厳しくなっており、向こう隣りの分野を狙うM&Aも増えている状況です。」
水面下で着実に案件が増えている医療法人関係のM&Aに注目
そんななか、SXAがいま注目している分野が医療法人関係のM&Aだ。65歳以上の高齢者が全人口の25%という超高齢化社会を迎えたうえ、アベノミクス第3の矢である成長戦略のなかに医療が組み込まれ、これから大きな成長が期待されている。ただし、株式や配当といった概念のない医療法人は連結決算の対象とならない。
このため事業会社がM&Aをしても「提携先」として発表され、人目を引くことはあまりなかった。しかし、水面下では着実に案件が増えているという。
「医療法人間のM&Aはもちろんのこと、大手の事業会社で医療法人のM&Aに特化するようなところも現れるようになっています。医療報酬の改定という不安定要素があるものの、事業として見ると利益をあげる余地が十分に残されており、有望なM&Aの対象になっているのです。特にクリニックの集合体である医療法人のM&Aに対する問い合わせが増えています。地方のクリニックではドクターの高齢化が進み、大勢の患者さんがいるのに診療体制の維持が問題になっているところ増え始めました。継承という観点からもM&Aが活発になっていくのではないでしょうか」
岡山氏によると、海外のM&Aに目を向ける中堅・中小企業も増えているそうだ。それもかつてのような香港やシンガポールではなく、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオスといった東南アジア諸国が多くなっている。大手商社以外にはあまり注目してこなかった南アメリカやアフリカでのM&Aを検討の対象にする、先駆的な経営者も出てきているという。着実にM&Aの市場は変わりつつあるようだ。
内製化を可能にする多彩な人材が特徴
前回、SXAはシグマクシスのM&Aの専門チームが子会社とした組織である、と紹介したが、もともとコンサルティング会社でM&Aの実行までを自ら手掛ける会社は他にはなかった。
より包括的なM&Aサービスをワンストップで提供する体制を構築するべく、投資助言・代理業の「T-Modelインベストメント社」を買収し、2014年10月からSXAとして新たなスタートを切った。
同社の特徴としてまず筆頭にあげられるのが多彩な人材だろう。投資銀行部門で国内外のM&Aに携わった経験を持つマネージングディレクターの岡山太郎氏をはじめ、元日本銀行のエコノミスト、投資ファンド出身者、公認会計士、税理士らM&Aの業務に関するプロフェッショナルたちが揃っている。10月1日からは財務・税務デューデリジェンスの内製化も可能になっている。
競争力を高めて成長したいと考えるお客さまにとって価値の高いM&Aを
また、通常のM&Aファームはセルサイドにつくことが多いのだが、SXAでは基本的にバイサイドにつく。本体のシグマクシスの各産業のスペシャリストたちと連携することで、M&Aに対する具体的なニーズを明確に持つ企業を押さえることができるからだ。
さらに、M&Aの実行と戦略立案を絡めた付加価値の高いサービスを提供することで、新規分野への進出などを成功に導けば、シグマクシスグループ全体で支援できる領域も拡がる。
「わが社はシェア拡大だけを目指した規模重視の大型のM&Aではなく、たとえ案件規模は小さくても、競争力を高めて成長したいと考えるお客さまにとって価値の高いM&Aのお手伝いをしたいと考えています」と岡山氏は話す。
この点において同社が持つ強みは、世界45カ国の100億㌦以下の中規模M&A案件を取り扱う、M&Aファームのアライアンス統括組織である「M&A International」に、日本総代表として2011年から加盟していること。
同社のウェブサイトを開くと、概算売上高60億円のトルコの旅行代理店事業や、同120億円のブラジルの電力卸事業などの案件が並んでいるが、これらは全てそこから寄せられたものである。
「たとえば、エストニアにM&Aを使って進出をしたいという中堅企業がいても、規模が小さければ外資系の投資銀行も国内大手の証券会社も躊躇するでしょう。その点、我が社はエストニアのアライアンス先を通してベストなM&A対象企業を探すことができるのです」と岡山代表はいう。
こうした小回りの利いたM&Aファームの登場は、来るべきM&Aの新しい時代の前兆といえるだろう。